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夏の宴 告白 編
宴17
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親睦会が大盛況で終了し、校庭では生徒会と混凝土研究部員他、少数の男子が後処理をしていた。
近隣に住む通学生以外は、宿泊準備を整えた体育館と多目的会館に、男女別で宿泊する事になっている。寮生達は、宿泊する通学生達に禁止事項や注意点の説明を行なう為、それぞれの施設へ付き添って行った。
寮長とナナラだけが校庭に残り、親衛隊隊長へ土下座をしている。親睦会開催を実現してくれた、生徒会の不利益になる報告は控えて欲しいとお願いしているようだが・・。
ジェイサムがナナラを起こし、微笑んで話しかけたので大丈夫だろう。
「ファウスト、櫓の残り火は完全に消えたようだ。時間をおいて、また確認するが。」
櫓の火を管理していたジェネラスの報告を受け、ファウストが俺達へ振り向いた。
「イコリス、サイナス。後は私達に任せて、帰宅してくれ。今日はお疲れ様。」
「そうか、悪いな。じゃあ帰るか。・・イコリス?」
イコリスの横顔は、思いつめた表情をしていた。
「・・私、皆に言わなければならない事がある・・。」
「今日のお礼を言うのか?」
イコリスは俺へ返事をせず、アッシュに歩み寄った。
「・・アッシュ、シャンス先輩とストライト先輩を呼んで欲しいの・・。」
「分かったアルよ。」
アッシュは炭焼台の方へ走った。
「フラリス、カインとガルディは帰った?あと、エルードも、まだいるかしら・・。」
「彼らは体育館に泊まるから、そこで片付け手伝ってくれてるよー。じゃあ、声かけてくる。」
イコリスの前には、ファウストと五大貴族嫡子全員も集まった。エルードが何事かと不思議そうにしている。
全員の顔を見渡しながら、イコリスが話し始めた。
「ファウスト、アッシュ、・・皆も本当にありがとう。フラーグ学院の校庭で、同級生と一緒に『炎の舞』が見られるなんて・・とても、嬉しかった・・。シャンス先輩とナナラさんの歌も素晴らしくて、凄く感動しました。」
いつの間にかこの集まりに加わって、寮長とイコリスの話を聞いていたナナラが、瞳を潤ませている。シャンスはボロボロと涙を流していた。
「これまで生きてきた中で、今日という日が一番楽しかった。だから・・だからこそ、私は言わなければならない。」
(随分、勿体ぶったお礼だな・・。)
俺は、お礼にしては重々しい言い方を、奇妙に感じた。
「・・本当の私・・真実の姿を・・。」
(・・は?・・)
「私は・・イコリス・プラントリーは・・偽乳なのっっ。」
(ふぁっっ??)
「アイさんやナナラさんみたいに、本当の巨乳じゃないのっ。パッドが左右二枚づつ入っている、偽乳なの・・黙っていて、ごめんなさい・・。」
言い終わるとイコリスは、顔の前に丸い扇子をあてがった状態で深く頭を下げた。意外すぎる告白に、俺は顎が外れそうになっていた。
「・・どうしてパッドを・・?」
豊満な体つきが強制力で平らになったナナラが、困惑しながら訊ねた。
「・・公になっていないけど・・プラントリー一族の女子は、強制力で巨乳を課されているの・・。」
「強制力で巨乳を・・。」
「配られた強制力の一覧表には、プラントリーの巨乳については書かれてなくて・・けど、言い出せなかった。ごめんなさい・・。ナナラさんの歌で、真実を伝える勇気を貰ったわ。ナナラさん、ありがとう。」
「・・私の歌が・・イコリス様に勇気を・・。」
唖然としている男達だったが、ファウストが口火を切った。
「アイのように、混乱を招く強制力じゃないだろう。今迄、公表されてないのに、敢えて一覧表に書いたりはしない。」
「・・でも、皆、私に親切で・・いつも気遣ってくれて・・。偽りの姿の私に・・。だからいつか本当の事を言わなきゃって、ずっと思ってたの。」
「・・・俺は、事前登校から分かっていたよ。イコリスが校門を通った時に、二枚のパッドが光って弾け飛んだのを見たからな・・。それで焦ってるイコリスにドキドキして、あやうく桜を散らすところだったよ。」
「ジェネラスっ。」
真っ直ぐ飾らず、その時の気持ちを打ち明けるジェネラスに、イコリスは感激していた。
「私とチェリンも、最初からパッドが入っていた事は、理解していたよ。」
ラビネがとても言いにくそうに、イコリスへ告げた。
「交流会で会ってから3ケ月しか経っていないのに、急に大きくなるわけが無い事ぐらい、承知していた。・・女性の事情に踏み入ってまで、その場で指摘したりしないものだよ。」
「・・ありがとう、チェリン・・。」
「当然のことだから、お礼なんて言わないで。」
チェリンは参っている様子だが、イコリスの為に笑顔を作っていた。
「ちょっと待って。イコリス様は自分が巨乳だから、皆が親切にしてくれていたと思ってるアルか?」
「そうよ。」
アッシュへ、わかりきっている事を聞かれたかのように即答した。
「はぁ・・イコリス・・そんなわけないだろう・・。」
トゥランが悲しげに溜息をついた。
「えっ?・・・でもサイナスが、巨乳の女性は、男性から優遇されるのが世の常で、絶対的真理だって・・。」
「・・・サイナス?」
ファウストが、今まで見たことのない顔で、俺を睨んだ。
「ふぁっ?偽乳を識別しても、そんな事は言ってないっ。」
「!!。言ったわっ。私が好きだった絵本の物語を、解説したじゃないっ。」
「・・絵本?・・。」
「塔に閉じ込められた女の子を、王子が助けに来た理由は・・乳がでかいからだっ・・て、言ってたわっ。」
「・・・・・あっ。」
近隣に住む通学生以外は、宿泊準備を整えた体育館と多目的会館に、男女別で宿泊する事になっている。寮生達は、宿泊する通学生達に禁止事項や注意点の説明を行なう為、それぞれの施設へ付き添って行った。
寮長とナナラだけが校庭に残り、親衛隊隊長へ土下座をしている。親睦会開催を実現してくれた、生徒会の不利益になる報告は控えて欲しいとお願いしているようだが・・。
ジェイサムがナナラを起こし、微笑んで話しかけたので大丈夫だろう。
「ファウスト、櫓の残り火は完全に消えたようだ。時間をおいて、また確認するが。」
櫓の火を管理していたジェネラスの報告を受け、ファウストが俺達へ振り向いた。
「イコリス、サイナス。後は私達に任せて、帰宅してくれ。今日はお疲れ様。」
「そうか、悪いな。じゃあ帰るか。・・イコリス?」
イコリスの横顔は、思いつめた表情をしていた。
「・・私、皆に言わなければならない事がある・・。」
「今日のお礼を言うのか?」
イコリスは俺へ返事をせず、アッシュに歩み寄った。
「・・アッシュ、シャンス先輩とストライト先輩を呼んで欲しいの・・。」
「分かったアルよ。」
アッシュは炭焼台の方へ走った。
「フラリス、カインとガルディは帰った?あと、エルードも、まだいるかしら・・。」
「彼らは体育館に泊まるから、そこで片付け手伝ってくれてるよー。じゃあ、声かけてくる。」
イコリスの前には、ファウストと五大貴族嫡子全員も集まった。エルードが何事かと不思議そうにしている。
全員の顔を見渡しながら、イコリスが話し始めた。
「ファウスト、アッシュ、・・皆も本当にありがとう。フラーグ学院の校庭で、同級生と一緒に『炎の舞』が見られるなんて・・とても、嬉しかった・・。シャンス先輩とナナラさんの歌も素晴らしくて、凄く感動しました。」
いつの間にかこの集まりに加わって、寮長とイコリスの話を聞いていたナナラが、瞳を潤ませている。シャンスはボロボロと涙を流していた。
「これまで生きてきた中で、今日という日が一番楽しかった。だから・・だからこそ、私は言わなければならない。」
(随分、勿体ぶったお礼だな・・。)
俺は、お礼にしては重々しい言い方を、奇妙に感じた。
「・・本当の私・・真実の姿を・・。」
(・・は?・・)
「私は・・イコリス・プラントリーは・・偽乳なのっっ。」
(ふぁっっ??)
「アイさんやナナラさんみたいに、本当の巨乳じゃないのっ。パッドが左右二枚づつ入っている、偽乳なの・・黙っていて、ごめんなさい・・。」
言い終わるとイコリスは、顔の前に丸い扇子をあてがった状態で深く頭を下げた。意外すぎる告白に、俺は顎が外れそうになっていた。
「・・どうしてパッドを・・?」
豊満な体つきが強制力で平らになったナナラが、困惑しながら訊ねた。
「・・公になっていないけど・・プラントリー一族の女子は、強制力で巨乳を課されているの・・。」
「強制力で巨乳を・・。」
「配られた強制力の一覧表には、プラントリーの巨乳については書かれてなくて・・けど、言い出せなかった。ごめんなさい・・。ナナラさんの歌で、真実を伝える勇気を貰ったわ。ナナラさん、ありがとう。」
「・・私の歌が・・イコリス様に勇気を・・。」
唖然としている男達だったが、ファウストが口火を切った。
「アイのように、混乱を招く強制力じゃないだろう。今迄、公表されてないのに、敢えて一覧表に書いたりはしない。」
「・・でも、皆、私に親切で・・いつも気遣ってくれて・・。偽りの姿の私に・・。だからいつか本当の事を言わなきゃって、ずっと思ってたの。」
「・・・俺は、事前登校から分かっていたよ。イコリスが校門を通った時に、二枚のパッドが光って弾け飛んだのを見たからな・・。それで焦ってるイコリスにドキドキして、あやうく桜を散らすところだったよ。」
「ジェネラスっ。」
真っ直ぐ飾らず、その時の気持ちを打ち明けるジェネラスに、イコリスは感激していた。
「私とチェリンも、最初からパッドが入っていた事は、理解していたよ。」
ラビネがとても言いにくそうに、イコリスへ告げた。
「交流会で会ってから3ケ月しか経っていないのに、急に大きくなるわけが無い事ぐらい、承知していた。・・女性の事情に踏み入ってまで、その場で指摘したりしないものだよ。」
「・・ありがとう、チェリン・・。」
「当然のことだから、お礼なんて言わないで。」
チェリンは参っている様子だが、イコリスの為に笑顔を作っていた。
「ちょっと待って。イコリス様は自分が巨乳だから、皆が親切にしてくれていたと思ってるアルか?」
「そうよ。」
アッシュへ、わかりきっている事を聞かれたかのように即答した。
「はぁ・・イコリス・・そんなわけないだろう・・。」
トゥランが悲しげに溜息をついた。
「えっ?・・・でもサイナスが、巨乳の女性は、男性から優遇されるのが世の常で、絶対的真理だって・・。」
「・・・サイナス?」
ファウストが、今まで見たことのない顔で、俺を睨んだ。
「ふぁっ?偽乳を識別しても、そんな事は言ってないっ。」
「!!。言ったわっ。私が好きだった絵本の物語を、解説したじゃないっ。」
「・・絵本?・・。」
「塔に閉じ込められた女の子を、王子が助けに来た理由は・・乳がでかいからだっ・・て、言ってたわっ。」
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