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夏の宴 告白 編
宴9
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「サイナス。奥さん達が片付けを終えたようだ。生徒会で挨拶するぞ。」
トゥランが俺を呼びに来たので、アッシュとエルードに俺がいない間のイコリスの付添いを頼んで挨拶に行く。
生徒会一同が赴いた漁師小屋には漁師の奥さん達と、従者達の地引き網に掛かった全長1.5mの鱝を荷車に乗せている網元がいた。
網元は今年の地引き網大会が開催されるとは思ってなかったようで、ファウストにとても感謝していた。
この大きな鱝は解体して、剥いだ革を鞣し加工するらしい。身の部分はすぐ唐揚げに調理し、漁師達が戻り次第、寄合所で打ち上げの酒盛りを始めると言って帰った。
「あの鱝は、何人前位あるんだろう・・。」
打ち上げが羨ましい俺は、網元と奥さん達を見送りながら呟いた。
「それは分からないが、重さが40㎏あったらしい。」
「従者達は40㎏の暴れる鱝が入った網を、軽々と引いてたのか・・。厳しい『海洋保安研修』は、警察もした方が良いのかもな・・。」
トゥランが俺に答えると、ジェネラスが初めて耳にする事を言った。
「海洋保安研修?王城勤めに、そんな研修があるのか・・だから大型帆船の掛け声なのか・・。」
彼らは帆船軍艦の帆を操作する縄を、引く時の掛け声を使っていた・・。
俺達の前に居たファウストが振り返って、これまでの背景を語り出した。
「国王4世が退位前にアワージ島で海洋水路局を設立しただろう。当時は潮流の観測や沿岸測量など、海図の作成が主業務だったが、アワージ島を拠点とした大型帆船による海上治安と、警備救難巡視船が活動する組織へと変わっていったんだ。祖父も退位後はアワージ島で過ごしているので、今では王に仕え警護する者は最低半年間の海洋保安研修を受けなければならない、としている。・・従者長の若い頃は、研修ではなく4年の教育期間だったな・・。」
『不実の世代』の中心人物であった国王4世は、アワージ島に蟄居させられていたという噂があった。
国王4世が現王だったにもかかわらず40歳過ぎで島へ追いやられ、数年後に退位した事実を上書きするかのように、先代の国王5世はアワージ島で隠居生活を送っている。
・・退位した年齢が全然違うが・・。
ファウストが言及した従者長は、薄茶色の髪に白髪が混じる細身の紳士だ。
しかしながら、軽装で明らかになった手足のしなやかな筋肉は局所的に分厚く、緊張感が漲る号令は従者と親衛隊を引き締めていた。
(4年間か・・海賊や流刑された重犯罪者達と渡り合ったのだろうか・・。)
「サイナス、イコリスをひとり置いてきたのか?」
俺が、今はもういない海賊や離れ小島で刑務作業をしている重犯罪者と斬り合う従者長を思い浮かべていると、ファウストが訊ねてきた。
「いや、アッシュとエルードに付添いを頼んだ・・。」
「・・・トゥラン、チェリン、悪いがちょっと様子を見てくる。後は頼む。」
ファウストは、合宿所の確認を二人に任せ、イコリスのいる天幕へ向かうことにした。
ジェネラスとラビネは、生徒の安全確認見回りへ行った。
修羅場になることを恐れた俺は、気が重かった。
・・だが天幕にイコリスはいなかった。
「多分、あっちだよー。」
一緒に来たフラリスが、断言する。
フラリスの先導で砂浜を歩くと、イコリスが足を開きしゃがんで、砂を手で掻いているのが見えた。
「・・何やってんだ、イコリス・・。あさりでも探しているのか?」
「おかえり、サイナス。これは、砂を集めているのよ。」
アッシュとエルードは大量の砂を運んで、高く積み上げ砂山を作っていた。
「・・砂で何を作るんだ?」
「時計台よっ。」
「城壁だよっ。」
イコリスとフラリスが、ファウストの問いに同時に答えた。
「・・壁も作るけど、主役は時計台でしょう。」
「違うよイコリス、壁があっての時計台だよ。城壁の再現に意味があるんだ。最後に、通用門を開けるんだから。」
「手掘りで最大主応力方向の連鎖を壊さずに貫通できるか楽しみですね。フラリス様、城壁を完全再現してから、両側から掘り進めましょうっ。」
砂を手掘りして穹窿作用を試そうとするフラリスとアッシュの目は、爛々としていた。
イコリスはフンスフンスとマスクから息を溢れさせ、砂をかき集めている。麦わらと長袖上着だと日傘を持たなくて良いので、両手を使って砂を懸命に掻いていた。
「・・サイナス、飲み物を持ってこよう・・。エルード、イコリスとこいつらが倒れないように、休憩を取らせてくれ。」
「さっき、少し休もうと言いましたが・・聞いてくれなくて・・。ファウスト様から、言って下さい・・。自分が、飲み物を持ってきます。」
(・・修羅場は、訪れなさそうだ・・。)
俺は安堵の溜息をついた。
「イコリス、日が傾き始めている。帰り支度をしよう。」
イコリスは木の枝を使って、時計台の彫刻を書き込んでいた。
エルードは、ファウストが安全確認見回りを手伝わせた結果、女子に囲まれている・・。
「えー、まだ完成してないわ。」
「細部に拘ってたら切りが無いよ。」
「サイナス、もうすぐしたら夕日が見られるぞ。」
アッシュは腹ばいになって、砂で造った城壁に通用門を慎重に掘りながら言った。
「そうだよ、綺麗な海岸の夕日を見てから帰りなよ。」
城壁の向こう側で、フラリスが引き留めてきた。
「そんなことしたら、屋敷に着くのが真夜中になる。ジェイサム達も大変だが、馬が可哀想そうだろ。」
「・・それもそうね・・。」
「・・残念だけど、仕方ないな。」
「じゃあ僕、イコリスとサイナスが帰るって、ファウストに言ってくるよ。あっっ。」
通用門は貫通と同時に、砂が崩れて塞がってしまった。
俺とイコリスは手足を真水で洗い防風林の休憩所へ行くと、ジェイサムがさっきまでイコリスを見張っていた親衛隊隊長と話し込んでいた。
他の隊員は帰りに備え、釣床や砂浜でグーグー寝ている。俺に気付いたジェイサムは破顔した。
「サイナス様。夕日が沈むまで、いても大丈夫ですよ。」
「・・・ふぁ?」
トゥランが俺を呼びに来たので、アッシュとエルードに俺がいない間のイコリスの付添いを頼んで挨拶に行く。
生徒会一同が赴いた漁師小屋には漁師の奥さん達と、従者達の地引き網に掛かった全長1.5mの鱝を荷車に乗せている網元がいた。
網元は今年の地引き網大会が開催されるとは思ってなかったようで、ファウストにとても感謝していた。
この大きな鱝は解体して、剥いだ革を鞣し加工するらしい。身の部分はすぐ唐揚げに調理し、漁師達が戻り次第、寄合所で打ち上げの酒盛りを始めると言って帰った。
「あの鱝は、何人前位あるんだろう・・。」
打ち上げが羨ましい俺は、網元と奥さん達を見送りながら呟いた。
「それは分からないが、重さが40㎏あったらしい。」
「従者達は40㎏の暴れる鱝が入った網を、軽々と引いてたのか・・。厳しい『海洋保安研修』は、警察もした方が良いのかもな・・。」
トゥランが俺に答えると、ジェネラスが初めて耳にする事を言った。
「海洋保安研修?王城勤めに、そんな研修があるのか・・だから大型帆船の掛け声なのか・・。」
彼らは帆船軍艦の帆を操作する縄を、引く時の掛け声を使っていた・・。
俺達の前に居たファウストが振り返って、これまでの背景を語り出した。
「国王4世が退位前にアワージ島で海洋水路局を設立しただろう。当時は潮流の観測や沿岸測量など、海図の作成が主業務だったが、アワージ島を拠点とした大型帆船による海上治安と、警備救難巡視船が活動する組織へと変わっていったんだ。祖父も退位後はアワージ島で過ごしているので、今では王に仕え警護する者は最低半年間の海洋保安研修を受けなければならない、としている。・・従者長の若い頃は、研修ではなく4年の教育期間だったな・・。」
『不実の世代』の中心人物であった国王4世は、アワージ島に蟄居させられていたという噂があった。
国王4世が現王だったにもかかわらず40歳過ぎで島へ追いやられ、数年後に退位した事実を上書きするかのように、先代の国王5世はアワージ島で隠居生活を送っている。
・・退位した年齢が全然違うが・・。
ファウストが言及した従者長は、薄茶色の髪に白髪が混じる細身の紳士だ。
しかしながら、軽装で明らかになった手足のしなやかな筋肉は局所的に分厚く、緊張感が漲る号令は従者と親衛隊を引き締めていた。
(4年間か・・海賊や流刑された重犯罪者達と渡り合ったのだろうか・・。)
「サイナス、イコリスをひとり置いてきたのか?」
俺が、今はもういない海賊や離れ小島で刑務作業をしている重犯罪者と斬り合う従者長を思い浮かべていると、ファウストが訊ねてきた。
「いや、アッシュとエルードに付添いを頼んだ・・。」
「・・・トゥラン、チェリン、悪いがちょっと様子を見てくる。後は頼む。」
ファウストは、合宿所の確認を二人に任せ、イコリスのいる天幕へ向かうことにした。
ジェネラスとラビネは、生徒の安全確認見回りへ行った。
修羅場になることを恐れた俺は、気が重かった。
・・だが天幕にイコリスはいなかった。
「多分、あっちだよー。」
一緒に来たフラリスが、断言する。
フラリスの先導で砂浜を歩くと、イコリスが足を開きしゃがんで、砂を手で掻いているのが見えた。
「・・何やってんだ、イコリス・・。あさりでも探しているのか?」
「おかえり、サイナス。これは、砂を集めているのよ。」
アッシュとエルードは大量の砂を運んで、高く積み上げ砂山を作っていた。
「・・砂で何を作るんだ?」
「時計台よっ。」
「城壁だよっ。」
イコリスとフラリスが、ファウストの問いに同時に答えた。
「・・壁も作るけど、主役は時計台でしょう。」
「違うよイコリス、壁があっての時計台だよ。城壁の再現に意味があるんだ。最後に、通用門を開けるんだから。」
「手掘りで最大主応力方向の連鎖を壊さずに貫通できるか楽しみですね。フラリス様、城壁を完全再現してから、両側から掘り進めましょうっ。」
砂を手掘りして穹窿作用を試そうとするフラリスとアッシュの目は、爛々としていた。
イコリスはフンスフンスとマスクから息を溢れさせ、砂をかき集めている。麦わらと長袖上着だと日傘を持たなくて良いので、両手を使って砂を懸命に掻いていた。
「・・サイナス、飲み物を持ってこよう・・。エルード、イコリスとこいつらが倒れないように、休憩を取らせてくれ。」
「さっき、少し休もうと言いましたが・・聞いてくれなくて・・。ファウスト様から、言って下さい・・。自分が、飲み物を持ってきます。」
(・・修羅場は、訪れなさそうだ・・。)
俺は安堵の溜息をついた。
「イコリス、日が傾き始めている。帰り支度をしよう。」
イコリスは木の枝を使って、時計台の彫刻を書き込んでいた。
エルードは、ファウストが安全確認見回りを手伝わせた結果、女子に囲まれている・・。
「えー、まだ完成してないわ。」
「細部に拘ってたら切りが無いよ。」
「サイナス、もうすぐしたら夕日が見られるぞ。」
アッシュは腹ばいになって、砂で造った城壁に通用門を慎重に掘りながら言った。
「そうだよ、綺麗な海岸の夕日を見てから帰りなよ。」
城壁の向こう側で、フラリスが引き留めてきた。
「そんなことしたら、屋敷に着くのが真夜中になる。ジェイサム達も大変だが、馬が可哀想そうだろ。」
「・・それもそうね・・。」
「・・残念だけど、仕方ないな。」
「じゃあ僕、イコリスとサイナスが帰るって、ファウストに言ってくるよ。あっっ。」
通用門は貫通と同時に、砂が崩れて塞がってしまった。
俺とイコリスは手足を真水で洗い防風林の休憩所へ行くと、ジェイサムがさっきまでイコリスを見張っていた親衛隊隊長と話し込んでいた。
他の隊員は帰りに備え、釣床や砂浜でグーグー寝ている。俺に気付いたジェイサムは破顔した。
「サイナス様。夕日が沈むまで、いても大丈夫ですよ。」
「・・・ふぁ?」
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