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夏の宴 告白 編
宴5
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俺達がトゥランと校庭へ出ると、既にファウストとジェネラスの蹴球の試合は始まっていた。
赤い髪束をなびかせたジェネラスが、対戦相手の技術者クラスが回す球を遮って蹴り上げた。すると俺達の周囲にいた女生徒達が沸き立った。
彼女らを見てイコリスが来ていることに気付いたファウストは、競技場の左側へ走り込み、味方から球を受け取った。
足元の球をファウストが蹴り進めるが誰も近寄らず、守備に付く対戦相手はいない。そのままファウストは独走し華麗に得点を決めて、観戦していた生徒全員から拍手を貰った。
試合に出場している技術者クラスの男子生徒も、なぜか拍手している。
(・・王太子相手だと、忖度が凄まじい・・。)
俺は昔見た、老齢の大物政治家が楕円形の球を持って走っているのに、誰も体当たりに行かず得点を許した闘球の親善試合を思い出していた。
複雑な表情をしたファウストは、王族らしく拍手する生徒達へ手を振って応えた。
全種目の試合は終了し、最後は全員参加のクラス対抗『玉入れ』だ。優勝すると、一ケ月分のおやつの食券が、クラス人数分贈られる。・・公平性を期すためか、玉入れ以外の試合の勝敗は考慮されないのだ。
玉入れに使う紅白の玉の中身は、野草の数珠玉の実が入っていた。
(玉入れって球技なのか・・・?)
俺とトゥランは拾った玉をイコリスに渡し、投げさせることにした。だが、イコリスが投げた玉は、4メートルの棒の先にある竹籠に届かない。
「もっと力を入れて投げないと、籠に入らないぞ。」
俺の助言でイコリスが振りかぶって投げた球はすっぽ抜けて、竹籠の棒を支え持っていたカインの脇腹に直撃した。
「ぎゃんっ。」
「ご、ごめんなさい。カイン。わざとじゃないの。」
「だ・・大丈夫です。・・考えようによっては、ご褒美ですので・・。」
「イコリス様、直線で投げても入らないアルよ。」
アッシュはそう言うとイコリスの後ろにぴったりとくっつき、玉を持つイコリスの右手を握った。
「こうやって曲線を描くように投げるアル。」
そう言うと握ったまま手を動かして、イコリスと一緒に玉を投げた。
ジェネラス達とアイを囲んでいるファウストが、人殺しのような目でアッシュを睨んだので、俺は気が気じゃなかった。
アッシュと投げてコツを掴んだイコリスは、玉を10個投げてようやく竹籠に1個入れた。
「すごく難しいわ。エルードやガルディみたいに背が高くないと・・私が玉を拾って、エルードとガルディに投げてもらっても良いかしら。」
「はいっ、頑張りますっ。」
「お任せくださいでござる。」
ガルディはもう吹っ切れたのか、たくさん人がいる場でも『ござる』口調で喋ることに抵抗なくなったらしい・・。
イコリスの拾った玉を二人に渡すのは俺とトゥランだったが、それでも彼らは張り切って、たくさんの玉を竹籠に投げ入れた。
その結果、俺達の官僚クラスは優勝して、おやつの食券一ケ月分を獲得した。
イコリスは自分のおやつの食券一ケ月分を、カインへ褒美として玉をぶつけたお詫びに譲っていた。
(・・ご褒美って、そういうのじゃないと思うな・・・。)
夏休みを間近に控えた放課後、俺は生徒会の定例会議に召集された。
「夏休み中の一年生合宿行事である『クラス対抗地引き網大会』は『クラス合同地引き網大会』として、実施することとなった。」
ファウストは俺へ嬉しそうに報告する。
「へー、中止にならなかったんだな。」
「校外へ出れない寮生が多いからな。クラスごとではなく体格で2組に振り分けて、普段、関わりの無い生徒達が、共同作業で関係性が深まる機会とした。また、宿泊所や漁師達のまとまった収入源となっている、学院から毎年支払われる報酬が途切れなくて済む。・・と、ファウストが理事に掛け合って実施に至ったんだ。」
トゥランが眼鏡を上げながら、詳しい経緯を説明した。
「ファウスト、凄いじゃん。イコリスも喜ぶよ。」
フラリスが褒めると、ファウストは満足げに口元を緩めた。
「浜辺だと、アイの護衛はどうなるんだ?校外だから服に穴は開かないよな。」
「王太子の私が一日外泊をするにあたり、従者が来る。アイの見守りについては彼らに協力して貰い、生徒会は出来るだけ地引き網大会の進行管理に専念しようと思う。」
俺が案じた強制力の影響がないアイへの対策は、既に講じられていたようだ。
「イコリスには親衛隊を頼むのはどう?何か言われる前に、こっちから先にお願いしちゃったら?」
「それ、良いな。チェリン、冴えてるじゃないか。ファウスト、手間を取らせるが、親衛隊に警護を頼んでくれないか?」
「そうだな。至急、手配しよう。」
ファウストは機嫌良く、俺に即答した。
「これでサイナスも、安心して楽しめるね。」
麗しい笑みを湛えたラビネが話しかけてきた。
「いや・・俺は女子が体操服ではなく水着じゃないと、暑い中、浜辺・・海へ行く意味は無いと思っている。ファウスト、今年から水着を着用した地引き網大会にならないか?」
俺の寛容な印象が崩れてしまうが恥をしのんで伝えたのに、ファウストは俺を無視してトゥラン達と打ち合わせを始めた・・。
赤い髪束をなびかせたジェネラスが、対戦相手の技術者クラスが回す球を遮って蹴り上げた。すると俺達の周囲にいた女生徒達が沸き立った。
彼女らを見てイコリスが来ていることに気付いたファウストは、競技場の左側へ走り込み、味方から球を受け取った。
足元の球をファウストが蹴り進めるが誰も近寄らず、守備に付く対戦相手はいない。そのままファウストは独走し華麗に得点を決めて、観戦していた生徒全員から拍手を貰った。
試合に出場している技術者クラスの男子生徒も、なぜか拍手している。
(・・王太子相手だと、忖度が凄まじい・・。)
俺は昔見た、老齢の大物政治家が楕円形の球を持って走っているのに、誰も体当たりに行かず得点を許した闘球の親善試合を思い出していた。
複雑な表情をしたファウストは、王族らしく拍手する生徒達へ手を振って応えた。
全種目の試合は終了し、最後は全員参加のクラス対抗『玉入れ』だ。優勝すると、一ケ月分のおやつの食券が、クラス人数分贈られる。・・公平性を期すためか、玉入れ以外の試合の勝敗は考慮されないのだ。
玉入れに使う紅白の玉の中身は、野草の数珠玉の実が入っていた。
(玉入れって球技なのか・・・?)
俺とトゥランは拾った玉をイコリスに渡し、投げさせることにした。だが、イコリスが投げた玉は、4メートルの棒の先にある竹籠に届かない。
「もっと力を入れて投げないと、籠に入らないぞ。」
俺の助言でイコリスが振りかぶって投げた球はすっぽ抜けて、竹籠の棒を支え持っていたカインの脇腹に直撃した。
「ぎゃんっ。」
「ご、ごめんなさい。カイン。わざとじゃないの。」
「だ・・大丈夫です。・・考えようによっては、ご褒美ですので・・。」
「イコリス様、直線で投げても入らないアルよ。」
アッシュはそう言うとイコリスの後ろにぴったりとくっつき、玉を持つイコリスの右手を握った。
「こうやって曲線を描くように投げるアル。」
そう言うと握ったまま手を動かして、イコリスと一緒に玉を投げた。
ジェネラス達とアイを囲んでいるファウストが、人殺しのような目でアッシュを睨んだので、俺は気が気じゃなかった。
アッシュと投げてコツを掴んだイコリスは、玉を10個投げてようやく竹籠に1個入れた。
「すごく難しいわ。エルードやガルディみたいに背が高くないと・・私が玉を拾って、エルードとガルディに投げてもらっても良いかしら。」
「はいっ、頑張りますっ。」
「お任せくださいでござる。」
ガルディはもう吹っ切れたのか、たくさん人がいる場でも『ござる』口調で喋ることに抵抗なくなったらしい・・。
イコリスの拾った玉を二人に渡すのは俺とトゥランだったが、それでも彼らは張り切って、たくさんの玉を竹籠に投げ入れた。
その結果、俺達の官僚クラスは優勝して、おやつの食券一ケ月分を獲得した。
イコリスは自分のおやつの食券一ケ月分を、カインへ褒美として玉をぶつけたお詫びに譲っていた。
(・・ご褒美って、そういうのじゃないと思うな・・・。)
夏休みを間近に控えた放課後、俺は生徒会の定例会議に召集された。
「夏休み中の一年生合宿行事である『クラス対抗地引き網大会』は『クラス合同地引き網大会』として、実施することとなった。」
ファウストは俺へ嬉しそうに報告する。
「へー、中止にならなかったんだな。」
「校外へ出れない寮生が多いからな。クラスごとではなく体格で2組に振り分けて、普段、関わりの無い生徒達が、共同作業で関係性が深まる機会とした。また、宿泊所や漁師達のまとまった収入源となっている、学院から毎年支払われる報酬が途切れなくて済む。・・と、ファウストが理事に掛け合って実施に至ったんだ。」
トゥランが眼鏡を上げながら、詳しい経緯を説明した。
「ファウスト、凄いじゃん。イコリスも喜ぶよ。」
フラリスが褒めると、ファウストは満足げに口元を緩めた。
「浜辺だと、アイの護衛はどうなるんだ?校外だから服に穴は開かないよな。」
「王太子の私が一日外泊をするにあたり、従者が来る。アイの見守りについては彼らに協力して貰い、生徒会は出来るだけ地引き網大会の進行管理に専念しようと思う。」
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「イコリスには親衛隊を頼むのはどう?何か言われる前に、こっちから先にお願いしちゃったら?」
「それ、良いな。チェリン、冴えてるじゃないか。ファウスト、手間を取らせるが、親衛隊に警護を頼んでくれないか?」
「そうだな。至急、手配しよう。」
ファウストは機嫌良く、俺に即答した。
「これでサイナスも、安心して楽しめるね。」
麗しい笑みを湛えたラビネが話しかけてきた。
「いや・・俺は女子が体操服ではなく水着じゃないと、暑い中、浜辺・・海へ行く意味は無いと思っている。ファウスト、今年から水着を着用した地引き網大会にならないか?」
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