笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

文字の大きさ
上 下
79 / 100
夏の宴 告白 編

宴5

しおりを挟む
 俺達がトゥランと校庭へ出ると、既にファウストとジェネラスの蹴球サッカーの試合は始まっていた。

 赤い髪束をなびかせたジェネラスが、対戦相手の技術者クラスが回す球を遮って蹴り上げた。すると俺達の周囲にいた女生徒達が沸き立った。
 彼女らを見てイコリスが来ていることに気付いたファウストは、競技場の左側へ走り込み、味方から球を受け取った。
 足元の球をファウストが蹴り進めるが誰も近寄らず、守備に付く対戦相手はいない。そのままファウストは独走し華麗に得点を決めて、観戦していた生徒全員から拍手を貰った。
 試合に出場している技術者クラスの男子生徒も、なぜか拍手している。

(・・王太子相手だと、忖度が凄まじい・・。)
 俺は昔見た、老齢の大物政治家が楕円形の球を持って走っているのに、誰も体当たりに行かず得点を許した闘球の親善試合を思い出していた。
 複雑な表情をしたファウストは、王族らしく拍手する生徒達へ手を振って応えた。
 
 全種目の試合は終了し、最後は全員参加のクラス対抗『玉入れ』だ。優勝すると、一ケ月分のおやつの食券が、クラス人数分贈られる。・・公平性を期すためか、玉入れ以外の試合の勝敗は考慮されないのだ。

 玉入れに使う紅白の玉の中身は、野草の数珠玉の実が入っていた。
(玉入れって球技なのか・・・?)
 俺とトゥランは拾った玉をイコリスに渡し、投げさせることにした。だが、イコリスが投げた玉は、4メートルの棒の先にある竹籠に届かない。

「もっと力を入れて投げないと、籠に入らないぞ。」
 俺の助言でイコリスが振りかぶって投げた球はすっぽ抜けて、竹籠の棒を支え持っていたカインの脇腹に直撃した。
「ぎゃんっ。」
「ご、ごめんなさい。カイン。わざとじゃないの。」
「だ・・大丈夫です。・・考えようによっては、ご褒美ですので・・。」

「イコリス様、直線で投げても入らないアルよ。」
 アッシュはそう言うとイコリスの後ろにぴったりとくっつき、玉を持つイコリスの右手を握った。
「こうやって曲線を描くように投げるアル。」
 そう言うと握ったまま手を動かして、イコリスと一緒に玉を投げた。

 ジェネラス達とアイを囲んでいるファウストが、人殺しのような目でアッシュを睨んだので、俺は気が気じゃなかった。
 アッシュと投げてコツを掴んだイコリスは、玉を10個投げてようやく竹籠に1個入れた。

「すごく難しいわ。エルードやガルディみたいに背が高くないと・・私が玉を拾って、エルードとガルディに投げてもらっても良いかしら。」
「はいっ、頑張りますっ。」
「お任せくださいでござる。」
 ガルディはもう吹っ切れたのか、たくさん人がいる場でも『ござる』口調で喋ることに抵抗なくなったらしい・・。
 イコリスの拾った玉を二人に渡すのは俺とトゥランだったが、それでも彼らは張り切って、たくさんの玉を竹籠に投げ入れた。

 その結果、俺達の官僚クラスは優勝して、おやつの食券一ケ月分を獲得した。
 イコリスは自分のおやつの食券一ケ月分を、カインへ褒美として玉をぶつけたお詫びに譲っていた。
(・・ご褒美って、そういうのじゃないと思うな・・・。)



 夏休みを間近に控えた放課後、俺は生徒会の定例会議に召集された。

「夏休み中の一年生合宿行事である『クラス対抗地引き網大会』は『クラス合同地引き網大会』として、実施することとなった。」
 ファウストは俺へ嬉しそうに報告する。
「へー、中止にならなかったんだな。」

「校外へ出れない寮生が多いからな。クラスごとではなく体格で2組に振り分けて、普段、関わりの無い生徒達が、共同作業で関係性が深まる機会とした。また、宿泊所や漁師達のまとまった収入源となっている、学院から毎年支払われる報酬が途切れなくて済む。・・と、ファウストが理事に掛け合って実施に至ったんだ。」
 トゥランが眼鏡を上げながら、詳しい経緯を説明した。
「ファウスト、凄いじゃん。イコリスも喜ぶよ。」
フラリスが褒めると、ファウストは満足げに口元を緩めた。

「浜辺だと、アイの護衛はどうなるんだ?校外だから服に穴は開かないよな。」
「王太子の私が一日外泊をするにあたり、従者が来る。アイの見守りについては彼らに協力して貰い、生徒会は出来るだけ地引き網大会の進行管理に専念しようと思う。」
 俺が案じた強制力の影響がないアイへの対策は、既に講じられていたようだ。

「イコリスには親衛隊を頼むのはどう?何か言われる前に、こっちから先にお願いしちゃったら?」
「それ、良いな。チェリン、冴えてるじゃないか。ファウスト、手間を取らせるが、親衛隊に警護を頼んでくれないか?」
「そうだな。至急、手配しよう。」
 ファウストは機嫌良く、俺に即答した。

「これでサイナスも、安心して楽しめるね。」
 麗しい笑みを湛えたラビネが話しかけてきた。
「いや・・俺は女子が体操服ではなく水着じゃないと、暑い中、浜辺・・海へ行く意味は無いと思っている。ファウスト、今年から水着を着用した地引き網大会にならないか?」
 俺の寛容な印象が崩れてしまうが恥をしのんで伝えたのに、ファウストは俺を無視してトゥラン達と打ち合わせを始めた・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...