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夏の宴 告白 編
宴4
しおりを挟む意識が、うっすらと戻ってくる。あれ、俺は寝てた?
ゆっくりと目を開けると、目の前には淡いブロンドの髪の女性が眠っている……って、セシル?!
驚いて思わず飛び起きそうになったが、自分の手がセシルを抱きしめていることに気づいた。おいおい待ってくれ、俺は一体何をやっているんだ?!
昨日は夜中に苦しくなって、セシルが突然部屋にやってきて聖女の力をわけてもらって、それから……。記憶がない。ないけれど、多分この状況は俺が原因だと思う。
何やってんだよ俺……。
目の前のセシルを見つめる。可愛いな。初めて見た時から可愛らしいと思ったけれど、教会では脱走しようとしていたし白龍に乗っても怖がるどころか楽しんでいたし、結婚の契約についても初めて聞いたことなのにその場で決断したし。見た目と違って意外に強いんだろうなと思う。
でも、夕食の時にケーキを見て泣き始めた時には驚いた。生贄になって死ぬと思っていたのに、これからも生きていられることに感極まっていた。きっと今までずっと怯えて生きてきたんだろうな。あの時本当は抱きしめてあげたかったけれど、出会ったばかりの俺がそんなことしても気持ち悪いと思われるだけだ。
まつ毛長いな。肌も白くて綺麗だし、髪の毛もツヤツヤしてる。なんかいい匂いするし……って聖女に対して何を考えているんだよ!いくら結婚したと言っても契約だし、あくまでもセシルはミゼルに選ばれた聖女様だ。
本当にこの子が俺と契約してくれたんだ。なんだかまだ信じられない。これからずっと一緒に生きていくパートナー。聖女の虹の力をわけてくれるたった一人の大事な人。
夕食の時には、これから一緒に色々食べましょうと言ってくれた。今までは寂しかった食卓も、セシルがいるだけで華やいだように感じる。
俺なんかでよかったんだろうか。ってそんなこと考えても仕方ないけれど。俺は白龍使いの騎士、セシルは虹の力を持つ聖女である以上、お互いに白龍によって定められた相手だ。俺はセシルで嬉しかったけど、セシルは嫌がってないのかな。
昨日は手を握って力を分けてもらった。あれだけでもかなりの力を分けてもらうことができたけれど、今後膨大な白龍の力を行使するに当たってもっと多くの力を分けてもらうことになる。
潤んだ唇に目がいく。少しふっくらとしていて魅力的だ。この唇に口付けたらどんな気持ちになるんだろう。セシルはどんな表情になるんだろう……ってだから俺は聖女様相手に何を考えているんだよ!
「ん……」
目の前のセシルが身動ぎながらゆっくりと目を開けた。あ、瞳の色もエメラルドグリーンでやっぱり綺麗だな。間近で見ると宝石みたいにキラキラしている。
「おはよう、セシル。昨日はごめん、大丈夫?」
思わず声をかけるけれど、セシルの様子がおかしい。どんどん顔が真っ赤になっていく。
あ、これはまずいかもしれない。
すぐに起き上がってセシルから離れるけれど、同じように起き上がったセシルは顔を真っ赤にして固まっている。
そうだよね、本当にごめんなさい。
「あれから昨日の記憶がないんだけれど、多分俺が君の手を握ったまま寝てしまったんだよね?」
問いかけるとセシルは首をブンブンと大きく縦にふる。やっぱりそうですよね~……。
「本当にごめん、迂闊だった。嫌だったよね」
頭をかきながら謝る。我ながら情けないよ全く。
「い、いえ、あの、嫌ではないですけど……驚いてしまって」
……え、嫌じゃないの?本当に?
にやけてしまう顔を片手で隠すことで精一杯だった。
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