笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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わくわくwack×2フラーグ学院 箱庭 編

相17

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 順番が来たので舞台へ上がり『ステータス増減に採用した占星術で取扱う10天体と、箱庭社会変動との因果関係』の発表を始めると、『わくわくフラーグ学院』のゲーム名を出した段階で、小さな笑い声が会場のあちこちから聞こえてきた。
 しかし発表を進めていくと、多数の人が真剣な表情で耳を傾けてくれた。私は(案外、インテリも占いが好きなんだな)と前向きに解釈し、無事最後まで発表をやり切る事が出来た。
 ・・・円城寺博士は圧が凄いので、視界に入れないようにした。

 発表を終え、舞台から降りて夫達が座っている席へと脱力しながら歩く私を、二階席から黄色いシャツの青年が身を乗り出して覗いてきた。
 私はひどく驚いた。なぜなら、その青年はもの凄い美形だったのだ。
 黒曜の瞳に透き通る白い肌。そして真っ直ぐな凛々しい眉としっかりした高い鼻が美しい顔に男らしさを与えている。
(・・・場違いなシャツ着てくれていて良かった・・・。顔が桁違いに良いと、服装に拘らないのかな。)
 彼は、とても目立つ黄色いチェック模様の麻のシャツを着ていた。軽装の参加者達の中でも浮いていたので、私には黄色いシャツしか目に入らなかった。
 超絶美形な彼の顔を見ていたら、私の緊張はほぐれなかったかもしれない。


 他の観察発表は見鷹君の彼女を含め、私の記憶に一切残っていない。終始、自分の事でいっぱいいっぱいで、発表を終えた私は燃え尽きて放心していたからだ。
 後に、夫曰く『わくフラ』のゲーム名で起こった笑いは嘲笑ではなく、『箱庭』の雛形にしたゲームやアニメを聞く度に、「そうきたか」と参加者達が意外性を楽しんでいた笑いだったとのことだ。


「かるらちゃん、終わったよ。」
 目を開けたまま気絶していた私は、夫の声で覚醒した。
「へ?・・・ちゃんって・・・あれ?見鷹君は?」
「最後の発表者が話し終った途端に、すぐ彼女と出て行ったよ。」

 教え子の前で私の名前をちゃん付けで呼んだのかと焦ったが、見鷹君達はいないようだ。ホール会場では、舞台上の設備の片付けが始まっていた。
 私と夫は、席を立ちのろのろと会場出口へ続く通路を歩く。
「・・見鷹君達に食事を御馳走するって約束してたのにね。」
「彼女と会って、すっかり忘れたんじゃないかな。久しぶりに会ったからか、浮かれていたしね。」
「お店を予約してるわけじゃないから、全然構わないけど。・・見鷹君、おしゃれ眼鏡はずして、肉眼で彼女見てデレてたもんね。会場に入ったら格好つけて、また眼鏡を掛けてたのが可笑しかったあ。おかげで、ほんのちょっと気持ちが和んだわ。」
「・・見鷹君のあの眼鏡は・・。」

 出口の扉に近づくと、円城寺博士の横に座っていたセンター職員の青年が立っていたので、私と夫は会話を中断し軽く会釈をして前を通り過ぎようとした。
 だが、私は彼に呼び止められてしまった・・。
吉家きちやさん、すみません。さっき発表された箱庭について、円城寺センター長が話を聞きたいそうです。お時間よろしいですか?」
「へ?・・・。」


 職員の青年は、夫にエントランスで待つようお願いすると、併設している会議室へ私を案内した。
 会議室は長机と椅子がスクール形式に並べられていた。正面の壇上には、長机と椅子が一つ置かれており、円城寺博士が座っていた。
 どうやらセンター職員の控室用に会議室を借りていたらしく、並んでいる長机の上に荷物や飲みかけのペットボトルが所々に置かれていた。

「センター長、吉家さんをお連れしました。」
 正面に座っている円城寺博士へそう言うと、職員の青年はさっさと会議室を出て行ってしまった。
「吉家さん・・どうぞ、前の席にお座りください。」
 高齢のわりにくっきりとした声で指示された私は、円城寺博士から2列ほど空けた前の席に座った。

 円城寺博士は大きめの極薄ノートパソコンを開いており、前に座ると目から上しか見えなかった。真っ白の髪は強風を浴びた後のように逆立ち片眼鏡を掛けた右目は閉じて、義眼の左目でこちらを見据えていた。それから長机に両肘をつき組んでいる手に顎を乗せ、頭部を支えているみたいだった。
 私は挨拶を忘れ、きょとんとしてしまっていた。

「あなたの『箱庭』について、質問させてください。」
「え?は、はい、どうぞ・・・。」
 (見鷹君のアドバイス通り、発表の最後に「質問ありますか」と言わなかったら、こんなことになるなんて・・・。)
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