笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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わくわくwack×2フラーグ学院 箱庭 編

相2

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 紆余曲折を経て作成した私の『箱庭』は円城寺博士になんとか認められ、量子コンピュータのオンライン利用の権利を獲得することが出来た。
 ところが、審査が通った『箱庭』は、作成だけにとどまらず随時観察を義務づけられており、近々、都心近郊で開かれる『箱庭発表会』で円城寺博士に観察結果を発表しなければならなかった。


 他人事のような顔をしている見鷹君に、私は反論した。
「『箱庭』がおふざけでも、きっと観察結果はそれなりの体を成して報告されるよ。量子コンピュータを使いたいのはインテリしかいないんだからっ。・・・はああ・・・。」
 再び大きな溜息をつき、弱音を吐き続ける。
「センター長の円城寺博士の写真、見たことある?70歳過ぎてて左目が義眼で、ラスボスみたい・・じゃなかった・・重鎮の迫力がすごいんだから。」

「近影は見てないですね。変わった噂は聞いてますよ。センターのこけら落としの前日にお坊さんを呼んだりして・・スピリチュアルに傾倒してるらしいです。だから奥さんの『箱庭』の占星術を、興味深く思うかもしれないですよ。」
「スピ系・・・エジソンやニコなんとかと、同じじゃぁ?・・振り切った天才が行きつくやつ・・・はああ。食いついて欲しくないなあ。質問とかされたら嫌だなあ。」

「ニコラ・テスラですね。・・そうだ!最後に、質問はありますかって言わなきゃ良いんですよ。」
 円城寺博士に興味を持たれる事よりも、質問されない事を重視する私へ、見鷹君が妙案を出した。
「それ、採用!見鷹君、天才っ。」
「ははっ全然褒められた気がしないです。ははっ。」

***

 
 夫の研究室の在籍者は、ロボット戦争アニメ以外は見たことが無い者ばかりだった。

 かつて一人だけ、私と漫画の話が出来た女子学生がいた。彼女は見鷹君の恋人なのだが、『箱庭』のソフトウェアが配られた時は既に他県の大学院へ行ってしまって、研究室にはいなかった。
 見鷹君と彼女は今も遠距離恋愛を続けている。見鷹君が言うには、彼女の漫画知識は大学院の『箱庭』作成に貢献したらしく、今回の『箱庭発表会』へは彼女も出席するとのことだった。

 ともかく、この研究室で幅広く漫画やアニメが好きなのは、教授の妻でパート(臨時職員)の私だけだったのだ。


 私は若い頃、この大学の職員だった。臨時講師だった夫と出会い、結婚して退職していたのだが・・・。
 夫が教授になり、たまにメディアや雑誌で取り上げられ始めると同時期に、派手な服を着て派手な女性を連れた夫の研究室の准教授を街で見かけた私は、夫へ彼を注視するよう助言した。
 すると、研究室では公認カップルである見鷹君の彼女の自宅へ押しかけて高価なプレゼントを渡そうとしたり、外国の軍事企業と接触を図ろうとしたりと彼の不届きな行為が発覚した。
 軍事企業との接触を未然に防いだ夫は、彼を容赦しなかった。夫の指示を受け、元大学職員だった私と見鷹君が調べると、少し掘っただけでザクザク不正収支が出て来たので、大学の会計士と弁護士に彼の使い込みを報告した。
 そうして私は懲戒解雇された准教授に代わり、夫の研究室で関係先との窓口調整業務や諸費用管理を行う為、週三日のパートで大学に雇われたのだ。


 こんな短大卒の元専業主婦に、『箱庭』を任せるなんて無謀だと思った私は、キャラクターのステータスの決定に西洋占星術を組み込むことにした。
 夫と見鷹君から、私へ求めているのは西洋占星術じゃないという生暖かい視線を送られたが、折れるつもりはなかった。農大の分子微生物研究室が審査をクリアした決定打は、力を入れたキャラクターの種族設定かもしれないと深読みしていたからだ。

 占いのなかでも西洋占星術が好きだった私は、キャラクターのステータスに反映させれば面白いと考えた。だが、キャラクターの出生日時から西洋占星術を導きステータスへ落とし込むのは、とてつもなく難しかった。
 星の出生図(ホロスコープ)は、太陽、月、金星、木星、水星、火星、土星、海王星、天王星、冥王星の10天体と6つの小惑星、上昇点に天頂点、月の昇交点、12室の振り分け、全てに意味が在るうえ星同士の角度によって変わる無限の解釈を、キャラクターステータスへ反映させる事は私には無理だった。
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