笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

文字の大きさ
上 下
46 / 100
哀切 悪役令嬢 編

哀10

しおりを挟む
 
 生徒会室へ入るとファウストが一人で大きな窓の前に立ち、鼠色の曇り空を眺めていた。
 俺達の入室に気付いて振り返ったファウストは、煌びやかな金髪に似合わない疲れた顔をしている。

「・・トゥランも来たのか。とりあえず、お茶でも飲もうか。イコリス、プリンを買ってきたよ。」
「私の好物を覚えていてくれたのね。ありがとう、ファウスト。」
 俺はイコリスが礼を言い終えると、ティーポットに人数分の茶葉を入れお湯を沸かし始めた。
 イコリスはお皿とスプーンを棚から取り出し、長椅子の前にある楕円の机にプリンをのせたお皿を手際よく並べた。プラントリーは使用人ではなく、自分達でお茶の用意をするので慣れているのだ。
 
「紅茶は私が淹れるよ。イコリスとサイナスは、ファウストと長椅子に座っていてくれ。」
 お湯が沸騰し紅茶を淹れ終えたトゥランは、長椅子に座る俺達の前にティーカップを置きファウストの横に座った。しかし誰も手をつけようとはしなかった。

「・・・イコリス、すまない。アイの花屋へ行く交流計画申請に、許可は下りなかった。」
「謝らないで、ファウストのせいじゃないわ。・・・良い知らせではないと思っていたし・・・何となく分かってたから。」
 イコリスの返事を聞いたファウストは、言葉を続けたいみたいだが逡巡する様子を見せた。本題は別にあるのだろう。

「やっぱり、アイに何かあったのか?」
 思い切って俺が訊ねると、ファウストは静かに頷きゆっくりと話しだした。
「・・・アイは今朝、親衛隊に呼び出されて、魅了に侵されていないか検査されたんだ。」
「はあ?魅了ってもしかしてイコリスの魅了か?」
「そうだ。昨日、生徒会室で話した事によってイコリスの魅了に侵されていないか、王の指示でアイを調べた・・・。」
「完全に濡れ衣だろ。イコリスは笑わないよう耐えたし、アイが魅了にかかった兆候は全く無かったじゃないか。」

 もし、プラントリーの者の笑顔で魅了に侵されたならば、とろんとした目つきで魅了を使った者へ夢中になり、指示が無い限り身動きしなくなるのだ。
 10年前の収穫祭では、イコリスを過剰に守ろうとしたり攻撃性を抑えられない異質な魅了のかかり方だったが、本来、笑顔を向けられた魅了の効果は、命令がないと寝ぼけたような催眠状態になるだけだ。

「検査の結果はもちろん、魅了に侵されてなかった。不正がないように私も検査に立ち会ったんだ。保証するよ。」
「・・・アイは午後も休んで欠席していたが、大丈夫なのか?」
 戸惑う俺達に代わって、トゥランが聞いた。

「とっくに帰宅して、花屋の仕事をしている・・。アイが処分を受ける事は無い。」
「・・・私には処分があるのね。」
「イコリスは何も悪くない。私の力不足でアイの花屋へは行けなくなったんだ。・・・本当にすまない。・・・だから、次の申請は通してあげたいのだが・・・・。」

「・・・まだ何かあるのか?」
 俺はファウストの言葉の先を促した。
「王はアイとの接触はイコリスの感情を高ぶらせる為、禁止するべきだと言っている。・・・まだ決定事項ではないが、次回の交流計画はアイとの交流だと絶望的だ。反論はしたが、いつもながら聞く耳を持ってくれない。・・・イコリスはきっと、アイとは係われなくなるだろう。」

「アイと係わるのを禁止だと・・・。」
 王のイコリスへの過剰な対応にトゥランが呟いた。
 イコリスは同級の女子と仲良くなれそうだという事に、浮かれただけなのにと誰もが思うだろうが、俺は理解していた。
 判断するのは俺達じゃない。対魅了特殊部隊である親衛隊でもない。・・・国王なのだ。

「トゥラン、サイナス。昨日からわずか一日で、イコリスとアイとの接触に、王から口を出されるのは合点がいかない。疑いたくはないが王にジェネラス達かアイが・・・。」

「いや、違う・・俺のせいだ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...