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哀切 悪役令嬢 編
哀6
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「イコリス様。ごめんなさいっ。」
アイは俺達の前に立つと、謝りながら頭を前に傾けた。
大きな胸が重力に従って前へ揺れ、ブラウスに空いたハートの穴の下部に刻まれた谷間が持ち上がる。桃色の長い髪は後ろで三つ編みにまとめられているので、ハートの穴を隠す術は無い。
ジェネラスとチェリンは目を逸らしたが、俺はガン見しておいた。
「・・・アイさん?どうして謝るの?それに、『様』て・・・。」
「トゥラン様から、イコリス様は全然気にしてないと聞いていたんですけど・・・。私のせいで、ファウスト様とラビネ様、ジェネラス様、チェリン様を、イコリス様から引き離した事を、ずっと謝りたかったんです。」
「・・・『様』て・・・。えっと、アイさんに近づかなかったのは私の都合で・・・アイさんのせいでファウスト達と引き離されたとか、思ってないわ。」
「ラビネ達が葉っぱを降らさなくても、他の生徒がやらかすからね。その度に俺達は戦々恐々としてしまうんだ。」
「あ、アイさんは悪くないの。葉っぱが降っても気にしないで。フラリスが言ってたのだけど、健康な思春期の男子には当然で不可抗力らしいから。」
俺の突き離した言い方に、イコリスは慌ててアイを慰めたのだが、フラリスが犠牲になった気がしないでもない。
「・・・でも、イコリス様と話すのは3ヶ月ぶりだって・・・。ファウスト様達をイコリス様から奪ってしまって・・・私がいなければ・・・。」
「気に病む必要は無いわ。私の貴族の交流会への参加は、王に年4回しか認められてないの。だから、皆とは4ヶ月に1回しか会ってなかったのよ。だから今日はいつもより1ヶ月早く、皆とお喋り出来てるわ。」
「?。年4回なら3ヶ月に1回ですよね。もしかして私を励ますつもりで・・・。」
「いや、励ましで長めに言ったんじゃない。・・・4年前、プラントリー一族の忘年会も交流会のひとつだと王に解釈され、他貴族との交流は年3回になった。だからファウスト達と会えたのは4ヶ月に1回だ。」
交流会の参加回数を王に減らされたのは、急にイコリスの父が忘年会で王の物真似を披露した年と同時期なので、4年前に間違いない・・・。
俺がイコリスの言葉足らずな部分を補なったが、アイはまだ俯いている。
「・・・ファウスト様とイコリス様の仲を、ずっと私が妨げていて・・・申し訳なくて・・・。」
「いいえ、アイさんは心配しなくて良いのよ。ファウストとは恋人じゃないし、これから婚約者になる可能性も完全に無いの。私、めちゃめちゃ王に嫌われているのよ。」
「・・・・そんなことないよ。」
小声でファウストが否定していたがそんな事はあった。
自然摂理の誤作動としか思えない、幼いイコリスに一度だけ起こった魅了の発現への王の裁量は、厳しいだけでなく過剰で執拗だった。
不条理な能力である魅了を律して国に尽くし、時には道理に背いて王に献身してきたプラントリー一族の大人達は、王が決したイコリスへの処遇に戦慄し、不信を募らせていた。
「だから本当にアイさんは謝らなくていいし、・・・イコリス『様』じゃなくて、『さん』で呼んで欲しいし・・・仲良く出来れば良いなって思っているの。」
「イコリス様、ありがとうございます。平民の私がファウスト様達に護っていただくようになってしまい、同級生達の視線が怖くて・・・せっかく敬称を付けなくても良いと言ってくださったんですけど、そうもいかなくて。」
「アイさん、気苦労が耐えなくて大変ね。あの、放課後こうやって生徒会室でお話出来ないかしら。その時だけは『様』じゃなくて入学式の日みたいに『さん』付けで・・何でも気軽にお喋りして欲しいわ。」
「!・・放課後は・・・。」
「すまないが、アイは帰宅後に家業の花屋の仕事がある。放課後はいつも、家の手伝いをしているんだ。」
後ろに居るラビネがアイの代わりに、放課後、生徒会室へ来れない理由を言った。イコリスの誘いをアイが断るのは難しく思い、口を挟んだのだろう。
「そう、お話出来ないのは残念だけれど・・。授業が終わったら家業のお花屋さんを手伝うなんて、アイさんはとても立派ね。」
「イコリス・・・。」
口調に抑揚はないが、俺はイコリスが凄くがっかりしているのが分かった。
「あ、あの、街に降りる機会が有れば、私の花屋にお立ち寄り下さい。イコリス様に似合う花束を作ります。」
アイは俺達の前に立つと、謝りながら頭を前に傾けた。
大きな胸が重力に従って前へ揺れ、ブラウスに空いたハートの穴の下部に刻まれた谷間が持ち上がる。桃色の長い髪は後ろで三つ編みにまとめられているので、ハートの穴を隠す術は無い。
ジェネラスとチェリンは目を逸らしたが、俺はガン見しておいた。
「・・・アイさん?どうして謝るの?それに、『様』て・・・。」
「トゥラン様から、イコリス様は全然気にしてないと聞いていたんですけど・・・。私のせいで、ファウスト様とラビネ様、ジェネラス様、チェリン様を、イコリス様から引き離した事を、ずっと謝りたかったんです。」
「・・・『様』て・・・。えっと、アイさんに近づかなかったのは私の都合で・・・アイさんのせいでファウスト達と引き離されたとか、思ってないわ。」
「ラビネ達が葉っぱを降らさなくても、他の生徒がやらかすからね。その度に俺達は戦々恐々としてしまうんだ。」
「あ、アイさんは悪くないの。葉っぱが降っても気にしないで。フラリスが言ってたのだけど、健康な思春期の男子には当然で不可抗力らしいから。」
俺の突き離した言い方に、イコリスは慌ててアイを慰めたのだが、フラリスが犠牲になった気がしないでもない。
「・・・でも、イコリス様と話すのは3ヶ月ぶりだって・・・。ファウスト様達をイコリス様から奪ってしまって・・・私がいなければ・・・。」
「気に病む必要は無いわ。私の貴族の交流会への参加は、王に年4回しか認められてないの。だから、皆とは4ヶ月に1回しか会ってなかったのよ。だから今日はいつもより1ヶ月早く、皆とお喋り出来てるわ。」
「?。年4回なら3ヶ月に1回ですよね。もしかして私を励ますつもりで・・・。」
「いや、励ましで長めに言ったんじゃない。・・・4年前、プラントリー一族の忘年会も交流会のひとつだと王に解釈され、他貴族との交流は年3回になった。だからファウスト達と会えたのは4ヶ月に1回だ。」
交流会の参加回数を王に減らされたのは、急にイコリスの父が忘年会で王の物真似を披露した年と同時期なので、4年前に間違いない・・・。
俺がイコリスの言葉足らずな部分を補なったが、アイはまだ俯いている。
「・・・ファウスト様とイコリス様の仲を、ずっと私が妨げていて・・・申し訳なくて・・・。」
「いいえ、アイさんは心配しなくて良いのよ。ファウストとは恋人じゃないし、これから婚約者になる可能性も完全に無いの。私、めちゃめちゃ王に嫌われているのよ。」
「・・・・そんなことないよ。」
小声でファウストが否定していたがそんな事はあった。
自然摂理の誤作動としか思えない、幼いイコリスに一度だけ起こった魅了の発現への王の裁量は、厳しいだけでなく過剰で執拗だった。
不条理な能力である魅了を律して国に尽くし、時には道理に背いて王に献身してきたプラントリー一族の大人達は、王が決したイコリスへの処遇に戦慄し、不信を募らせていた。
「だから本当にアイさんは謝らなくていいし、・・・イコリス『様』じゃなくて、『さん』で呼んで欲しいし・・・仲良く出来れば良いなって思っているの。」
「イコリス様、ありがとうございます。平民の私がファウスト様達に護っていただくようになってしまい、同級生達の視線が怖くて・・・せっかく敬称を付けなくても良いと言ってくださったんですけど、そうもいかなくて。」
「アイさん、気苦労が耐えなくて大変ね。あの、放課後こうやって生徒会室でお話出来ないかしら。その時だけは『様』じゃなくて入学式の日みたいに『さん』付けで・・何でも気軽にお喋りして欲しいわ。」
「!・・放課後は・・・。」
「すまないが、アイは帰宅後に家業の花屋の仕事がある。放課後はいつも、家の手伝いをしているんだ。」
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「そう、お話出来ないのは残念だけれど・・。授業が終わったら家業のお花屋さんを手伝うなんて、アイさんはとても立派ね。」
「イコリス・・・。」
口調に抑揚はないが、俺はイコリスが凄くがっかりしているのが分かった。
「あ、あの、街に降りる機会が有れば、私の花屋にお立ち寄り下さい。イコリス様に似合う花束を作ります。」
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