41 / 100
哀切 悪役令嬢 編
哀5
しおりを挟むイコリスは丸い扇子の位置をいつもより上にずらし、青紫の瞳を座っているファウストから隠した。
「エルードにクラスの生徒と氷菓子店へ行かないかと誘われたんだ。」
「ガルディ・モロークか・・・。」
俺はガルディの名前は出してない。・・ファウストは、イコリス周辺事情についての洞察力が鋭かった。
「・・・イコリス、市街地の氷菓子店だと店舗内ではなく、屋外にある椅子とかで食べる事になる。もし、屋内で氷菓子を提供していたとしても、個室は無いだろう。顔に被った袋は外せないんだ。ルイード達と一緒には食べられないよ。」
扇子で瞳を隠したまま、イコリスは黙っていた。
俺達の学院での昼食は、用意された個室で済ませている。
いつも二人だけで食事をしており、トゥランとフラリスも俺達の食事が終わる迄は入って来ない。唯一、魅了が効かないファウストは、昼休みもアイに張り付いていた。
「私が貴族街の個室のある洋菓子店を予約するよ。サイナスと3人で、放課後食べに行こう。」
ファウストから外食を提案されたが、横から見たイコリスは、落ち込み沈んだ顔つきをしていた。
イコリスも難しいとは思っていただろうが、初めて同じクラスの生徒に街へ誘われたのだ。氷菓子を食べられなくても、放課後をエルード達と市街地で過ごしたいという思いがあったようだ。
「・・・気を遣ってくれて、ありがとう。どうしても甘いものが食べたいわけじゃないから大丈夫よ・・そろそろ試験前だしね。」
「イコリスの成績は下の中だからな。」
「サ、サイナスだって理数系以外は下位じゃない。」
「俺は宰相にならないから、上位じゃ無くて良いんだよ。今のまま、総合点が中位の位置で。」
「一族の皆は、ゆくゆくはサイナスが宰相だと思ってるでしょ。」
「俺は思ってないよ。宰相にはならない。絶対にー。」
「・・・イコリス・・・。」
沈んでいるイコリスの気を紛らわせようと、俺はちゃちゃを入れたのだが、ファウストが俺達の軽快なやり取りを遮った。
「せっかくフラーグ学院に通っているのに、こうして話すのは3ヶ月ぶりになってしまった。だからこれからは放課後に、この生徒会室で時々話さないか。」
「・・・生徒会業務の邪魔じゃないの?」
「邪魔になんか、ならないよ。資料の整理を手伝ってもらう場合もあるかもしれないが、お茶菓子くらいなら用意するよ。」
「・・・あの、それってアイさんもご一緒出来たりしないかしら。」
陽が傾きだし、大きな窓に西日が差し込んできた。
「どうして?」
イコリスに理由を聞くジェネラスの表情は、後ろから浴びる夕日で分かりづらいが、太い眉を顰めた気がした。
「入学式で少し打ち解けられたと思ってたのに、全くお喋りしてないし・・・。話せたら良いなと思って。」
「イコリスは僕達が居たら、アイとは距離を置きたいんじゃない?」
赤い夕日に少し目が慣れてきた俺は、チェリンが少し悲しそうに話しているのが分かった。
「チェリンもジェネラスも、アイさんと初対面の時に花びらを降らしたきりで、もう何も降らせてないでしょう。怖くないわ。」
「俺達は念の為にチェリン達と距離を取り続けているが、3日に1回アイに葉っぱが降るのは、平民の学生がアイに懸想したからだしな。」
フラーグ学院の『演出効果』は初夏を迎え、桜の花びらから樟の葉っぱに移り変わっていた。
「だから言っただろう。心配はいらないと。」
長椅子に座ったままのトゥランが話しかけてきた。
「・・・フラリスはまだ油断出来ない。心配だよ。」
俺がそう返すと、トゥランは二回程咳をした。
「ゴホッゴホッ・・・そうじゃない。アイが危惧している事に、だ。」
「アイさんが?・・・。」
イコリスがトゥランへ聞き返すと、チェリンの横にある資料室の扉が開いた。
俺達は意表を突かれた。
その扉から、アイ・レットエクセルが歩み出てきたのだ。アイのすぐ後ろにはラビネが立っている。
俺は気になってしょうがなかった。窓も無く狭い密室に男女二人で、何をしていたのか。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる