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哀切 悪役令嬢 編
哀5
しおりを挟むイコリスは丸い扇子の位置をいつもより上にずらし、青紫の瞳を座っているファウストから隠した。
「エルードにクラスの生徒と氷菓子店へ行かないかと誘われたんだ。」
「ガルディ・モロークか・・・。」
俺はガルディの名前は出してない。・・ファウストは、イコリス周辺事情についての洞察力が鋭かった。
「・・・イコリス、市街地の氷菓子店だと店舗内ではなく、屋外にある椅子とかで食べる事になる。もし、屋内で氷菓子を提供していたとしても、個室は無いだろう。顔に被った袋は外せないんだ。ルイード達と一緒には食べられないよ。」
扇子で瞳を隠したまま、イコリスは黙っていた。
俺達の学院での昼食は、用意された個室で済ませている。
いつも二人だけで食事をしており、トゥランとフラリスも俺達の食事が終わる迄は入って来ない。唯一、魅了が効かないファウストは、昼休みもアイに張り付いていた。
「私が貴族街の個室のある洋菓子店を予約するよ。サイナスと3人で、放課後食べに行こう。」
ファウストから外食を提案されたが、横から見たイコリスは、落ち込み沈んだ顔つきをしていた。
イコリスも難しいとは思っていただろうが、初めて同じクラスの生徒に街へ誘われたのだ。氷菓子を食べられなくても、放課後をエルード達と市街地で過ごしたいという思いがあったようだ。
「・・・気を遣ってくれて、ありがとう。どうしても甘いものが食べたいわけじゃないから大丈夫よ・・そろそろ試験前だしね。」
「イコリスの成績は下の中だからな。」
「サ、サイナスだって理数系以外は下位じゃない。」
「俺は宰相にならないから、上位じゃ無くて良いんだよ。今のまま、総合点が中位の位置で。」
「一族の皆は、ゆくゆくはサイナスが宰相だと思ってるでしょ。」
「俺は思ってないよ。宰相にはならない。絶対にー。」
「・・・イコリス・・・。」
沈んでいるイコリスの気を紛らわせようと、俺はちゃちゃを入れたのだが、ファウストが俺達の軽快なやり取りを遮った。
「せっかくフラーグ学院に通っているのに、こうして話すのは3ヶ月ぶりになってしまった。だからこれからは放課後に、この生徒会室で時々話さないか。」
「・・・生徒会業務の邪魔じゃないの?」
「邪魔になんか、ならないよ。資料の整理を手伝ってもらう場合もあるかもしれないが、お茶菓子くらいなら用意するよ。」
「・・・あの、それってアイさんもご一緒出来たりしないかしら。」
陽が傾きだし、大きな窓に西日が差し込んできた。
「どうして?」
イコリスに理由を聞くジェネラスの表情は、後ろから浴びる夕日で分かりづらいが、太い眉を顰めた気がした。
「入学式で少し打ち解けられたと思ってたのに、全くお喋りしてないし・・・。話せたら良いなと思って。」
「イコリスは僕達が居たら、アイとは距離を置きたいんじゃない?」
赤い夕日に少し目が慣れてきた俺は、チェリンが少し悲しそうに話しているのが分かった。
「チェリンもジェネラスも、アイさんと初対面の時に花びらを降らしたきりで、もう何も降らせてないでしょう。怖くないわ。」
「俺達は念の為にチェリン達と距離を取り続けているが、3日に1回アイに葉っぱが降るのは、平民の学生がアイに懸想したからだしな。」
フラーグ学院の『演出効果』は初夏を迎え、桜の花びらから樟の葉っぱに移り変わっていた。
「だから言っただろう。心配はいらないと。」
長椅子に座ったままのトゥランが話しかけてきた。
「・・・フラリスはまだ油断出来ない。心配だよ。」
俺がそう返すと、トゥランは二回程咳をした。
「ゴホッゴホッ・・・そうじゃない。アイが危惧している事に、だ。」
「アイさんが?・・・。」
イコリスがトゥランへ聞き返すと、チェリンの横にある資料室の扉が開いた。
俺達は意表を突かれた。
その扉から、アイ・レットエクセルが歩み出てきたのだ。アイのすぐ後ろにはラビネが立っている。
俺は気になってしょうがなかった。窓も無く狭い密室に男女二人で、何をしていたのか。
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