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哀切 悪役令嬢 編
哀2
しおりを挟むジェイサムは宰相家の専属御者となって暫くすると、軟禁状態だった俺とイコリスをこっそりと馬車に乗せて、よく外へ連れ出すようになった。プラントリー一族の俺達は、初潮・精通を迎えると魅了を獲得してしまう、その前に、人々で賑わう街や雄大で美しい自然を、彼は可能な限り見せてくれたのだ。
閉じられた世界で、勉強も遊びもずっと二人きりで過ごすしかない状況のなか、まだ獲得していない魅了の魔力調査実験がむなしく繰り返され、子供特有の活力をなかなか発散出来ずにいた俺達は、屋敷以外の様々な景色を肌で感じる事により、蓄積された鬱憤が晴れていった。
あの頃、日々成長してゆく身体の変化に不安が募り、義父母との会話も少なかった反抗期の俺とイコリスは、ジェイサムとの秘密の外出で随分と救われた。
正体を隠す必要があった俺達は、プラントリーの子供だと気付かれないようにマスクはせず、ジェイサムが用意した大きめの帽子で銀髪を隠していた。
高台から薄墨の中の街の灯を見下ろす時、野原を駆けて朝露に足を濡らす時、魅了の魔力は無いにも係わらず、いつも一切笑わない俺とイコリスを、ジェイサムは哀れそうに見つめていたものだ。
俺達は半年近く、いろんな場所へ人目を忍んで訪れていたが、ある日、野兎を探しに少し遠方へ行った帰り、天候が急変して帰宅が遅れ、屋敷を抜け出していた事がばれてしまった。
その結果 ジェイサムは王に呼び出され、何日も帰ってこなかったのだ。
当時、子供の俺達には、ジェイサムは王の親衛隊から注意を受けたとだけ伝えられたが、本当は厳罰があったのかもしれない。
その後間もなくして俺達は魅了を獲得し、厳しい制御訓練が始まり、ジェイサムと屋敷を抜け出す事は二度となかった。
今春、念願のフラーグ学院への入学を果たしたが、同級生とどこかへ寄り道する事無く、授業や生徒会業務が終わると真っ直ぐ帰途につく俺達を、ジェイサムが憐れに思ったのは間違いないだろう。
「事実、俺達は可哀想だからな。」
「そんなことないっ。女子からはまだ誘われたことないけど・・・可哀想じゃないから。」
イコリスは自身の事を言っていたのだろうが、それは俺にグサグサと刺さった。
官僚クラスの女生徒のうち、俺に挨拶してくれるのはフィーウィ・マールだけだった。他の女生徒からは、目が合ったら仕方なく挨拶してくるといった対応をされていて、声を掛けてくるどころか必要最低限の会話も、可否の返事のみだ。
イコリスに対しては、世間話こそないが普通に挨拶を交わし、会話も成立していた。・・・俺と学院で巡り会った女性との情交への道のりは、ものすごく遠かった。
アイ・レットエクセルとは入学式以来、全く接点が無い。
アイはファウスト達に囲まれて、教室の前扉付近に座っているのだが・・・俺とイコリスは後ろ扉から入退室し、彼女の顔をまともに見ることもなく過ごしている。
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廊下を曲がると、見覚えのある風貌の男子生徒がすぐ先に見えた。
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