笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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主人公登場 入学式 編

門5

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シャリ・・シャリシャリン・・
 校門から吹き込む風で、ラビネの3つ並んだ耳飾りの鈴が、小さく擦れあって鳴っている。
 ラビネはチェリンが持っていた語尾を確認する画用紙を手にして、校門のすぐ近くに立っていた。
 そこからある程度距離を空けた所でファウストは石板を操作し、俺は手鏡を携え、フラリスは名簿を持って控えている。イコリスは俺の背後にいた。

 石板の準備を終えたファウストが、ラビネに目で合図を送ると、
「お待たせ、アイ。入ってくれ。」
 一人で校門の外に待機していたアイへ、ラビネが声を掛けた。

 アイが校門へ進み入ると、風に靡く桃色の髪が光の粒で彩られていく。やがて幾つもの光の粒は繋がり、上半身を包む大きな一つの光となった。
 こうして10秒もかからず校門を通り終えると、雲間から零れた太陽の光の帯を浴び、強制力で変質した姿を明らかにした。

 アイの背中まである桃色の髪は、三つ編みでひとつに括られていた。
 その三つ編みはとても太く、首の倍は幅が有り、後ろで編まれた三つ編みは正面から見ると、首の両側からはみ出ている。
 また、長さも編まれているのに腰近く迄あって、元の髪の量や長さからは考えられない、太くて長い三つ編みだった。

 それからアイは大きな胸の持ち主だが・・・
(・・あれは、やばいっ。) 
 危機を察した俺は手鏡を渡す為、素早く駆け寄った。だが、時すでに遅く、桜の花びらは降り始めた。

「キャーーッ。」
 手鏡に映る自分を見て、アイは両手で胸元を隠した。
 一番近くにいたラビネは、短髪なのに何故か長い襟足の髪と耳飾りの鈴をゆらゆら揺らして、舞い散る桜の花びらに曝されている。

 アイ・レットエクセルの胸の大きさは、変わらなかった。
 パッド4枚のイコリスよりも大きく、キャルクレイより劣る彼女の胸は、校門をくぐる前と同じだ。

 強制力で変わったのはアイの制服だった。正しくは、白い丸襟のブラウスが卑猥になってしまっていた。
 女子の制服の上着は襟が大きく開いており、白いブラウスが胸元まで見える仕様になっているのだが・・・。
 白いブラウスの上から三つ目のボタンあたりから上着の前合わせまでの間に、『ハートの形の穴』が開いていた。

 ブラウスの布地が無くなったハートの穴には、調度、胸の谷間が始まる位置が含まれていた。即ち、肌色のハートの下部に、胸が盛り上がり始める縦の線が刻まれてしまっている。
 その上、桃色の長い髪は後ろで編まれてるので、ハートの穴を髪で見辛くする手段も採れない。

「このシャリリンシャリンは、シャリンシャリリンか。」
 ラビネがアイに話しかけているが、鈴の音で聞き取れない。
 アイは涙目で耳を傾けていたが、更に混乱しているようだった。
 
 俺は後ろにいるフラリスを確かめる為に、慎重に振り向いた。
 案の定、フラリスは卑猥なブラウスで涙目になったアイを目撃して、桜の花びらを散らしている。
 パンツ・・・眼帯を見ないように、視線を逸らすとファウストと目が合った。
「サイナス、ここへ。」
 ファウストから呼ばれたので、フラリスのいる方の視界を手で遮りながら近づいた。

「これを見てくれ。アイの書き換え率が0%になっている。」
 石板の数字を差しながら、ファウストは信じられない事を言った。
「3回測定したが、全部0%だ。試しにラビネを測ったら10%だった・・・。」
「・・・石板が壊れた訳ではないのか。」
「多分、壊れていない。トゥランと話して、後日改めて違う石板で測定しようとは思っているが・・・。」
 
 フラーグ学院の女子の制服は、なぜか襟ぐりが広く大きく開き、丈は短く腹部の二つ並んだ金ボタンは胴の細さを強調していて、リボンやタイは付け無い。
 俺は元からアイの卑猥なブラウスに合わせて作られているのではないか、と思わず勘ぐってしまうのだった。
 
 シャリンシャリンシャリリン
 襟足の長い髪と耳飾りを揺らしながら、ラビネがアイとこちらへ来た。
 ラビネは制服の上着を脱いでアイに渡し、それで胸元を隠させていた。

「サイナスー。花びらと髪の揺れが収まったら教えてねー。」
 少し離れた所から俺達に背中を向けているイコリスが、声を張り上げ告げた。
 その言葉を聞いてしまったラビネは、何度も深呼吸を繰り返すのだった。
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