23 / 100
王侯貴族 事前登校 編
笑22
しおりを挟む
「サイナス、これをっ。」
トゥランが懐から取り出した白い打撃具を投げてよこした。
俺はそれを握ると、振りかぶって勢いよくイコリスの尻へ打ち付けた。
バチーーーーン
大きな破裂音が鳴り響き、イコリスは溜めていた涙をポロポロと零す。
凄い形相でファウストが俺を睨みつけた。
「何てことをするんだっ。」
「イコリス、大丈夫?」
ラビネとチェリンが駆け寄って来る。
ジェネラスはトゥランを詰めている。フラリスは青ざめ、すっかり桜の花びらは消えていた。
「トゥラン、武器を持ち込んだのか?」
「あれは武器ではない。紙で出来ている、イコリスと開発した打撃具だ。」
俺のように危機回避の為に殴って貰うという手段は、令嬢であるイコリスには到底不可能だ。
馬用の鞭を使用する案がイコリスからあったけれど、罪人への刑罰にしか見えず、殴られるよりまずい。打つ方も罪に問われるだろう。
そこで考案されたのが、強度と耐久性のある厚い画用紙を蛇腹状に細長く折り畳み、端を麻紐で巻き持ち手にした、この打撃具である。
わざと目立つように画用紙の色は白を選び、打撃の音が派手に鳴る作りとしたのは、『イコリスがここまでして耐える努力をしている』という宣伝効果をトゥランが狙ったからだ。
この打撃具は、叩くと発生する激しい破裂音のわりに痛くない・・・事もなく結構痛い。何度も同じ箇所を打つと、赤く腫れ上がる程の威力だ。
しかし紙製なので、馬用の鞭よりもずっと悲愴感が無く、流血せず安全だ。単純な構造なので、強引だが子供のおもちゃと言い張れる事も出来て、理にかなっている。
「・・・それに何より、イコリスから頼まれて使ったのだ。国王やファウストにも、この打撃具の話は前もって通してある。」
「そうなのか?」
トゥランからの説明を聞いても釈然としなかったジェネラスは、ファウストに確かめる。
「・・・ああ、そうだ。」
「・・っ。けど、どうして今・・・。本当に叩く必要、あったのか?」
その問いに答える為、トゥランはフラリスの肩を掴み体の向きをジェネラスのいる方へ変えた。そして後ろから左の前髪をかき上げて、眼帯の全容をジェネラスに見せつける。
言うまでもなく、俺とイコリスには見えない角度だ。
ファウストと旧生徒会の何名かは、フラリスの可愛いパン・・・眼帯に被弾していた。
不自然な咳払いが複数する中、ファウストは目頭を押さえた。
太い眉を再度下げたジェネラスは、俯いてしまった。
「え?何?何?」
「もう、良いだろう。フラリスは、箱入りなんだよ。」
既に眼帯を外していたブリストン一族の旧生徒会役員が、戸惑うフラリスを庇ってトゥランから引きはがし、校門の外へ連れて行ってしまった。
「話は聞いていたが、あの打撃具は最終手段だったはずだ。・・・それにしても力いっぱい叩いていたな。」
俺を睨みながら話すファウストを無視して、上着を脱ぐ。俺が反論すると、浅ましい言い訳と捉えられかねない。
「ある程度痛くないと、抑止力にならない。サイナスは上手くやったよ。おかげで皆、イコリスに同情的だ。」
「当たり前だっ。あんな風にぶつなんて・・・武術の稽古でもしないぞっ。」
トゥランの返答にジェネラスは食ってかかる。
「ジェネラス、私は平気だから。ラビネ、チェリンも心配してくれてありがとう。」
スカートのプリーツを撫でながら礼を述べるイコリスは真顔だった。
本来であれば笑顔で、安心させたいところだろう。
俺は脱いだ制服の上着をキャルクレイの肩へ掛け終えると、
「手に取って見定めると良いよ。」
紙の打撃具をジェネラスに投げて渡した。
ジェネラスはケーナイン一族の旧生徒会役員と、受け取った打撃具を調べ始めた。
一方、イコリスは駆け寄って来たラビネとチェリンをジリジリと押して、キャルクレイから遠ざけようとしていた。そんな扱いに傷つくチェリンとは対照的に、ラビネは押し返そうとするイコリスを微笑ましく眺めている。
先刻、ラビネはキャルクレイの透け乳に桜を散らさなかった。・・・この余裕は、サウザンドとキュリテグロースの年上女性と親密にしているとの噂が事実だからだ。
なんと不愉快極まりないことだろう。
トゥランが懐から取り出した白い打撃具を投げてよこした。
俺はそれを握ると、振りかぶって勢いよくイコリスの尻へ打ち付けた。
バチーーーーン
大きな破裂音が鳴り響き、イコリスは溜めていた涙をポロポロと零す。
凄い形相でファウストが俺を睨みつけた。
「何てことをするんだっ。」
「イコリス、大丈夫?」
ラビネとチェリンが駆け寄って来る。
ジェネラスはトゥランを詰めている。フラリスは青ざめ、すっかり桜の花びらは消えていた。
「トゥラン、武器を持ち込んだのか?」
「あれは武器ではない。紙で出来ている、イコリスと開発した打撃具だ。」
俺のように危機回避の為に殴って貰うという手段は、令嬢であるイコリスには到底不可能だ。
馬用の鞭を使用する案がイコリスからあったけれど、罪人への刑罰にしか見えず、殴られるよりまずい。打つ方も罪に問われるだろう。
そこで考案されたのが、強度と耐久性のある厚い画用紙を蛇腹状に細長く折り畳み、端を麻紐で巻き持ち手にした、この打撃具である。
わざと目立つように画用紙の色は白を選び、打撃の音が派手に鳴る作りとしたのは、『イコリスがここまでして耐える努力をしている』という宣伝効果をトゥランが狙ったからだ。
この打撃具は、叩くと発生する激しい破裂音のわりに痛くない・・・事もなく結構痛い。何度も同じ箇所を打つと、赤く腫れ上がる程の威力だ。
しかし紙製なので、馬用の鞭よりもずっと悲愴感が無く、流血せず安全だ。単純な構造なので、強引だが子供のおもちゃと言い張れる事も出来て、理にかなっている。
「・・・それに何より、イコリスから頼まれて使ったのだ。国王やファウストにも、この打撃具の話は前もって通してある。」
「そうなのか?」
トゥランからの説明を聞いても釈然としなかったジェネラスは、ファウストに確かめる。
「・・・ああ、そうだ。」
「・・っ。けど、どうして今・・・。本当に叩く必要、あったのか?」
その問いに答える為、トゥランはフラリスの肩を掴み体の向きをジェネラスのいる方へ変えた。そして後ろから左の前髪をかき上げて、眼帯の全容をジェネラスに見せつける。
言うまでもなく、俺とイコリスには見えない角度だ。
ファウストと旧生徒会の何名かは、フラリスの可愛いパン・・・眼帯に被弾していた。
不自然な咳払いが複数する中、ファウストは目頭を押さえた。
太い眉を再度下げたジェネラスは、俯いてしまった。
「え?何?何?」
「もう、良いだろう。フラリスは、箱入りなんだよ。」
既に眼帯を外していたブリストン一族の旧生徒会役員が、戸惑うフラリスを庇ってトゥランから引きはがし、校門の外へ連れて行ってしまった。
「話は聞いていたが、あの打撃具は最終手段だったはずだ。・・・それにしても力いっぱい叩いていたな。」
俺を睨みながら話すファウストを無視して、上着を脱ぐ。俺が反論すると、浅ましい言い訳と捉えられかねない。
「ある程度痛くないと、抑止力にならない。サイナスは上手くやったよ。おかげで皆、イコリスに同情的だ。」
「当たり前だっ。あんな風にぶつなんて・・・武術の稽古でもしないぞっ。」
トゥランの返答にジェネラスは食ってかかる。
「ジェネラス、私は平気だから。ラビネ、チェリンも心配してくれてありがとう。」
スカートのプリーツを撫でながら礼を述べるイコリスは真顔だった。
本来であれば笑顔で、安心させたいところだろう。
俺は脱いだ制服の上着をキャルクレイの肩へ掛け終えると、
「手に取って見定めると良いよ。」
紙の打撃具をジェネラスに投げて渡した。
ジェネラスはケーナイン一族の旧生徒会役員と、受け取った打撃具を調べ始めた。
一方、イコリスは駆け寄って来たラビネとチェリンをジリジリと押して、キャルクレイから遠ざけようとしていた。そんな扱いに傷つくチェリンとは対照的に、ラビネは押し返そうとするイコリスを微笑ましく眺めている。
先刻、ラビネはキャルクレイの透け乳に桜を散らさなかった。・・・この余裕は、サウザンドとキュリテグロースの年上女性と親密にしているとの噂が事実だからだ。
なんと不愉快極まりないことだろう。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる