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王侯貴族 事前登校 編
笑18
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「イコリス、見てごらん。」
旧副会長ではなくトゥランが手鏡を持って、少し離れた所からイコリスの上半身を映して見せた。
鏡に映るイコリスが持つ扇子の形状は、校門をくぐる前のまま丸かった。
「良かったね。イコリス。」
ファウストが甘美な笑みを湛え、イコリスへ両手を拡げて一歩前進したが、喜びを分かち合う抱擁はなされなかった。
「よっしゃあああっ。」
イコリスは扇子を持たない方の手を、固く握りしめ天に突き上げ、空を仰いで叫んだからだ。
しゃあしゃあしゃあ・・・。
「嬉しそうでなによりだな。」
叫び声の残響が終わる頃、気を取り直したファウストが俺に振り向き、話しかけてきた。
「そ、そうだな。けど・・・はしゃぎすぎだぞー。イコリスー。」
「落ち着いて。喜び過ぎると危険だ。」
「・・・ごめんなさい。つい・・・平常心。平常心。」
俺とトゥランから注意を受けて、イコリスは素直に反省し、冷静さを取り戻そうと努めた。
「彼女の書き換え率は8%だ。」
眼鏡をかけた旧生徒会役員が、持っている石板をトゥランへ差し出し、使い方を説明しだした。
よく見ると彼の髪の色は、本紫から暗い葡萄色へと変わっていた。頭頂部の毛束の長さはトゥランの三分の一だ。生徒会役員を完全に引退出来たので、もうフラーグ学院の生徒ではなくなり、強制力は消滅している。
遠巻きにしていた他の旧生徒会役員達も、同族で各々、会話を始めた。強制力から解放された彼らの髪の色は、ジェネラス達と並ぶと、一様にくすみ明度が低くなっているのが分かる。
「・・・サイナス・・・。」
旧生徒会副会長のキャルクレイ・プラントリーが俺を呼んだ。なんだか元気がない。
「キャルクレイ、お久しぶりです。3年前に会ったきりでしたか。」
「・・そう・・・。」
シーコック国の南方から、フラーグ学院への入学の為に上京したキャルクレイは、学院内の寮で暮らしていた。イコリスと俺の居る屋敷に住んで、通学できれば良かったのだが・・・。
キャルクレイは3年会わない間に、身長が高くなって随分と大人びている。
短髪は癖毛から直毛へ戻り、真っ直ぐに伸びた前髪は口元を覆う仮面に迄達し、うなじにも銀色の髪の束を幾らか絡みつかせていた。
「引き継ぎ事項だが・・・その前に、はしたないが着衣を緩めさせてもらうよ。」
キャルクレイはポケットから不織布のマスクを取り出し、上着の袖から腕を引き抜きだした。
「はい。勿論、かまいません。・・・イコリス、ちょっと来て。」
所在無いので、キャルクレイと挨拶させようとイコリスを呼ぶ。
歩み寄るイコリスが持つ丸い扇子を見て、目にも留まらぬ速さで裏返す特訓に今日から付き合うのかと俺は思い、げんなりした。
その時、どこからともなく数枚の桜の花びらがひらひらと俺達の間に舞い落ちた。
「「・・・?・・・・」」
不意打ち過ぎて、俺とイコリスは呆然とした。
旧副会長ではなくトゥランが手鏡を持って、少し離れた所からイコリスの上半身を映して見せた。
鏡に映るイコリスが持つ扇子の形状は、校門をくぐる前のまま丸かった。
「良かったね。イコリス。」
ファウストが甘美な笑みを湛え、イコリスへ両手を拡げて一歩前進したが、喜びを分かち合う抱擁はなされなかった。
「よっしゃあああっ。」
イコリスは扇子を持たない方の手を、固く握りしめ天に突き上げ、空を仰いで叫んだからだ。
しゃあしゃあしゃあ・・・。
「嬉しそうでなによりだな。」
叫び声の残響が終わる頃、気を取り直したファウストが俺に振り向き、話しかけてきた。
「そ、そうだな。けど・・・はしゃぎすぎだぞー。イコリスー。」
「落ち着いて。喜び過ぎると危険だ。」
「・・・ごめんなさい。つい・・・平常心。平常心。」
俺とトゥランから注意を受けて、イコリスは素直に反省し、冷静さを取り戻そうと努めた。
「彼女の書き換え率は8%だ。」
眼鏡をかけた旧生徒会役員が、持っている石板をトゥランへ差し出し、使い方を説明しだした。
よく見ると彼の髪の色は、本紫から暗い葡萄色へと変わっていた。頭頂部の毛束の長さはトゥランの三分の一だ。生徒会役員を完全に引退出来たので、もうフラーグ学院の生徒ではなくなり、強制力は消滅している。
遠巻きにしていた他の旧生徒会役員達も、同族で各々、会話を始めた。強制力から解放された彼らの髪の色は、ジェネラス達と並ぶと、一様にくすみ明度が低くなっているのが分かる。
「・・・サイナス・・・。」
旧生徒会副会長のキャルクレイ・プラントリーが俺を呼んだ。なんだか元気がない。
「キャルクレイ、お久しぶりです。3年前に会ったきりでしたか。」
「・・そう・・・。」
シーコック国の南方から、フラーグ学院への入学の為に上京したキャルクレイは、学院内の寮で暮らしていた。イコリスと俺の居る屋敷に住んで、通学できれば良かったのだが・・・。
キャルクレイは3年会わない間に、身長が高くなって随分と大人びている。
短髪は癖毛から直毛へ戻り、真っ直ぐに伸びた前髪は口元を覆う仮面に迄達し、うなじにも銀色の髪の束を幾らか絡みつかせていた。
「引き継ぎ事項だが・・・その前に、はしたないが着衣を緩めさせてもらうよ。」
キャルクレイはポケットから不織布のマスクを取り出し、上着の袖から腕を引き抜きだした。
「はい。勿論、かまいません。・・・イコリス、ちょっと来て。」
所在無いので、キャルクレイと挨拶させようとイコリスを呼ぶ。
歩み寄るイコリスが持つ丸い扇子を見て、目にも留まらぬ速さで裏返す特訓に今日から付き合うのかと俺は思い、げんなりした。
その時、どこからともなく数枚の桜の花びらがひらひらと俺達の間に舞い落ちた。
「「・・・?・・・・」」
不意打ち過ぎて、俺とイコリスは呆然とした。
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