笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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王侯貴族 事前登校 編

笑16

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「ガチガチに力んでるぞ。気負い過ぎは良くない。」
 俺はマスクの位置を整えながら、イコリスを宥めた。
「そうね。平常心じゃないと、咄嗟の対応が出来ないし・・・。」
「まあ、緊張するなってのは無理だよな。さっさと終わらせて、義父さん達に面白い土産話を持って帰ろう。」
「今日の夕食は家族で腹筋崩壊しそう。」
「崩壊したら、夕食が食べられないよ。」
 二人きりなので軽口を交わしているが、双方、表情は崩していない。

「じゃ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」
 イコリスは扇子を持っていない手の親指を立て、それから手を振り俺を見送った。
 
 校門へ足を踏み入れると、俺の頭部にチカチカと光点が現れ始めた。
 思ったより奥行がある門を歩いて行くと、完全に目の前が光に覆われる。俺は目を瞑り、光の明滅を瞼越しに感じた。ほどなく光の粒が消え頭皮のざわつきも治まったので、そっと目を開ける。
 まず、マスクに手を当て、材質を確かめた。適度に柔らかい質感で重みも変わっていない。どうにかシルクを貼った不織布のマスクを、仮面と認めさせたらしい。

 強制力が課され終えた自身を確認する為、同じプラントリー一族である旧生徒会副会長に近寄る。
 旧副会長の制服を見ると、白い記章と腕章は消えており、いつしか俺の制服に新たに記章と腕章が装着されていた。俺は無事に副会長を引き継いでいる事に、ひとまず安堵した。
 旧副会長より受け取った手鏡を見ると、直毛から緩い癖毛に変質していた。
 癖毛の短髪はまとまりがなさそうだが、俺の白銀色の波うつ髪は良い感じに仕上がっていて、時間をかけ整えたような髪型になっていた。
 これからは寝起きのまま黒い袋を被って学院迄登校し、校門を通る事で髪を整えればいいのではないか、とズボラな方法を俺は思いついた。

「サイナス・プラントリー、書き換え率5%」 
 告げられた書き換え率が少々腑に落ちなかったのでもう一度手鏡を見てみると、薄緑の瞳の色がほんのわずか濃くなっていた。差し障りはない事を、トゥランに目で合図して知らせる。

「サイナスに異常無し、概ね良好だ。準備出来次第、進入してくれ。」
 トゥランが校門の前に一人で居るイコリスへ、現状を伝え憂慮を除いてあげてから、進入を促した。
 イコリスは頷くと、丸い扇子で鼻から下を隠したまま目を閉じ、深く息を吸って精神統一を始めた。すると、声をかけたかったらしいファウストが、表情をこわばらせて腕を組む。
 王太子としての矜持をイコリスへ示したかったのではなく、純粋に力付けたかったのだろうが、ここは共に修練を積んできたトゥランに分があった。
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