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王侯貴族 事前登校 編
笑10
しおりを挟むハル・エボニーを搬送する緊急救急班が見えなくなると、ジェネラスが仕切り直した。
「さあ、続きを始めよう。サイナス、次は君が順当だろう。」
「いいや、後に回してくれ。イコリスが最後だから、寸前までこっち側に残っていたいんだ。」
生徒会長の次は副会長の俺だろうが、生徒会には入らないので最後になるイコリスを、校門の外へ置き去りにしてこれからの試練を迎えたくはなかった。
「そうか、じゃあ来た順ってことで、俺が行くよ。」
ジェネラスはさっさと一人で決めて、校門へ向かった。湿っぽい空気を変えたかったのかもしれない。
校門の中へジェネラスが足を踏み入れると、肩まで伸びた髪が光りだした。腰に差した棒はそのままなので、強制力に耐えたようだ。
光の粒が消えると棒を右手に持ち、見定めるように上下左右と素振りをする。
特に欠陥は生じなかったらしく、棒を腰に戻すとジェネラスは俺とイコリスへ振り向き、屈託なく笑った。
俺とイコリスは打ち震えた。お互いにしか分からない位の小刻みな震えで、俺達は戦慄ていた。
ジェネラスの髪はすっきりした短髪になり、えんじ色が彩度の高い赤となった。
無くなった伸ばしていた分の髪は、耳の前の一房の長い髪として変質していた。両耳の前に出現したが、もみあげではない。
「ジェネラス・ケーナイン、書き換え率7%」
石板を持つ旧生徒会役員の声が聞こえた。
耳の前の髪の房は、トゥランの頭頂部の毛束よりも太く、長さは胸まであった。ジェネラスが伸ばした髪は肩迄だったので、それよりも長くはなったが、書き換え率がファウストより高くなったのは髪のせいではないだろう。
そう思うのは、眉毛が変わっていたからだ。
濃く太い眉に変わっていた。元の眉の2倍以上太く、髪の色より暗く濃い赤色になっている。
俺とイコリスはトゥランと多くの情報を集め、強制力が及んだ姿絵を作成し備えてきたが、ここまで眉毛が太くなるケーナイン一族はいなかった。皆、少々勇ましさが増す程度の眉だったのだが、ジェネラスは勇ましいを通り越して熱苦しい眉だ。
「イ、イコリス、大丈夫か?」
「・・あ、あのくらい、きょ、許容範囲よ。」
俺達は、声が震えてしまっていた。
手鏡で自身を確認し終えたジェネラスは、ファウストと片手を軽く上げて叩き合った。
俺達が過剰に捉えすぎたのかと錯覚しそうになる位、ジェネラスの顔つきは晴れやかだ。
「チェリン、先に行っていいよ。」
「わかった。次、僕ね。」
ラビネに促されたチェリンは、深緑の長い髪を後ろで一つにまとめてくくった。
腰まであるのに毛先まで潤った綺麗な髪だ。
「手入れが行き届いて綺麗ね。自分で髪の艶を保ってるの?」
ジェネラスの衝撃を紛らわせたいイコリスが、チェリンに話しかけた。
「自分では無理だよ。使用人がしてくれてる。」
「洗髪から?使用人が?」
「これだけ長いと手間がかかって・・。」
「週に2回はメイドに洗ってもらっているんだって。」
聞き捨てならない事をラビネが言ったので、俺は会話に加わる。
「その髪を洗うメイドは何歳なんだ?」
「え??手入れに年齢は関係なくな・・・。」
「重要なことだっ。」
フラリスが参戦してきた。
「や・・その・・普段は自分で洗ってて、本格的な手入れをする時だけ・・・。」
「23歳だよ。」
「ちょっと、何で言うのっラビネっ。」
イコリスをちらちら見ながら、チェリンはラビネの前に立ちはだかった。
俺はチェリンにではなく、ラビネに質問する事にした。
「メイドと一緒にお風呂に入って、洗ってもらうのか?」
「フェインバハヒニハヒ・・。」
「そんなっ一緒に入るわけないだろっ。」
ラビネの口を塞いだチェリンが叫ぶ。
「・・チェリンがさきにはい・・・て?」
口を塞がれたまま話すラビネの言葉を、イコリスが解読しようとしていた。
「前にチェリンの屋敷へ遊びに行った時、亜麻色の髪の可愛いメイドがいたが・・・まさかっ。」
青ざめているフラリスに、俺は聞かなければならない。
「その子の体形は?」
「・・・小柄で巨乳っ。」
「ファアホボオバべ。」
「・・ああ、そのこだね・・・?」
「待ってっ待って待って。違う違う。彼女は服着たままだからっ。」
慌てすぎたチェリンは、殆ど語るに落ちている事に気づいていないようだった。
「ファウストが早くしろって。」
校門の向こうのファウストを指して、トゥランが助け舟を出した。
「あ、行かないと。ファウストを放っておくと、寂しがるから。」
そう言ってチェリンは一束の前髪を、まとめていた髪から引き出して顔の前に下ろした。
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