笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

文字の大きさ
11 / 152
王侯貴族 事前登校 編

笑10

しおりを挟む

 ハル・エボニーを搬送する緊急救急班が見えなくなると、ジェネラスが仕切り直した。
「さあ、続きを始めよう。サイナス、次は君が順当だろう。」

「いいや、後に回してくれ。イコリスが最後だから、寸前までこっち側に残っていたいんだ。」
 生徒会長の次は副会長の俺だろうが、生徒会には入らないので最後になるイコリスを、校門の外へ置き去りにしてこれからの試練を迎えたくはなかった。

「そうか、じゃあ来た順ってことで、俺が行くよ。」
 ジェネラスはさっさと一人で決めて、校門へ向かった。湿っぽい空気を変えたかったのかもしれない。


 校門の中へジェネラスが足を踏み入れると、肩まで伸びた髪が光りだした。腰に差した棒はそのままなので、強制力に耐えたようだ。
 光の粒が消えると棒を右手に持ち、見定めるように上下左右と素振りをする。
 特に欠陥は生じなかったらしく、棒を腰に戻すとジェネラスは俺とイコリスへ振り向き、屈託なく笑った。
 
 
 俺とイコリスは打ち震えた。お互いにしか分からない位の小刻みな震えで、俺達は戦慄ていた。
 ジェネラスの髪はすっきりした短髪になり、えんじ色が彩度の高い赤となった。
 無くなった伸ばしていた分の髪は、耳の前の一房の長い髪として変質していた。両耳の前に出現したが、もみあげではない。

「ジェネラス・ケーナイン、書き換え率7%」
 石板を持つ旧生徒会役員の声が聞こえた。
 耳の前の髪の房は、トゥランの頭頂部の毛束よりも太く、長さは胸まであった。ジェネラスが伸ばした髪は肩迄だったので、それよりも長くはなったが、書き換え率がファウストより高くなったのは髪のせいではないだろう。

 そう思うのは、眉毛が変わっていたからだ。
 濃く太い眉に変わっていた。元の眉の2倍以上太く、髪の色より暗く濃い赤色になっている。


 俺とイコリスはトゥランと多くの情報を集め、強制力が及んだ姿絵を作成し備えてきたが、ここまで眉毛が太くなるケーナイン一族はいなかった。皆、少々勇ましさが増す程度の眉だったのだが、ジェネラスは勇ましいを通り越して熱苦しい眉だ。

「イ、イコリス、大丈夫か?」
「・・あ、あのくらい、きょ、許容範囲よ。」
 俺達は、声が震えてしまっていた。


 手鏡で自身を確認し終えたジェネラスは、ファウストと片手を軽く上げて叩き合った。
 俺達が過剰に捉えすぎたのかと錯覚しそうになる位、ジェネラスの顔つきは晴れやかだ。



「チェリン、先に行っていいよ。」
「わかった。次、僕ね。」
 ラビネに促されたチェリンは、深緑の長い髪を後ろで一つにまとめてくくった。
 腰まであるのに毛先まで潤った綺麗な髪だ。

「手入れが行き届いて綺麗ね。自分で髪の艶を保ってるの?」
 ジェネラスの衝撃を紛らわせたいイコリスが、チェリンに話しかけた。
「自分では無理だよ。使用人がしてくれてる。」
「洗髪から?使用人が?」
「これだけ長いと手間がかかって・・。」


「週に2回はメイドに洗ってもらっているんだって。」
 聞き捨てならない事をラビネが言ったので、俺は会話に加わる。

「その髪を洗うメイドは何歳なんだ?」
「え??手入れに年齢は関係なくな・・・。」

「重要なことだっ。」
 フラリスが参戦してきた。


「や・・その・・普段は自分で洗ってて、本格的な手入れをする時だけ・・・。」
「23歳だよ。」
「ちょっと、何で言うのっラビネっ。」
 イコリスをちらちら見ながら、チェリンはラビネの前に立ちはだかった。


 俺はチェリンにではなく、ラビネに質問する事にした。
「メイドと一緒にお風呂に入って、洗ってもらうのか?」
「フェインバハヒニハヒ・・。」
「そんなっ一緒に入るわけないだろっ。」
 ラビネの口を塞いだチェリンが叫ぶ。

「・・チェリンがさきにはい・・・て?」
 口を塞がれたまま話すラビネの言葉を、イコリスが解読しようとしていた。


「前にチェリンの屋敷へ遊びに行った時、亜麻色の髪の可愛いメイドがいたが・・・まさかっ。」
 青ざめているフラリスに、俺は聞かなければならない。
「その子の体形は?」
「・・・小柄で巨乳っ。」


「ファアホボオバべ。」
「・・ああ、そのこだね・・・?」

「待ってっ待って待って。違う違う。彼女は服着たままだからっ。」
 慌てすぎたチェリンは、殆ど語るに落ちている事に気づいていないようだった。


「ファウストが早くしろって。」
 校門の向こうのファウストを指して、トゥランが助け舟を出した。

「あ、行かないと。ファウストを放っておくと、寂しがるから。」
 そう言ってチェリンは一束の前髪を、まとめていた髪から引き出して顔の前に下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

処理中です...