哀愛

さんわ。

「きっと、お兄さんのことで、動揺されていたのでしょう……。
見ていた人の証言によりますと、赤信号なのに凄い勢いで渡っていたと……」

母と父が来るはずだった場所に、私は呼ばれた。
たった一人で、多くの大人に囲まれたのを覚えている。
その中には、誰一人として知り合いがいないことも。

「親戚の方に声はかけてみたんだけど……」
すごく言いづらそうに、言葉を濁らせた。



ーー私に行く場所なんて、なかった。


母と父が残した家だけは、それでもまだ私を待っていてくれた。
それでもわかってしまう。
ここにいれるのも、あと少しだろう。


頭の中でぐるぐるとひたすら回るのは、家族みんなの死と、これからの私の生き方だった。
私はバイトも何もしていない。
高校のお金は？
家賃は？
払えるはずがない。

それに、なによりも……
兄が肩を持った、友達の借金……。

いつか漫画やアニメのように、誰が家のドアを叩くのだろうか？
それとも、考えすぎ……？


わからない、。
でもーーー……




「ピンポーン」