1 / 7
幼馴染
しおりを挟む
「ねえ、相変わらず太陽の光は苦手なの? 」
私は幼馴染のカリュードにそう尋ねた。
ここは私の実家であるトクソン伯爵家と、彼の実家であるミュラー侯爵家の屋敷の境にある山に存在している洞窟の中。
外からの太陽の光で何とかお互いの姿は見えるが、薄暗いそこは私とカリュードの秘密基地のような場所であった。
「ああ。太陽の光に当たると、次の日皮膚が爛れてしまうんだ。それにひどい頭痛も」
カリュードは幼い頃から太陽の光を浴びることができない体質であった。
皮膚が弱く、刺激の強い日光は火傷の原因ともなりうる。
そして極め付けは激しい頭痛ときた。
領地が隣り合わせの私たちは、幼い頃から一緒に遊ぶことが多く、それは十六歳と十七歳にになる今でも変わらない。
もちろん今では、昔のように曇りの日に野原を駆け回るような真似はしないが。
彼と二人で語り合う時間はとても楽しく、あっという間に過ぎていく。
太陽の光が苦手な彼のために、二人で会うのはお互いの屋敷か雨の日の温室、そしてこの洞窟の中がほとんどだった。
「そう……だけど、侯爵の座を継いだらそんなこと言っていられないのでは無いの? 」
「ああ。少しずつ体を慣らす訓練をしなければならないな」
「訓練? 」
カリュードは十八歳を迎えたら、父である現ミュラー侯爵の跡を継ぐことが決まっていた。
侯爵ともなれば、いつまでもこのように暗闇で生活することなど許されないだろう。
残すところ後一年、カリュードの訓練というのは一体どんなことをおこなうのだろうか。
「シェイラは気にしなくていいよ。大丈夫、後一年もあるんだ。立派な侯爵になってみせるさ」
「そう……。あ、そろそろ行かなきゃ。年頃の娘がこんなに暗くなるまで外にいるなんてって、お父様に怒られちゃう」
「トクソン伯爵が? 」
「ええ。最近少しずつ縁談が持ち込まれるようになったの。だからお父様もなんだかピリピリとしていて。婚約前に何か粗相を起こすなと、口を酸っぱくして言われているわ」
私は笑いながらそう言った。
「縁談……? 」
カリュードがピクリと反応した。
その表情は先ほどと打って変わって険しいものになっている。
「そうよ。まだ目を通していないのだけれど。考えてみれば私たちも、もう十六歳だものね。そろそろそういったことを考えなければならない年頃だわ」
「まだ早いだろう……」
「そんなことはないわよ? カリュードなんて次期侯爵だわ。後継は絶対に必要でしょうに」
カリュードは俯いている。
洞窟の暗闇もてつだって、私には彼の表情が窺えない。
「とりあえず、帰るわね。また近いうちに」
「もう薄暗くなっているだろう、送るよ」
「大丈夫よ。うっすら陽の光も残っているだろうし、あなたに負担をかけたく無いわ」
私はカリュードに微笑むと、ゆっくり洞窟から身を乗り出した。
暗闇に慣れていた体には、夕焼けすら眩しく感じてしまう。
「シェイラ」
不意に後ろからカリュードに呼び止められ、私は振り向いた。
相変わらず彼の顔はよく見えないが、その声色はいつもの彼と同じである。
「気をつけて、帰れよ」
私は返事の代わりに頷くと、洞窟を後にした。
私は幼馴染のカリュードにそう尋ねた。
ここは私の実家であるトクソン伯爵家と、彼の実家であるミュラー侯爵家の屋敷の境にある山に存在している洞窟の中。
外からの太陽の光で何とかお互いの姿は見えるが、薄暗いそこは私とカリュードの秘密基地のような場所であった。
「ああ。太陽の光に当たると、次の日皮膚が爛れてしまうんだ。それにひどい頭痛も」
カリュードは幼い頃から太陽の光を浴びることができない体質であった。
皮膚が弱く、刺激の強い日光は火傷の原因ともなりうる。
そして極め付けは激しい頭痛ときた。
領地が隣り合わせの私たちは、幼い頃から一緒に遊ぶことが多く、それは十六歳と十七歳にになる今でも変わらない。
もちろん今では、昔のように曇りの日に野原を駆け回るような真似はしないが。
彼と二人で語り合う時間はとても楽しく、あっという間に過ぎていく。
太陽の光が苦手な彼のために、二人で会うのはお互いの屋敷か雨の日の温室、そしてこの洞窟の中がほとんどだった。
「そう……だけど、侯爵の座を継いだらそんなこと言っていられないのでは無いの? 」
「ああ。少しずつ体を慣らす訓練をしなければならないな」
「訓練? 」
カリュードは十八歳を迎えたら、父である現ミュラー侯爵の跡を継ぐことが決まっていた。
侯爵ともなれば、いつまでもこのように暗闇で生活することなど許されないだろう。
残すところ後一年、カリュードの訓練というのは一体どんなことをおこなうのだろうか。
「シェイラは気にしなくていいよ。大丈夫、後一年もあるんだ。立派な侯爵になってみせるさ」
「そう……。あ、そろそろ行かなきゃ。年頃の娘がこんなに暗くなるまで外にいるなんてって、お父様に怒られちゃう」
「トクソン伯爵が? 」
「ええ。最近少しずつ縁談が持ち込まれるようになったの。だからお父様もなんだかピリピリとしていて。婚約前に何か粗相を起こすなと、口を酸っぱくして言われているわ」
私は笑いながらそう言った。
「縁談……? 」
カリュードがピクリと反応した。
その表情は先ほどと打って変わって険しいものになっている。
「そうよ。まだ目を通していないのだけれど。考えてみれば私たちも、もう十六歳だものね。そろそろそういったことを考えなければならない年頃だわ」
「まだ早いだろう……」
「そんなことはないわよ? カリュードなんて次期侯爵だわ。後継は絶対に必要でしょうに」
カリュードは俯いている。
洞窟の暗闇もてつだって、私には彼の表情が窺えない。
「とりあえず、帰るわね。また近いうちに」
「もう薄暗くなっているだろう、送るよ」
「大丈夫よ。うっすら陽の光も残っているだろうし、あなたに負担をかけたく無いわ」
私はカリュードに微笑むと、ゆっくり洞窟から身を乗り出した。
暗闇に慣れていた体には、夕焼けすら眩しく感じてしまう。
「シェイラ」
不意に後ろからカリュードに呼び止められ、私は振り向いた。
相変わらず彼の顔はよく見えないが、その声色はいつもの彼と同じである。
「気をつけて、帰れよ」
私は返事の代わりに頷くと、洞窟を後にした。
55
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
騎士団長の幼なじみ
入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。
あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。
ある日、マールに縁談が来て……。
歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

離縁希望の側室と王の寵愛
イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。
国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。
いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──?
※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。
シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる