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番外編
リンドという男 11
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「本当に俺は何度同じことを繰り返すんだ……」
アマリアと不意打ちの口付けを交わしたその夜、リンドは自室で自責の念に駆られていた。
結局あれからリンドは我に返り、アマリアを押し退ける様にして応接間を後にしたのだ。
アマリアは悲しげに瞳を揺らしてその様子を見ていた。
……危なかった。
リンドはカリーナとの間にも同じ様なことがあったと思い出していた。
中途半端な行動は相手を傷付けるだけだと、誰よりも学んできたはずなのに。
また同じ過ちを繰り返そうとしている自分に腹が立つ。
さらにマリアンヌの告白を断っておきながらアマリアとあのような事態になってしまったことにも後ろめたさを感じていた。
そして何よりリンドに衝撃を与えたことは、口付けを交わした時にカリーナに感じたような衝動を感じなかったのである。
そのお陰で冷静さを取り戻すことができたのだが。
やはり自分はカリーナの事を忘れてはいなかったのだ。
心の中に眠るカリーナへの想いは今も残っていた。
アマリアに口付けられたことでカリーナへの消えぬ想いを思い知るとは皮肉ではあるが、この思いが消えることは生涯ないだろう。
カリーナに似たアマリアに惹かれかけたような気がしていたが、結局は勘違いだったのかもしれない。
アマリアにカリーナの幻覚を重ね合わせてしまったのか。
彼女は確かに素敵な女性に育ったし、彼女と話しているのは楽しい。
だがそれだけなのだ。
やはり自分にはもう誰かと恋をすることはできないのだろう。
これ以上彼女を傷つけてしまう前に、アマリアと距離を置こう、リンドはそう決めたのである。
そんな折、リンドはローランド辺境伯から呼び出される。
突然の呼び出しに、再び領内の治安が悪化したのではと懸念しながら話を伺えば、辺境伯が告げたのは予想外の内容であった。
「君をシークベルト公爵の座に戻そうと思っている」
リンドがシークベルト公爵家を出てから4年の月日が経っていたが、まさに青天の霹靂であった。
「……いや、俺は……私はもう二度と公爵の座にはつかないと、覚悟の上でこちらにきました。今更戻るようなことは許されませんし、公爵家の面々にも申し訳が立ちません」
「だがこれは王命なのだよ」
「アレックス……いや、国王陛下の!? そんなはずは……」
あの日、自分は国王の婚約者であるカリーナに横恋慕して城へ入ったのだ。
到底許される罪ではないはずなのに。
「国王陛下は君のことを許すと仰っている。もう過去のことは忘れようと。アルハンブラには君のような優秀な人材が必要なのだと仰っていたよ」
「だがしかし……」
「一度、城へ来てほしいそうだ。君と久しぶりにゆっくり話がしたいと」
王命と言われてはこちらは断ることはできない。
リンドは気の進まぬまま、カリーナと別れたあの日ぶりに城へと向かったのである。
「久しぶりだね、リンド」
謁見の間に通されたリンドの目の前には、以前の記憶よりも少し国王としての威厳を増した従兄弟アレックスの姿があった。
彼は自分と同じエメラルドの瞳を細めてニッコリ笑っている。
「国王陛下におかれましては……」
「そんな、堅苦しい関係ではなかったはずだが? 」
リンドがパッと顔を上げると、少し拗ねたような表情をしたアレックスが。
「ですが……」
「いいかい、今日は私は従兄弟殿と親しく語り合おうと思ってお前を呼んだんだ。昔のように接してほしい」
「……ああ、わかったよ」
二人が語らうのも四年ぶりである。
それまではアレックスの執務を日々手伝い、毎日のように顔を合わせていた親友のような存在であったというのに。
「大方の様子はローランド辺境伯から聞いているよ。元気にしていたかい? 」
「ああ、辺境伯にはお世話になりっぱなしだ。本当に感謝している」
「あの話もきいたかい? 」
あの話とは、リンドに再びシークベルト公爵の座を、というものだろうか。
アマリアと不意打ちの口付けを交わしたその夜、リンドは自室で自責の念に駆られていた。
結局あれからリンドは我に返り、アマリアを押し退ける様にして応接間を後にしたのだ。
アマリアは悲しげに瞳を揺らしてその様子を見ていた。
……危なかった。
リンドはカリーナとの間にも同じ様なことがあったと思い出していた。
中途半端な行動は相手を傷付けるだけだと、誰よりも学んできたはずなのに。
また同じ過ちを繰り返そうとしている自分に腹が立つ。
さらにマリアンヌの告白を断っておきながらアマリアとあのような事態になってしまったことにも後ろめたさを感じていた。
そして何よりリンドに衝撃を与えたことは、口付けを交わした時にカリーナに感じたような衝動を感じなかったのである。
そのお陰で冷静さを取り戻すことができたのだが。
やはり自分はカリーナの事を忘れてはいなかったのだ。
心の中に眠るカリーナへの想いは今も残っていた。
アマリアに口付けられたことでカリーナへの消えぬ想いを思い知るとは皮肉ではあるが、この思いが消えることは生涯ないだろう。
カリーナに似たアマリアに惹かれかけたような気がしていたが、結局は勘違いだったのかもしれない。
アマリアにカリーナの幻覚を重ね合わせてしまったのか。
彼女は確かに素敵な女性に育ったし、彼女と話しているのは楽しい。
だがそれだけなのだ。
やはり自分にはもう誰かと恋をすることはできないのだろう。
これ以上彼女を傷つけてしまう前に、アマリアと距離を置こう、リンドはそう決めたのである。
そんな折、リンドはローランド辺境伯から呼び出される。
突然の呼び出しに、再び領内の治安が悪化したのではと懸念しながら話を伺えば、辺境伯が告げたのは予想外の内容であった。
「君をシークベルト公爵の座に戻そうと思っている」
リンドがシークベルト公爵家を出てから4年の月日が経っていたが、まさに青天の霹靂であった。
「……いや、俺は……私はもう二度と公爵の座にはつかないと、覚悟の上でこちらにきました。今更戻るようなことは許されませんし、公爵家の面々にも申し訳が立ちません」
「だがこれは王命なのだよ」
「アレックス……いや、国王陛下の!? そんなはずは……」
あの日、自分は国王の婚約者であるカリーナに横恋慕して城へ入ったのだ。
到底許される罪ではないはずなのに。
「国王陛下は君のことを許すと仰っている。もう過去のことは忘れようと。アルハンブラには君のような優秀な人材が必要なのだと仰っていたよ」
「だがしかし……」
「一度、城へ来てほしいそうだ。君と久しぶりにゆっくり話がしたいと」
王命と言われてはこちらは断ることはできない。
リンドは気の進まぬまま、カリーナと別れたあの日ぶりに城へと向かったのである。
「久しぶりだね、リンド」
謁見の間に通されたリンドの目の前には、以前の記憶よりも少し国王としての威厳を増した従兄弟アレックスの姿があった。
彼は自分と同じエメラルドの瞳を細めてニッコリ笑っている。
「国王陛下におかれましては……」
「そんな、堅苦しい関係ではなかったはずだが? 」
リンドがパッと顔を上げると、少し拗ねたような表情をしたアレックスが。
「ですが……」
「いいかい、今日は私は従兄弟殿と親しく語り合おうと思ってお前を呼んだんだ。昔のように接してほしい」
「……ああ、わかったよ」
二人が語らうのも四年ぶりである。
それまではアレックスの執務を日々手伝い、毎日のように顔を合わせていた親友のような存在であったというのに。
「大方の様子はローランド辺境伯から聞いているよ。元気にしていたかい? 」
「ああ、辺境伯にはお世話になりっぱなしだ。本当に感謝している」
「あの話もきいたかい? 」
あの話とは、リンドに再びシークベルト公爵の座を、というものだろうか。
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