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本編
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しおりを挟む「アレックス様……」
久しぶりに見る正装のアレックを、カリーナは惚れ惚れと見上げる。
「そのように見られては、恥ずかしいではないか」
カリーナの視線がくすぐったいかのように、アレックスは困った顔で笑った。
だがその様子はまんざらでもなさそうだ。
「アレックス様、本当に素敵ですわ」
「それはこちらの台詞だよカリーナ。先ほども言ったが、今日のそなたは女神のようだ」
二人は顔を見合わせて微笑むと、前を向き直して神父の元へと進む。
すると、アレックスが横目でチラとカリーナを見て小声でこう言った。
「……今になって気づいたのだが、そのドレス、少し胸元が開きすぎていないか? 」
「そうですか? メアリーはこれが最新の流行だと話しておりました」
「……メアリーの仕業か」
拗ねたような表情をするアレックスに、カリーナはつい笑いそうになってしまう。
「笑うでない。大体、他の男の目にそなたの姿が映るのだと思うと私は気が狂いそうなのだ」
眉間に手を当ててアレックスが苦々しくそう言うと、カリーナは組まれた手に込める力を強めた。
「今夜、あなたのものになりますわ。この心も、身体も、全てあなたに」
カリーナの言葉を聞いたアレックスは、緩みそうになる口元を必死に隠して歩みを進め、祭壇へ到着した。
祭壇では神父が二人の到着を待ち構えている。
カリーナとアレックスは、神父に続いて誓いの言葉を交わす。
カリーナの中に、アレックスとの思い出が蘇る。
初めて会った舞踏会のあの日。
王城へ移ってからの生活。
首飾りが招いた嫉妬。
リンドとの幸せを願って自らは身を引こうとしたこと。
想いが通じ合ってからの日々。
どれもこれもが愛おしい。
アレックスと共にアルハンブラを支えていきたいという覚悟がより一層強くなる。
一方でアレックスも、カリーナとの日々を思い返していた。
初めて出会った時の衝撃。
この世にこれほど美しい女性はいるのだろうかと自分の目を疑った事を今でも覚えている。
カリーナがリンドに想いを寄せていること、リンドも少なからずカリーナに惹かれていることに気付きながらもカリーナをどうしても手に入れたかった。
案の定、カリーナはリンドへの思いを断ち切れぬまま。
リンドもカリーナへの思い募らせる一方であった。
愛する二人を引き離した罰として、カリーナの愛は永遠に得ることができないのではないかと一度は諦めかけた。
カリーナが幸せになればそれで良いではないか、と身を引く決心をしたその時カリーナは自分を選んでくれた。
もう絶対に離さない。
彼女を命懸けで守り、幸せにする。
バルサミア国王として、その名に恥じぬよう国のために尽くしてみせる。
「では、誓いの口付けを」
エメラルドが埋め込まれた結婚指輪を互いに交換したのを見届けた後、神父はそう告げて二人を伺うように見つめた。
アレックスとカリーナはゆっくり向かい合った。
カリーナがゆっくりと屈むと、アレックスはその顔に降ろされたベールをゆっくりと上げる。
すると恥ずかしさと嬉しさで頬を赤らめたカリーナの姿があった。
その美しさにアレックスは思わず息を呑む。
「カリーナ……愛している」
カリーナは潤んだ目で頷いた。
アレックスはその頷きを合図に、そっと顎に手をやり口付ける。
その瞬間一斉に参列者達から祝福の拍手が送られた。
中には前国王夫妻の姿もある。
二人はゆっくりと唇を離すと、辺りを見回して恥ずかしそうに微笑んだ。
こうして、バルサミア国に新王妃が誕生したのである。
新しい国王夫妻の誕生に、バルサミアは国を挙げてのお祭り騒ぎとなった。
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