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本編
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「シルビア公爵家の、ルアナ様……」
シルビア公爵家とは、シークベルト公爵家、エリクセル公爵家と共にバルサミア国の三大公爵家と言われている名家だ。
以前リンドの講義で耳にしたことがある。
そして何より、シルビア公爵家の次女のマリアンヌはリンドの婚約者候補であると噂されている女性だ。
「ルアナ様……初めまして。カリーナ・アルシェと申します」
カリーナは未だにアルシェ侯爵家の名を語っていた。
自分がその名を使い続ける限り、父母も共に生き続けている様な感覚になるからだ。
「やはり、あなたがカリーナ様なのですね。私は先程、アレックス様より婚約者候補から正式に外すとの知らせを受けてきたのです」
さすがはアレックス、仕事が早い。
カリーナを迎え入れることを決めてからは、すぐに裏で手を回して反対派の貴族達を黙らせたらしい。
「それは……私のせいで、申し訳ありませんでした」
一体どんな顔をしていれば良いのかと思いながらも、カリーナは深く頭を下げる。
敗戦国の侍女上がりの娘に王妃の座を奪われたとなると、ルアナもさぞ憤りを感じるであろう。
「いえ。あなたか謝る必要はありません。むしろ私はあなたに感謝しているのです」
ところが頭上から降りてきたのは、予想以上に清々しさを含む声であった。
「……えぇっ? 」
怒られることはあるとしても、感謝されるような事はあり得ない。
カリーナが目を白黒させて驚いている様子を見ると、ルアナは微笑みながらこう告げた。
「国王様の婚約者候補に固執していたのは父だけで、実は私はお慕いしている方がいたのです。侯爵家の御子息だったので、父には認めてもらえませんでした。ですが今回の婚約者候補の取り消しで、父からようやく彼との婚約の許可が出ました」
ルアナは少しは頬を染めながらそう告げた。
なるほど、そういうことか。
どこの家でもその立場を盤石にするために、権力に固執するのだ。
貴族令嬢達はその被害者にもなりうる。
「それに」
ルアナは少し言葉に迷った後、さらにこう告げた。
「私の妹のマリアンヌをご存じでしょうか? 」
「……はい、一度だけ舞踏会でお見かけしたことが……」
忘れもしない、カリーナがアレックスと出会うきっかけとなった舞踏会である。
仲睦まじそうに離すマリアンヌとリンドの姿にショックを受けたことは記憶に新しい。
「実は妹は、以前からシークベルト家のリンド公爵をお慕いしておりました。ですが失礼ながら、カリーナ様がリンド様に囲われているのでは? と皆さん噂されていたのです。そのため父もシークベルト家へ婚約の打診をするかどうか、迷っていました」
シークベルト家のリンド公爵……
まさか今ここで耳にするとは思いもしなかった名前が出てきたことで、カリーナの心がざわめく。
「しかしながら、あなたはアレックス様の求婚を受け入れて王城へ入られました。それによって、マリアンヌとリンド様の婚約が整いそうだと父から聞いております。姉として、妹の長年の想いが成就することが嬉しいのです。ですから、あなた様が謝ることなど、一つもありません」
途端にカリーナに雷が落ちたような衝撃が走った。
「リンド様とマリアンヌ様がご婚約予定……それはそれは、おめでとうございます」
カリーナは無理矢理引き攣った笑顔を作ろうとする。
「ありがとうございます。婚約の正式な発表は、ひと月後と聞いております。カリーナ様のご結婚は、来年とお聞きしました。きっと素敵な結婚式になるのでしょうね。お式に参列できるのを楽しみにしておりますわ」
ルアナはそう言い丁寧にお辞儀をした後、廊下を引き返して行った。
「リンド様が、マリアンヌ様とご婚約……」
カリーナは目の前が真っ暗になったような錯覚に陥り、倒れそうになる。
「……カリーナ様、いかが致しました? お身体の具合でも……? メアリー、カリーナ様をお部屋へ」
侍従長がカリーナの異変に気づき、慌ててメアリーと共に自室へ戻る。
その日から丸1週間、カリーナは疲れが出たのか起き上がれなくなってしまったのであった。
シルビア公爵家とは、シークベルト公爵家、エリクセル公爵家と共にバルサミア国の三大公爵家と言われている名家だ。
以前リンドの講義で耳にしたことがある。
そして何より、シルビア公爵家の次女のマリアンヌはリンドの婚約者候補であると噂されている女性だ。
「ルアナ様……初めまして。カリーナ・アルシェと申します」
カリーナは未だにアルシェ侯爵家の名を語っていた。
自分がその名を使い続ける限り、父母も共に生き続けている様な感覚になるからだ。
「やはり、あなたがカリーナ様なのですね。私は先程、アレックス様より婚約者候補から正式に外すとの知らせを受けてきたのです」
さすがはアレックス、仕事が早い。
カリーナを迎え入れることを決めてからは、すぐに裏で手を回して反対派の貴族達を黙らせたらしい。
「それは……私のせいで、申し訳ありませんでした」
一体どんな顔をしていれば良いのかと思いながらも、カリーナは深く頭を下げる。
敗戦国の侍女上がりの娘に王妃の座を奪われたとなると、ルアナもさぞ憤りを感じるであろう。
「いえ。あなたか謝る必要はありません。むしろ私はあなたに感謝しているのです」
ところが頭上から降りてきたのは、予想以上に清々しさを含む声であった。
「……えぇっ? 」
怒られることはあるとしても、感謝されるような事はあり得ない。
カリーナが目を白黒させて驚いている様子を見ると、ルアナは微笑みながらこう告げた。
「国王様の婚約者候補に固執していたのは父だけで、実は私はお慕いしている方がいたのです。侯爵家の御子息だったので、父には認めてもらえませんでした。ですが今回の婚約者候補の取り消しで、父からようやく彼との婚約の許可が出ました」
ルアナは少しは頬を染めながらそう告げた。
なるほど、そういうことか。
どこの家でもその立場を盤石にするために、権力に固執するのだ。
貴族令嬢達はその被害者にもなりうる。
「それに」
ルアナは少し言葉に迷った後、さらにこう告げた。
「私の妹のマリアンヌをご存じでしょうか? 」
「……はい、一度だけ舞踏会でお見かけしたことが……」
忘れもしない、カリーナがアレックスと出会うきっかけとなった舞踏会である。
仲睦まじそうに離すマリアンヌとリンドの姿にショックを受けたことは記憶に新しい。
「実は妹は、以前からシークベルト家のリンド公爵をお慕いしておりました。ですが失礼ながら、カリーナ様がリンド様に囲われているのでは? と皆さん噂されていたのです。そのため父もシークベルト家へ婚約の打診をするかどうか、迷っていました」
シークベルト家のリンド公爵……
まさか今ここで耳にするとは思いもしなかった名前が出てきたことで、カリーナの心がざわめく。
「しかしながら、あなたはアレックス様の求婚を受け入れて王城へ入られました。それによって、マリアンヌとリンド様の婚約が整いそうだと父から聞いております。姉として、妹の長年の想いが成就することが嬉しいのです。ですから、あなた様が謝ることなど、一つもありません」
途端にカリーナに雷が落ちたような衝撃が走った。
「リンド様とマリアンヌ様がご婚約予定……それはそれは、おめでとうございます」
カリーナは無理矢理引き攣った笑顔を作ろうとする。
「ありがとうございます。婚約の正式な発表は、ひと月後と聞いております。カリーナ様のご結婚は、来年とお聞きしました。きっと素敵な結婚式になるのでしょうね。お式に参列できるのを楽しみにしておりますわ」
ルアナはそう言い丁寧にお辞儀をした後、廊下を引き返して行った。
「リンド様が、マリアンヌ様とご婚約……」
カリーナは目の前が真っ暗になったような錯覚に陥り、倒れそうになる。
「……カリーナ様、いかが致しました? お身体の具合でも……? メアリー、カリーナ様をお部屋へ」
侍従長がカリーナの異変に気づき、慌ててメアリーと共に自室へ戻る。
その日から丸1週間、カリーナは疲れが出たのか起き上がれなくなってしまったのであった。
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