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 「メイフィールドの皆にはいつも迷惑をかけてばかりだな」

 城へと戻る馬車の中で、フィリップ様はそう呟く。

 「私も反省しております……もう少しのことで実家に戻るのはやめますわ……」

 「そうしてくれエスメラルダ。そうでないと僕の身が持たない……君がいないと執務も捗らなくて困っているんだ」

 「……まさかこの数日間は」

 「例の王女殿下に本を読んだだけだ。あとは何も進んでいない」

 もし私が先に亡くなってしまったら、この国は果たしてどうなるのだろうか。

 「……それはどうにか改善した方が良いのでは? 」

 「なぜ? 君が隣にいてくれれば良い話だろう」

 当然のような顔でこちらを見るフィリップ様に呆れる反面、少し嬉しくなっている私も大概だ。

 「もう……」

 「エスメラルダ、顔をよく見せて」

 「何ですの……んっ」

 フィリップ様は私に口付けた。

 「先程はルシファーの邪魔が入ったからな」
 
 ……それは違うと思うのだが、否定するのも面倒なのでそのままにしておこう。

 「愛しているエスメラルダ……早く元気な子を産んでくれ。君と繋がりたい」

 耳元でそのような卑猥な事を囁かれた私は、顔から火が出そうなほど真っ赤になり俯いた。

 「動機が不純ですわ……」

 「だって、そうだろ? もちろん早く我が子の顔も見たいけどね」

 こうして私たちは再び元の生活へと戻ったのであった。



 「体調はどう? 」

 あれから二月ほど経った日のこと。
 執務の合間に私の体調を確認するという日課を、フィリップ様は飽きもせずに繰り返している。

 「今日はすっきりとしていますわ」

 「もう産み月だからね。ゆっくりと過ごすんだよ」

 ちゅっと口付けを落とすと、フィリップ様は執務へと戻っていった。


 あれからフィリップ様は、お城の中であったら自由に過ごして良いという許可をくれた。
 以前のように過保護なところも多々あるけれど、それでも私のことを第一に尊重してくれるようになった。

 あの日城へ戻った後、宰相を始め重臣の方々に、くれぐれもフィリップ様を置いて行かないでくれと懇願された。
 よほど執務が進まなかったのだろう。
 聞けばもぬけの殻のようになったフィリップ様は、寝食もほとんどせぬまま悲痛そうな表情だけ浮かべていたという。

 もうすぐお父様になるというのに、またまた子どものようなフィリップ様は果たして大丈夫なのだろうかと心配になる。
 だがそんなところも含めて彼が愛おしい。
 ルシファー様と私の関係を誤解して慌ててやってきた時のフィリップ様のお顔を思い出して、笑いそうになったその時であった。

 「い、いたたた……」

 大きく前に迫り出した腹部に鈍痛が走る。
 ズンと重だるいようなその痛みは、恐らく陣痛の始まりだろうと悟った。

 「エスメラルダ様、いかが致しました? 」

 少し離れたところから私の様子を見守っていたリリーは、すぐにその異変気づき駆け寄ってくる。

 「子が、生まれるわ……」

 「なんですって!? 大変ですわ、急いで! 王太子妃殿下を早くお部屋へ! そして侍医も連れてくるように! 」

 リリーはテキパキと周囲の人間に指示を出しながら、私の腰をさする。

 「あ……フィリップ様にもお伝えしなければ」

 「私の方からお伝えしておきます。エスメラルダ様は元気なお子様をお産みになることだけお考えください」

 「ええ、そうね……」
 
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