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歪んだ幸せ
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二年もあればアリアもとっくに誰かと婚約くらい結ぶものだと思っていたが、意外にも彼女は未だ独り身で。
しかもときおり俺に向けてくれる笑顔は昔と変わらずとびきり甘いものだった。
彼女ももしかしてまだ俺のことを……
一度は諦めたはずの想いが、再び膨れ上がりそうになる。
そんなとき、アルメリア侯爵である義父に突然呼び出された俺は、驚くべき提案を受けたのである。
『……アリアと、私を……結婚ですか?』
『ああ。それがお前の望みではないのか? あれほどたくさんの縁談を断っているくらいなのだからな』
義父には全てお見通しであった。
『恐らくアリアもお前のことをまだ好きでいるようだ。あやつもどんな縁談を持ち込んでも見向きもしない』
『しかし私は……私で良いのでしょうか。私の妻になったら、アリアが馬鹿にされてしまうかもしれません』
『あの子がそれほどやわな娘に見えるか?』
『……いえ』
『大切な一人娘だ。必ず幸せにすると誓ってほしい。そう約束してくれるなら、二人の結婚を認めよう』
もちろん誓うに決まっている。
俺の命を投げ出してでも、彼女を守り抜いて幸せにしてみせる。
『アリアとの結婚は私の夢でした。ええ、もちろんです。精一杯彼女のことを幸せにして差し上げます。力を合わせて、アルメリア侯爵家をより一層盛り立てて行く所存です』
こうして私はようやく彼女の隣を手にすることができた。
そう思っていたのだが、やがて運命の日が訪れる。
俺が義父と結婚について話をしたあたりから、アリアが部屋に閉じこもってしまったのだ。
もしや体調でも悪いのでは……。
そんな心配に駆られて毎日のように彼女の自室を訪問するが、一向に顔を合わせてはもらえない。
早く彼女に結婚のことを伝えて、長年の想いを告白したくてたまらないというのに……。
痺れを切らした自分は、義父が遠征に出かけるのをいいことに、合い鍵を使って彼女の部屋に押し入ったのである。
突然姿を現した俺に驚くアリアは変わらず美しくて、今にも押し倒してしまいそうなのを必死に我慢した。
そんな俺に、アリアはなぜか結婚のことを尋ねてきたのだ。
しかも相手はどこか別の令嬢であると思い込んでいる様子。
そして次の瞬間、彼女は自ら俺に口付けてきたのだ。
初めての口付けはあまりに突然すぎて、ほとんど記憶に残らなかった。
そして突然の唇の感触に惚けていた私に向けて、彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出したのだ。
──結婚だって? アリアが、俺以外の男と?
彼女から告げられたのはあまりにも残酷な事実で。
義父からの許しは得たはずであった。
にもかかわらず、なぜアリアは俺ではない男と結婚するつもりなのだろうか。
別の男に逃げたくなるほど俺のことが嫌いになったのか?
……そんなことは許さない。
ようやく手に入ると思った矢先に、その手をすり抜けてしまいそうになるアリア。
そんな彼女を無理やりにでも縛り付けておきたくて。
気付けば彼女の唇を奪い去り、その体を拘束して純潔を奪った。
始めは抵抗する様子を見せていたアリアも、いつしか俺のことを受け入れてくれたらしい。
彼女の体は美しく甘美で、一度その味を知ってしまったならば、もう二度と離してやることはできないだろう。
結局、俺はアリアの中に子種を出した。
いっそのこと孕んでしまえばいい。
そうすれば、彼女はどこへも行けなくなるのだから。
その後、俺たちは互いの間に立ちはだかっていた誤解に気づく。
彼女は婚約など結んでいなかったのだ。
それどころか未だに俺のことを想っているなどと可愛いことを言う。
──愛しているよアリア。もう二度と離さない。
それから俺はアリアを自室に閉じ込めるような形で、毎日のように精を注ぎ続けている。
この調子ならば子ができるのも時間の問題だろう。
もう二度と彼女を失うかもしれないという悲しみに直面したくはないのだ。
彼女には一切の外出を禁止し、舞踏会への参加も俺が許可を出した限られたものだけとした。
忌まわしいストラブール侯爵令息の目にアリアの姿を映すなど、耐えられない。
俺は甲斐甲斐しく彼女の世話を焼き、次期侯爵としての仕事が無い時間はアリアの隣に張り付くようにして生活している。
始めこそ恥ずかしそうにしていたアリアであったが、今ではすっかり俺に頼り切っている様子。
これでいい。
俺無しでは生きていくことができないようになればいい。
そうすればもう二度と俺のそばから離れていくことは無いのだから。
義父が帰宅したらすぐに結婚を認めてもらおう。
いつまた邪魔が入るかわからない。
その前に彼女を正式に私のものとしなければならないのだ。
こんな俺の想いは歪んでいるだろうか?
だが隣にいるアリアは毎日幸せそうな顔をしている。
彼女の幸せは俺の幸せなのだ。
この笑顔を見ることが出来るのならば、もう少しこのままでいてもいいだろう。
きっと俺の心はこれからも彼女に囚われ続けていくに違いない。
FIN.
────────────────────
完結しましたー!
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近書籍化作業などもありドタバタとしていたので新作を書けていなかったのですが、ようやく現在執筆開始しております♡
いつものようにムーン先行公開となるかとは思いますが、またこちらで連載を開始した際にはお読みいただけると嬉しいです!
ありがとうございます♡
しかもときおり俺に向けてくれる笑顔は昔と変わらずとびきり甘いものだった。
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そんなとき、アルメリア侯爵である義父に突然呼び出された俺は、驚くべき提案を受けたのである。
『……アリアと、私を……結婚ですか?』
『ああ。それがお前の望みではないのか? あれほどたくさんの縁談を断っているくらいなのだからな』
義父には全てお見通しであった。
『恐らくアリアもお前のことをまだ好きでいるようだ。あやつもどんな縁談を持ち込んでも見向きもしない』
『しかし私は……私で良いのでしょうか。私の妻になったら、アリアが馬鹿にされてしまうかもしれません』
『あの子がそれほどやわな娘に見えるか?』
『……いえ』
『大切な一人娘だ。必ず幸せにすると誓ってほしい。そう約束してくれるなら、二人の結婚を認めよう』
もちろん誓うに決まっている。
俺の命を投げ出してでも、彼女を守り抜いて幸せにしてみせる。
『アリアとの結婚は私の夢でした。ええ、もちろんです。精一杯彼女のことを幸せにして差し上げます。力を合わせて、アルメリア侯爵家をより一層盛り立てて行く所存です』
こうして私はようやく彼女の隣を手にすることができた。
そう思っていたのだが、やがて運命の日が訪れる。
俺が義父と結婚について話をしたあたりから、アリアが部屋に閉じこもってしまったのだ。
もしや体調でも悪いのでは……。
そんな心配に駆られて毎日のように彼女の自室を訪問するが、一向に顔を合わせてはもらえない。
早く彼女に結婚のことを伝えて、長年の想いを告白したくてたまらないというのに……。
痺れを切らした自分は、義父が遠征に出かけるのをいいことに、合い鍵を使って彼女の部屋に押し入ったのである。
突然姿を現した俺に驚くアリアは変わらず美しくて、今にも押し倒してしまいそうなのを必死に我慢した。
そんな俺に、アリアはなぜか結婚のことを尋ねてきたのだ。
しかも相手はどこか別の令嬢であると思い込んでいる様子。
そして次の瞬間、彼女は自ら俺に口付けてきたのだ。
初めての口付けはあまりに突然すぎて、ほとんど記憶に残らなかった。
そして突然の唇の感触に惚けていた私に向けて、彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出したのだ。
──結婚だって? アリアが、俺以外の男と?
彼女から告げられたのはあまりにも残酷な事実で。
義父からの許しは得たはずであった。
にもかかわらず、なぜアリアは俺ではない男と結婚するつもりなのだろうか。
別の男に逃げたくなるほど俺のことが嫌いになったのか?
……そんなことは許さない。
ようやく手に入ると思った矢先に、その手をすり抜けてしまいそうになるアリア。
そんな彼女を無理やりにでも縛り付けておきたくて。
気付けば彼女の唇を奪い去り、その体を拘束して純潔を奪った。
始めは抵抗する様子を見せていたアリアも、いつしか俺のことを受け入れてくれたらしい。
彼女の体は美しく甘美で、一度その味を知ってしまったならば、もう二度と離してやることはできないだろう。
結局、俺はアリアの中に子種を出した。
いっそのこと孕んでしまえばいい。
そうすれば、彼女はどこへも行けなくなるのだから。
その後、俺たちは互いの間に立ちはだかっていた誤解に気づく。
彼女は婚約など結んでいなかったのだ。
それどころか未だに俺のことを想っているなどと可愛いことを言う。
──愛しているよアリア。もう二度と離さない。
それから俺はアリアを自室に閉じ込めるような形で、毎日のように精を注ぎ続けている。
この調子ならば子ができるのも時間の問題だろう。
もう二度と彼女を失うかもしれないという悲しみに直面したくはないのだ。
彼女には一切の外出を禁止し、舞踏会への参加も俺が許可を出した限られたものだけとした。
忌まわしいストラブール侯爵令息の目にアリアの姿を映すなど、耐えられない。
俺は甲斐甲斐しく彼女の世話を焼き、次期侯爵としての仕事が無い時間はアリアの隣に張り付くようにして生活している。
始めこそ恥ずかしそうにしていたアリアであったが、今ではすっかり俺に頼り切っている様子。
これでいい。
俺無しでは生きていくことができないようになればいい。
そうすればもう二度と俺のそばから離れていくことは無いのだから。
義父が帰宅したらすぐに結婚を認めてもらおう。
いつまた邪魔が入るかわからない。
その前に彼女を正式に私のものとしなければならないのだ。
こんな俺の想いは歪んでいるだろうか?
だが隣にいるアリアは毎日幸せそうな顔をしている。
彼女の幸せは俺の幸せなのだ。
この笑顔を見ることが出来るのならば、もう少しこのままでいてもいいだろう。
きっと俺の心はこれからも彼女に囚われ続けていくに違いない。
FIN.
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最後までお読みいただきありがとうございます。
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いつものようにムーン先行公開となるかとは思いますが、またこちらで連載を開始した際にはお読みいただけると嬉しいです!
ありがとうございます♡
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ありがとうございます🫶🏻!!
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ぜひ最後までお読みいただけたら嬉しいです〜💕