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お前は渡さない※

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「それは……あとでお父様が帰ってきたら詳しいお話をしようかと……」

 この発言はあながち間違ってはいないのだ。
 本来当主の娘である私の結婚は、父から話されるべきである。

 そしてこれはアンソニーに伝えていないが、まだ私の結婚は本決まりではない。
 以前から熱心に縁談が持ち込まれているストラブール侯爵家の嫡男が最適候補ではあるのだが、父にその旨を伝えたきりまだ返事を受け取っていないのだ。

 ——まあ、お相手の方の熱の入りっぷりを見ると、恐らくこのままお話はまとまると思うけれど。

 舞踏会に参加するたびに熱心にダンスに誘われていたので、お相手の顔も人となりも何となくはわかっているつもりだ。

「ストラブール侯爵家の息子か」
「……なぜそれを」
「あいつは前からお前に執心だったからな」

 なんだ、知っていたのか。
 私のことなど全く興味を持っていないと思っていたので、この発言は意外であった。

 そしていつのまにか変わった話し方。
 いつもの物腰の柔らかいアンソニーからは想像もつかない話し方だ。

「……まあ、そういうわけですので。それよりも良い加減に腕を離してくださいませんか?」
「嫌だと言ったら?」
「……え」
「俺は覚悟を決めた。お前は逃げられない」
「ちょ、おにいさ……んんっ」

 強く握られた手首をさらに力を込めて引っ張られたかと思うと、アンソニーは私の後頭部を押さえ付けて口付けた。

 その熱は先ほど私から彼へと送った口付けとは大違いである。

「んうっ、な、に……だめっ……ふぅっ……」

 噛み付くような口付けは息を吸う時間すら与えてはくれない。
 突然のことに唇を閉じようとするがそんな抵抗も虚しく、息継ぎを行おうとしたそのわずかな隙に、ぬるりとしたものが口の中へと入り込んできた。
 熱く柔らかなそれは、激しく私の口の中で暴れ回る。

 いつも冷静な義兄がこれほど理性を失うこともあるのか、とどこか別の意識で私はぼうっと考えた。
 するとそのまま彼の舌は私の舌を探し回り、お目当てのものを見つけたらしい。
 ちゅく、と音を立てて絡め取られた舌はアンソニーのものと激しく絡み合い、口を閉じることができなくなってしまった。

「ん……ちゅぅ……はっ……おにい、さま……」

 すると突然プツッと離された唇。
 銀糸がきらりと光り、それを舐め取るアンソニーの姿に私はどきりと胸が苦しくなる。

「これで終わりだと思うなよ。アリアは俺のものだと思い知らせてやる。他の男になど渡さない!」

 一体なんのことを言っているのだろうか。
 他の女性と結婚することを決めたのは彼の方であるというのに。
 そんな戸惑いの表情を向けてもこちらを確認することなどなく、彼は私を横抱きにするとそのまま寝台へと歩いて行く。
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