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「だいぶ、顔色が良くなってきたな。肉付きも戻ってきたようだ」
庭に出て外の景色を眺めていた桔梗を愛おしそうに見つめながら、義村が言った。
日を増すにつれて彼女への想いは強くなるばかりで、時折恐ろしくなるほどである。
彼女を失うかもしれないと覚悟したあの日、自分も命を絶ってしまおうかと思うほどであった。
それほど桔梗の存在は義村にとっての全てなのだ。
「まだ完全には戻っておりませんけれども、大分元の様になりました」
桔梗は義村を見上げて微笑んだ。
その微笑みはやはり天女のような美しさと儚さをはらんでいる。
「腹の調子はどうだ? 痛みは無いか? 」
「まだまだ産み月までは時間がありますもの。しばらく大したものを食べられていなかった分、これからはちゃんと栄養を摂ってあげなければ」
実は、桔梗の腹の中には三人目となる子が宿っていた。
義村が勝利報告のために一時帰還した際の逢瀬でできた子である。
懐妊が明らかになったのはつい数日前のことなのだが、桔梗は心から安堵した。
「よくあの状況で、流れずにお腹に留まっていてくれたと思っています。子に申し訳ない事を……」
「あのときは致し方無かった。もう忘れろ。今は養生して、親子元気に出産を終えることだけを考えよう」
義村はそう言うと、桔梗を後ろから抱き締めつつその腹に手を置いた。
「男と女、どちらだろうか」
「私はどちらでもいいですわ。あなた様との子なら」
二人は微笑みながら幸せを噛み締める。
その様子を、嬉し涙を流しながら千が見つめていた。
そして三月後。
桔梗は立派な男児を出産した。
二人にとって次男となるその男児は、利村と名付けられた。
義村が心配していたような事は起こらず、母子共に健康だ。
さらにその年、会国城では不思議なことが起こった。
なんと庭に桔梗の花が咲いたのである。
これまで一度も咲くことのなかった紫色の花を目にした途端、桔梗と義村は抱き合って涙を流した。
それからというもの、城の庭では毎年桔梗の花が咲き乱れるようになり、その時期に限っては城の庭を領民達も入れるように開放した。
その後桔梗と義村はさらにもう二人の子に恵まれ、二人はいつまでも仲睦まじく暮らしたと後の世に語り継がれている。
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お読み頂きありがとうございました。
この他にもいくつか小説を執筆しておりますので、お読み頂けたら嬉しいです!
桜百合
庭に出て外の景色を眺めていた桔梗を愛おしそうに見つめながら、義村が言った。
日を増すにつれて彼女への想いは強くなるばかりで、時折恐ろしくなるほどである。
彼女を失うかもしれないと覚悟したあの日、自分も命を絶ってしまおうかと思うほどであった。
それほど桔梗の存在は義村にとっての全てなのだ。
「まだ完全には戻っておりませんけれども、大分元の様になりました」
桔梗は義村を見上げて微笑んだ。
その微笑みはやはり天女のような美しさと儚さをはらんでいる。
「腹の調子はどうだ? 痛みは無いか? 」
「まだまだ産み月までは時間がありますもの。しばらく大したものを食べられていなかった分、これからはちゃんと栄養を摂ってあげなければ」
実は、桔梗の腹の中には三人目となる子が宿っていた。
義村が勝利報告のために一時帰還した際の逢瀬でできた子である。
懐妊が明らかになったのはつい数日前のことなのだが、桔梗は心から安堵した。
「よくあの状況で、流れずにお腹に留まっていてくれたと思っています。子に申し訳ない事を……」
「あのときは致し方無かった。もう忘れろ。今は養生して、親子元気に出産を終えることだけを考えよう」
義村はそう言うと、桔梗を後ろから抱き締めつつその腹に手を置いた。
「男と女、どちらだろうか」
「私はどちらでもいいですわ。あなた様との子なら」
二人は微笑みながら幸せを噛み締める。
その様子を、嬉し涙を流しながら千が見つめていた。
そして三月後。
桔梗は立派な男児を出産した。
二人にとって次男となるその男児は、利村と名付けられた。
義村が心配していたような事は起こらず、母子共に健康だ。
さらにその年、会国城では不思議なことが起こった。
なんと庭に桔梗の花が咲いたのである。
これまで一度も咲くことのなかった紫色の花を目にした途端、桔梗と義村は抱き合って涙を流した。
それからというもの、城の庭では毎年桔梗の花が咲き乱れるようになり、その時期に限っては城の庭を領民達も入れるように開放した。
その後桔梗と義村はさらにもう二人の子に恵まれ、二人はいつまでも仲睦まじく暮らしたと後の世に語り継がれている。
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