桔梗の花の咲く場所〜幼妻は歳上夫に溺愛される〜

桜百合

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 それから数日経っても、桔梗の症状は変わらず経過していた。
 どんなに高名な医師に見せても、病気なのかなんなのかわからないと言われており、医師達もお手上げのようである。

 千がいつものように桔梗の体を手拭いで清めると、今日はいくらか気分が良いのか桔梗は目を開けていた。

 「義村様は……あのお方は今頃何をしておられるのかしらね……」
 「戦の後始末に追われていらっしゃることでしょう。ですが後一月もすれば、ご帰城されるはずです。その時までにはお元気になっていただかないと」
 「……そのときはご側室も一緒なのかしら」

 ハッとして千が桔梗の方を見ると、桔梗はどこか遠くを眺めるような目をしていた。

 「桔梗様……」
 「義村様にはあんな強気なことを言ったけれど、側室のことを誰よりも受け入れられないのはこの私なんだわ。あのお方が違う女性と愛を交わすくらいなら、いっそ命など無くした方が楽なのではと……」
 「そのようなこと! 義村様が悲しまれます」

 千にはわかった。
 桔梗はこのまま消えてしまうことを望んでいるのだと。

 「心残りは幸村とお菊のことだわ……」
 「桔梗様……」

 千は耐えきれず溢れた涙を拭う。
 桔梗は久しぶりにたくさん話して疲れたのか、ほうっと息を吐いて目を閉じた。

 すると、その時。
 奥の廊下からドタバタと大きな足音がこちらへ近づいてくるのがわかった。
 千が様子を確認しようと襖に手をかけたその瞬間、反対側から思い切り襖が開かれた。

 「と、殿……? 」

 そこに立っていたのは義村だった。
 息は切れ髪も乱れており、さぞ急いできたのだろう。
 義村は千の呼びかけには反応せずに、部屋の中央に敷かれた布団に横たわる桔梗の元へと走り寄る。

 「桔梗! 桔梗っ……」

 グッタリと青白い顔で目を閉じている彼女の姿を見て、義村の顔に焦りが生じる。

 「なぜだ!? 一体いつからこうなった!? 」
 「一月ほど前から体調を崩しがちではありましたが、殿が再び戦の後始末へと向かわれた直後から急激に……」
 「なぜ言わなかった!? そのような報告は一度もなかった! すぐにでも駆けつけたと言うのに……」

 義村の目には怒りの色が見て取れる。
 千に八つ当たりしても仕方ないのかもしれないが、怒りの持って行き場がない。

 「桔梗様が、そう命じられたのでございます。殿にご迷惑はかけられないと……。自分の体調の事は一切報告せぬようにと」
 「そんな……桔梗……」

 義村は恐る恐る桔梗の頬を撫でるが、薄ら冷たく感じる。
 死が近いのであろうか。
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