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 「おや……? 」

 ふと目をやると、庭の隅に紫色の何かがあるのが見えた。
 庭へ降りてよく見ると、それは桔梗の花である。
 ふいに十五年前に初めて会った時の桔梗を思い出す。
 桔梗の花には毒があるとからかわれて泣いていたあの時の少女は、今ではかけがえのない愛しい人となっていた。

 「桔梗に会いたい」

 一月の帰城の予定を早めて桔梗に早く会いに行こう、そう決心したその時だった。

  「殿!  」

 何やら屋敷が騒がしくなり、一人の男が廊下を走ってこちらへやってくる。
 義村は何事かと剣に手をやり身構えるが、近づいてきた男はよくみれば中川家の家臣であった。

 「なんだ、いかがしたのだ」
 「奥方様が、会国のお城にてお倒れになられました。病状は一進一退のご様子。よもや命も危ないと」
 「なんだと!? 」

 次の瞬間義村は廊下を駆け出し、急ぎ馬に乗る準備をする。
 後ろから家臣が何か叫びながら追いかけてくるが、聞かずに足を進めた。

 「今すぐ切り上げて会国へ戻る! 」




 その頃会国城では、衰弱しきった桔梗の姿があった。
 より一層青白く透き通るようになってしまった肌が痛々しく、その顔も隈が目立つ。
 これほどまでにやつれ痩せ細ってしまっても、眠っているその姿の美しさは変わらない。

 「桔梗様……なんてこと……」

 日中ほとんど眠ったままの桔梗の横で、千は泣きながら看病を続ける。
 桔梗は千にとって憧れであった。
 父に連れられて初めて原岸の城に参上した際に、なんて美しい人なのかと思った。
 生涯このお方に仕えたいと心に決めて、桔梗の輿入れにも同行したのだ。
 それがなんということだろう。
 医師は、本人に回復する気がないと話していた。
 このままいけば、後一月もつかどうかもわからないとも。

 「奥方様……桔梗様……千を残していかないでくださいませ」

 手拭いを絞り桔梗の体を拭きながらそう話しかけると、桔梗が薄らと目を開けた。

 「千……あなたに迷惑をかけてしまってごめんなさい。だけど私はもう生きる気力が無いのよ……手足に力も入らないし、このまま命を吸い取られてしまいそう」

 弱々しくそう話す桔梗の手を、千はずっと握りしめていた。
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