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しおりを挟む「何ですって!? 父上、私の聞き間違いでしょうか。 あの桔梗という娘と私が婚儀など……」
二人が出会ってから十年後の事。
義村は突如父に呼び出され、今年中に桔梗を妻として、正室として迎える事を伝えられた。
「桔梗は我が友正信の娘。聞くところによるとかなりの美しい娘に育っていると聞く。何も問題はなかろう? 」
「ですが父上、桔梗はまだ子どもですぞ! 」
義村の記憶には、七歳ごろの桔梗の記憶しかないのだ。
その名を毒持ちだと言われて泣いていたあの時の幼げな様子しか……
「あれから何年経ったと思っている。桔梗も十七歳になった。もちろん今すぐ閨などは早いが、早めにこちらに来てもらってお前に慣れてもらった方がいいだろう。とりあえず形ばかりの輿入れを行い、桔梗が十八となった暁には正式な婚儀を行うつもりだ」
「ですが父上! 」
「うるさい、これはもう決まりなのだ。お前が口出しする余地はない」
父は颯爽と去って行ってしまった。
残された義村はその場に唖然と立ち尽くす。
今年二十七になる義村は、桔梗よりも十も歳上である。
周りの男達はこの齢ならとっくに結婚して妻を迎えているのだが、義村はどうもそういったことに疎いらしい。
見目麗しい義村の元へは多くの見合い話が持ち込まれたが、それを適当にあしらっているうちに、この歳まできてしまったのだ。
義村の頭の中にはあの日の桔梗の様子が浮かぶ。
泣き腫らした娘の顔は、確かに幼児ながら美しいものがあった。
きっと成長した今はさらに美しくなっているのだろう。
「っ……俺は馬鹿か。あのような子どもに……」
義村は戸惑いを隠せぬまま、桔梗の輿入れの日を待つしかなかったのである。
「姫様、大変お美しゅうございますよ」
輿入れの日を迎えた桔梗は、会国城の義村の元へと向かうため籠に乗っていた。
実家から共に会国へ向かう侍女の千は、惚れ惚れとした様子で桔梗にそう告げる。
「私、緊張しているみたい」
義村とは桔梗が七歳の時に一度会ったきりである。
自分の事など、ただの子どもだと思っているに違いない。
だが桔梗は違った。
あの日泣いていたところを義村に励まされて以来、彼女は義村に恋をしていた。
十七歳を迎えた桔梗はそれはそれは美しく育ち、多くの大名家から婚儀の申し出があった。
だが桔梗はどうしても義村以外の男の妻になることが考えられず、父に無理を迫った。
桔梗に甘い父は、旧友の息子である義村と桔梗の結婚を認めたのだ。
義村の父からしてみても、一向に身を固める気配のない息子は悩みの種であった。
旧友の願いだと言えば息子も断れないだろう。
お互いの利が一致したのである。
たとえ愛されなくても、あのお方の姿を一目でも見たい……
そんな願いを抱いて、桔梗は実家を出たのである。
籠が城へと到着すると、桔梗は用意された彼女の部屋に通されて支度を整えた。
まだ仮の輿入れのため、本格的な婚儀は行わないが、花婿となる男性との初めての対面である。
桔梗の世話をする侍女達の腕にも力が入る。
「義村様は、大広間でお待ちです」
侍女頭にそう告げられると、支度を終えた桔梗は義村の元へと向かった。
大広間へ足を踏み入れる際、緊張のあまり息が止まりそうになるが、大きく深呼吸して落ち着かせる。
打ち掛けを手に持ちながらゆっくりと大広間へ足を踏み入れると、突き当たりには肘掛けにもたれかかり腰掛ける義村らしき男の姿が。
桔梗は覚悟を決めて、義村の元へと近づき座ると頭を下げた。
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