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番外編 6
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案の定、指で触れられただけで水音が響く。
そして私は知っているのだ。
私の体が反応していることに、俊が何より安堵の表情を浮かべているのだということを。
彼の前から姿を消したあの日、最後にしたセックスでは私のそこはほとんど潤いを見せることはなかった。
俊はそのような状態で最後まで行為に及んだ自分に後悔すると共に、私の気持ちが伴っていないままセックスすることを何より恐れるようになった気がする。
「俊……早く俊が欲しい」
「だめ、久しぶりだし慣らさないと……痛い思いはさせたくないから」
優しく優しく全身に触れ、体をほぐしてくれる。
それだけで本当に幸せなのだが、時々物足りないと感じてしまうこともあった。
もっと彼の思いをぶつけてほしい、遠慮はして欲しくない。
「ねえ俊、私は俊のことが大好きだから、もう大丈夫だよ? 俊の好きなようにしてほしいの。その……あの時とは違うから……」
私のそんな訴えに、俊はハッとしたような表情を浮かべた。
そしてグッと唇を噛み締めたかと思うと、性急な手つきでガチャガチャとスーツのベルトを外す。
下着だけを身につけた状態になると、寝室から何やら箱を持ってきて中身を一つ取り出す。
それは避妊具で、彼は下着を勢いよく脱ぎ捨てると自らの陰茎に被せるようにして装着した。
「葵、いい?」
熱に浮かされた顔でそう尋ねられるだけで胸が高鳴り、頷くだけで精一杯だ。
「んっ……あっ……俊……」
体重をかけるようにして彼のものが中へと入り込む。
久しぶりということもあり少し苦しさを感じるものの、痛みはない。
「平気? 痛くない?」
「大丈夫、だからっ……俊の好きにしてっ」
「ああ、もうっ……限界だ」
「やぁっ……んあっ……」
俊の中で何かがはち切れたように強く腰を打ちつけられ、その度に最奥を突かれる。
これほど彼が欲望を曝け出したのは、もう随分と前になるだろうか。
少なくとも関係を修復させてからは一度もない。
ありったけの思いをぶつけられるのが嬉しいだなんて、私はすっかり元通り。
またあの頃に戻ってしまったのかもしれない。
でもきっと一度目のあの出来事を乗り越えてきた私たちなら、今回こそはきっとうまくいくはずだ。
「久しぶりだからすぐいきそう……ごめんっ……」
息を切らしながらそう告げる俊の眉間には皺が寄っており、彼の限界が近いのだということを物語っていた。
「俊、いいよ……」
そっと腕を伸ばして彼の背にしがみつくと、汗ばんだ肌がしっとりと手にまとわりついた。
「俺から離れないで葵っ……どこも行くなよっ……」
そんな彼の呟きは、吐き出された熱と共にかき消されていった。
数回体を震わせた後、一度最奥まで腰を押しつけてからゆっくりと陰茎が引き抜かれる。
避妊具の先端から見える白い液だまりで、彼が達したのだということがわかった。
「葵……好き」
「今日の俊、なんか変だよ。いつもはそんなに好きって言わないのに」
どちらかというといつも彼は態度で示す方で、照れ臭いのかあまり甘い言葉を囁くことはない。
だが今日は先ほどからこれでもかというほどの甘い台詞を浴びせられ続けていた。
「普段恥ずかしくてあんま言わないけどさ……葵のこと不安にさせたくないから。本当にお前のことが好きって、わかってもらいたい」
「俊……」
「絶対離さない。本当は今すぐ結婚したいくらいなんだ、だけどプロポーズは色々と考えたくて……よりも戻したばかりだしさ」
「うん、わかってる」
先ほどまで抱えていた不安が嘘のように軽くなり、代わりに満ち足りた幸せな気持ちでいっぱいになる。
俊を少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしいくらいに、彼は今でも変わらずに私のことを思ってくれていた。
それだけで十分に幸せなのだ。
それと同時に、俊にも不安を抱かせてしまっていたことを申し訳なく感じる。
口には出さないがこの数ヶ月間、彼はきっとその不安を押し殺して私の隣で笑ってくれていたのだろう。
「ごめんね、俊。私自分のことばっかりで……勝手に不安になって俊に酷いこと言っちゃった……」
自分が悪いのだから涙は見せたくないのだが、自然と鼻の奥がツンとしてしまうのを必死に堪える。
するとそれまでソファに横たわる私の上に覆いかぶさるようにして寝ていた俊が、突然体を起こした。
これまであった温もりが急になくなったことで、空気に触れたところがひんやりと冷たくなる。
そのまま彼は私を見下ろすと、優しく微笑みながらこう言ったのだ。
「葵の正直な気持ちが聞けて、俺は幸せだから。もう何があろうと、きっと俺たちなら大丈夫」
「んっ……」
俊はそれだけ告げると、再び体を重ねてキスを交わす。
行為の後でお互い荒んだ息遣いのままであったが、こんなにも幸せで満たされたキスは初めてであったかもしれない。
そして私は知っているのだ。
私の体が反応していることに、俊が何より安堵の表情を浮かべているのだということを。
彼の前から姿を消したあの日、最後にしたセックスでは私のそこはほとんど潤いを見せることはなかった。
俊はそのような状態で最後まで行為に及んだ自分に後悔すると共に、私の気持ちが伴っていないままセックスすることを何より恐れるようになった気がする。
「俊……早く俊が欲しい」
「だめ、久しぶりだし慣らさないと……痛い思いはさせたくないから」
優しく優しく全身に触れ、体をほぐしてくれる。
それだけで本当に幸せなのだが、時々物足りないと感じてしまうこともあった。
もっと彼の思いをぶつけてほしい、遠慮はして欲しくない。
「ねえ俊、私は俊のことが大好きだから、もう大丈夫だよ? 俊の好きなようにしてほしいの。その……あの時とは違うから……」
私のそんな訴えに、俊はハッとしたような表情を浮かべた。
そしてグッと唇を噛み締めたかと思うと、性急な手つきでガチャガチャとスーツのベルトを外す。
下着だけを身につけた状態になると、寝室から何やら箱を持ってきて中身を一つ取り出す。
それは避妊具で、彼は下着を勢いよく脱ぎ捨てると自らの陰茎に被せるようにして装着した。
「葵、いい?」
熱に浮かされた顔でそう尋ねられるだけで胸が高鳴り、頷くだけで精一杯だ。
「んっ……あっ……俊……」
体重をかけるようにして彼のものが中へと入り込む。
久しぶりということもあり少し苦しさを感じるものの、痛みはない。
「平気? 痛くない?」
「大丈夫、だからっ……俊の好きにしてっ」
「ああ、もうっ……限界だ」
「やぁっ……んあっ……」
俊の中で何かがはち切れたように強く腰を打ちつけられ、その度に最奥を突かれる。
これほど彼が欲望を曝け出したのは、もう随分と前になるだろうか。
少なくとも関係を修復させてからは一度もない。
ありったけの思いをぶつけられるのが嬉しいだなんて、私はすっかり元通り。
またあの頃に戻ってしまったのかもしれない。
でもきっと一度目のあの出来事を乗り越えてきた私たちなら、今回こそはきっとうまくいくはずだ。
「久しぶりだからすぐいきそう……ごめんっ……」
息を切らしながらそう告げる俊の眉間には皺が寄っており、彼の限界が近いのだということを物語っていた。
「俊、いいよ……」
そっと腕を伸ばして彼の背にしがみつくと、汗ばんだ肌がしっとりと手にまとわりついた。
「俺から離れないで葵っ……どこも行くなよっ……」
そんな彼の呟きは、吐き出された熱と共にかき消されていった。
数回体を震わせた後、一度最奥まで腰を押しつけてからゆっくりと陰茎が引き抜かれる。
避妊具の先端から見える白い液だまりで、彼が達したのだということがわかった。
「葵……好き」
「今日の俊、なんか変だよ。いつもはそんなに好きって言わないのに」
どちらかというといつも彼は態度で示す方で、照れ臭いのかあまり甘い言葉を囁くことはない。
だが今日は先ほどからこれでもかというほどの甘い台詞を浴びせられ続けていた。
「普段恥ずかしくてあんま言わないけどさ……葵のこと不安にさせたくないから。本当にお前のことが好きって、わかってもらいたい」
「俊……」
「絶対離さない。本当は今すぐ結婚したいくらいなんだ、だけどプロポーズは色々と考えたくて……よりも戻したばかりだしさ」
「うん、わかってる」
先ほどまで抱えていた不安が嘘のように軽くなり、代わりに満ち足りた幸せな気持ちでいっぱいになる。
俊を少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしいくらいに、彼は今でも変わらずに私のことを思ってくれていた。
それだけで十分に幸せなのだ。
それと同時に、俊にも不安を抱かせてしまっていたことを申し訳なく感じる。
口には出さないがこの数ヶ月間、彼はきっとその不安を押し殺して私の隣で笑ってくれていたのだろう。
「ごめんね、俊。私自分のことばっかりで……勝手に不安になって俊に酷いこと言っちゃった……」
自分が悪いのだから涙は見せたくないのだが、自然と鼻の奥がツンとしてしまうのを必死に堪える。
するとそれまでソファに横たわる私の上に覆いかぶさるようにして寝ていた俊が、突然体を起こした。
これまであった温もりが急になくなったことで、空気に触れたところがひんやりと冷たくなる。
そのまま彼は私を見下ろすと、優しく微笑みながらこう言ったのだ。
「葵の正直な気持ちが聞けて、俺は幸せだから。もう何があろうと、きっと俺たちなら大丈夫」
「んっ……」
俊はそれだけ告げると、再び体を重ねてキスを交わす。
行為の後でお互い荒んだ息遣いのままであったが、こんなにも幸せで満たされたキスは初めてであったかもしれない。
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