23 / 32
俺と彼女の八年間とその後 4
しおりを挟む
二ヶ月ぶりに見た葵はますます綺麗になっていて、俺と付き合っていた時の翳りがなくなり元の明るい彼女へと戻っていた。
そして彼女の隣に立つ男。
馴れ馴れしく葵と喋りながら歩くその男は、葵の新しい彼氏なのだろうか。
自分と別れてからたった二ヶ月の間にもう彼氏ができてしまったのかと、全身の血が煮えたぎるように熱くなる。
それと同時に、なぜ自分はあれほど魅力的な女性をおざなりにしてちゃんと向き合ってこなかったのだろうかと自己嫌悪に陥った。
その結果冷静に彼女に自分の気持ちを伝えるつもりが喧嘩腰になり、彼女にますます呆れられてしまう始末。
隣にいた男はただの同僚であったらしく、とんだとばっちりであっただろう。
それでも俺は彼女を諦めたくなかった。
あんな街中で周りの人の目を気にせずに彼女への想いを伝えてしまうほどに、彼女に戻ってきて欲しかったのだ。
俺の謝罪によって、葵は再びアパートに戻ってきてくれた。
だが彼女は俺のことが好きだから戻ってきてくれたのではない。
長年付き合った俺が壊れてしまうのを恐れたのだ。
現に俺は彼女が再び家を出たまま戻ってこなくなることを極端に恐れ、毎日毎日彼女の存在をしつこく確認してしまう体たらく。
自分が蒔いた種であるはずなのに、なぜ俺が被害者ぶっているのだろうか。
だがこの関係を終わりにしたら今度こそ葵は手に届かない場所へと離れて行ってしまう気がする。
たとえ彼女に愛されていなくても、同じ屋根の下で暮らすことのできる時間が少しでも延ばせるなら……。
俺は必死に彼女にしがみついていた。
そんな中彼女から切り出された二度目の別れ話。
……いや、今回はもはや付き合ってもいなかったのだから別れ話ですらないだろう。
俺は泣いて謝り狂ったように彼女に縋った。
するとこれまで涙を見せなかった葵が、叫ぶように涙を流しながら思いの丈を打ち明けたのだ。
俺の誕生日に手料理を作って待っていてくれたこと、葵の誕生日に俺の帰りをひたすら待っていたこと。
彼女の体を抱きしめながらその話を聞いていた俺は、聞けば聞くほど自分が嫌になった。
これからの俺の人生を全て捧げて葵に懺悔していきたい。
元通りになれるなんて思っていないけれど、葵のそばで彼女の人生を一緒に見ることは許されるのだろうか。
◇
葵は結局同棲していたアパートを出て、再度一人暮らしをすることを決めたらしい。
いつまた彼女が俺の前から姿を消すのか、考え始めたら怖くてたまらなくなったが、俺は彼女の意思を尊重した。
そしてその代わり毎日のように彼女の元を訪れることにしたのだ。
最初は戸惑い呆れた様子の葵であったがいつしか二人で過ごすことにすっかり慣れたようで、以前付き合っていた時のような柔らかい表情を見せてくれるようになった。
「ねえ俊」
「ん?」
「なんか、私今ものすごく幸せかも」
「え……」
「こういう何でもない日が一番幸せだよね」
食後にコーヒーを飲みながら、そう言ってふんわりと微笑む葵の姿に、再び涙腺が緩みかけたことを彼女は知らない。
彼女と復縁したい。
だが散々彼女を傷つけた自分からはどうしても言い出すことができない。
ただ月日だけが流れていき、俺と葵が初めて付き合い出してから九年が経とうとしていた。
そして彼女の隣に立つ男。
馴れ馴れしく葵と喋りながら歩くその男は、葵の新しい彼氏なのだろうか。
自分と別れてからたった二ヶ月の間にもう彼氏ができてしまったのかと、全身の血が煮えたぎるように熱くなる。
それと同時に、なぜ自分はあれほど魅力的な女性をおざなりにしてちゃんと向き合ってこなかったのだろうかと自己嫌悪に陥った。
その結果冷静に彼女に自分の気持ちを伝えるつもりが喧嘩腰になり、彼女にますます呆れられてしまう始末。
隣にいた男はただの同僚であったらしく、とんだとばっちりであっただろう。
それでも俺は彼女を諦めたくなかった。
あんな街中で周りの人の目を気にせずに彼女への想いを伝えてしまうほどに、彼女に戻ってきて欲しかったのだ。
俺の謝罪によって、葵は再びアパートに戻ってきてくれた。
だが彼女は俺のことが好きだから戻ってきてくれたのではない。
長年付き合った俺が壊れてしまうのを恐れたのだ。
現に俺は彼女が再び家を出たまま戻ってこなくなることを極端に恐れ、毎日毎日彼女の存在をしつこく確認してしまう体たらく。
自分が蒔いた種であるはずなのに、なぜ俺が被害者ぶっているのだろうか。
だがこの関係を終わりにしたら今度こそ葵は手に届かない場所へと離れて行ってしまう気がする。
たとえ彼女に愛されていなくても、同じ屋根の下で暮らすことのできる時間が少しでも延ばせるなら……。
俺は必死に彼女にしがみついていた。
そんな中彼女から切り出された二度目の別れ話。
……いや、今回はもはや付き合ってもいなかったのだから別れ話ですらないだろう。
俺は泣いて謝り狂ったように彼女に縋った。
するとこれまで涙を見せなかった葵が、叫ぶように涙を流しながら思いの丈を打ち明けたのだ。
俺の誕生日に手料理を作って待っていてくれたこと、葵の誕生日に俺の帰りをひたすら待っていたこと。
彼女の体を抱きしめながらその話を聞いていた俺は、聞けば聞くほど自分が嫌になった。
これからの俺の人生を全て捧げて葵に懺悔していきたい。
元通りになれるなんて思っていないけれど、葵のそばで彼女の人生を一緒に見ることは許されるのだろうか。
◇
葵は結局同棲していたアパートを出て、再度一人暮らしをすることを決めたらしい。
いつまた彼女が俺の前から姿を消すのか、考え始めたら怖くてたまらなくなったが、俺は彼女の意思を尊重した。
そしてその代わり毎日のように彼女の元を訪れることにしたのだ。
最初は戸惑い呆れた様子の葵であったがいつしか二人で過ごすことにすっかり慣れたようで、以前付き合っていた時のような柔らかい表情を見せてくれるようになった。
「ねえ俊」
「ん?」
「なんか、私今ものすごく幸せかも」
「え……」
「こういう何でもない日が一番幸せだよね」
食後にコーヒーを飲みながら、そう言ってふんわりと微笑む葵の姿に、再び涙腺が緩みかけたことを彼女は知らない。
彼女と復縁したい。
だが散々彼女を傷つけた自分からはどうしても言い出すことができない。
ただ月日だけが流れていき、俺と葵が初めて付き合い出してから九年が経とうとしていた。
98
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
恋人に捨てられた私のそれから
能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。
伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。
婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。
恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。
「俺の子のはずはない」
恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。
「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」
だけどカトリオーナは捨てられた――。
* およそ8話程度
* Canva様で作成した表紙を使用しております。
* コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。
* 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる