【R-18】私と彼の八年間〜八年間付き合った大好きな人に別れを告げます〜

桜百合

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俺と彼女の八年間とその後 1

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『今までありがとう。荷物はそのうち取りに行く』

 長年付き合ってきた彼女からの突然の別れのメールは、俺を人生のどん底に突き落とした。

 彼女の中村葵とは、高校の卒業式の日に付き合い始めてかれこれ八年の付き合いになる。
 同じクラスで隣の席になったことがきっかけで仲良くなった葵はロングの黒髪をポニーテールにした活発な女子で、笑った顔がなんとも可愛く俺は一目惚れした。

 葵はいつも自分と俺が釣り合わないと話していたが、そんなことはない。
 常に明るい彼女に惹かれていた男子は多かったはずだ。

 葵と話していると時間があっという間で、一日の時間がもっと長ければいいのにと本気で願うほど、俺は彼女と過ごす時間が大好きだった。

 そんな彼女に勇気を出して気持ちを伝えると、ありがたいことに彼女も俺と同じ気持ちでいてくれたようで。
 俺は晴れて彼女と付き合うことになる。

 大学四年間の遠距離生活は辛かったが、それでも久しぶりに会う彼女の笑顔に癒されるために頑張って耐え忍んだ。
 彼女が辛い時には飛ぶように駆けつけたし、彼女も俺のサッカーや学校生活を全力でサポートしてくれた。

 そして大学卒業後は念願の営業職に就職することが決まり。
 葵も再び就職のために県内へと戻ってきたため、俺たちは離れていた時間を取り戻すかのように親の反対を押し切って同棲を決めたのだ。

 仕事に彼女に、まさに順風満帆。
 俺は調子に乗っていたのだと思う。

 そんな俺を待っていたのは、営業職故の洗礼。
 毎日毎日接待という名の飲み会続きで、終電帰りの日々。
 朝から晩まで上司や客先に気を遣い続け、仕事終わりも上司に居酒屋やキャバクラへと連れ回される。
 断ることなどできない雰囲気だった。
 
 仕事でもなかなか良い成績を出すことができず会社の中でも立場が苦しくなり、俺はどんどん追い詰められていく。

 そんな中でも葵はいつも優しくて明るくて。
 俺は彼女の笑顔に支えられながら何とか毎日仕事を続けていたのだが。

 ある日俺は仕事で大きなミスをしでかした。
 業績にもかなりの影響を及ぼしかねないミスに、もちろん上司は怒り心頭だ。

『ミスした分の損益を取り戻して来ない限りは、この会社にお前の居場所はないと思え』

 当時の直属の上司からはこう言われ、俺は自らのミスを挽回するためにより一層営業や接待に励んだ。
 だが結果は思うようにうまく行かず。

 今思えば既にこの頃空回りしていたのだろう。
 次第に家に帰る時間もどんどん遅くなり、終電に間に合わない日も増えた。

「俊、最近忙しそうだよね。体壊してない? 大丈夫? 俊が心配」

 もちろん葵にはかなり心配をかけたと思っている。
 だが当時の俺はそんな葵に苛立ちを覚えていた。

  ——お気楽だな。どうせ他人事だと思ってんだろ。

 何と歪んだ性格なのかと今ならば思えるが、あの時の俺は感情が壊れていたように感じる。

 葵の前では明るい自分を演じなければならないと思うと自然に家への足取りは重くなり、どんどん家から遠ざかってしまったのだ。


 そんなとき、俺は葵にとあることを尋ねられる。

「ねえ、結婚とか考えてる?」

「いや、今の生活に満足してるし忙しい時期だから、まだ別にいいかなと思ってる」

 俺は突然の動揺を葵に悟られたくなくて、スマホをいじりながら目線を一切上げることなく淡々とこう告げた。

「そっか」

「何? 結婚したいの?」

「……長く付き合ってるし、どうかなと思っただけだよ」

「まだ早くね? 俺ら二十五だぜ? 今どき三十過ぎとかで全然問題無いだろ」

「そう……そうだよね」

 葵の表情はよくわからなかったが、その声色からは少し落ち込んでいるように見えた。

 結婚のことを意識したことがないわけではない。
 結婚するならもちろん葵とがよかったし、彼女以外は考えられない。
 だが今仕事でこれほど追い込まれている状況の俺が、家庭を持つことなどできるのだろうか?
 葵と将来生まれてくるであろう子どもに責任も持たなければならないのだと考えると、今すぐ結婚に踏み切る気は起きなかった。

 彼女とはもう八年間も付き合っていて、いずれ結婚することは確実だろう。
 何も今しなくても、周りが結婚ラッシュを迎える頃に結婚すればいい。
 どうせ今だって同じ屋根の下で暮らしているし、結婚しているようなものだろう。
 あの時の俺は本気でそう思っていたのだ。

 その頃からだろうか。
 葵の様子が少しおかしくなり始めたのは。

 あれほどいつも笑っていた彼女が、ほとんど笑わなくなったのだ。
 貼り付けたような笑顔を見せることはあっても、俺が大好きだったあの時のような心からの笑顔は全くみられない。

 どこか俺に対して一線を引いたような、距離を開けたようなそんな態度をとるようになった葵に俺はますます苛ついた。

 加えて仕事はますます忙しくなるばかり。
 俺たちの間に生まれた溝は埋めることができないほど深くなってしまっていたらしい。

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