上 下
19 / 32

私と彼の八年間 19 ※

しおりを挟む

「あっ……」

 全身に力が入らない。
 顔がどうしようもなく火照って熱い。
 自分がどうしようもなくだらしのない顔をしていることが恥ずかしくて、枕に顔を埋めようとしたが俊に阻止された。

「なぁ葵……俺もう我慢できない。いい?」

 既に俊はズボンと下着を脱ぎ捨てており、いつのまにかゴムまで装着している。
 はぁっと息を荒げながら、その先端を私のそこに擦り付けた。

「私、久しぶりだから……」
「わかってる。優しくするよ」

 そして彼は狙いを定めると、そのままゆっくりと体重をかけるようにして男性器を押し込んだ。
 久しぶりに男性を受け入れたそこはまだまだ狭く、俊のものをキツく締め上げてしまう。

「うっ……葵締めすぎ……やばい」
「久しぶりだから、苦しっ……」
「ゆっくり動くから、辛かったら言って」

 その言葉通り俊の動きは緩慢で優しかった。
 ゆっくりと出し入れされる俊のものが、私の形を変えていく。

 最初は約一年ぶりの圧迫感を堪えるので精一杯だったのだが、徐々に俊のもので慣らされていったようで、苦しさが和らいでいくのを感じた。

「大丈夫っ……?」
「んっ……大丈夫。さっきより慣れてきたみたい」
「もう少し動いてもいい?」

 見れば俊はかなり苦しそうで。
 本当は腰を動かしたくてたまらないところを、私のために我慢してくれていたのだろう。

「ん。もう動いていいよ」
「葵……俺すぐ出ちゃうかも。久しぶりすぎて、やばい……」
「大丈夫、俊のいいときに出して……」
「お前さ、まじで可愛すぎ……」

 俊のスイッチが入ったようで、彼は強めに腰を打ちつけ始めた。
 ものが出入りするたびに私の膣がキュッとしまる。
 指では届くことのない奥深くまで刺激され、私は息が止まりそうになった。

「あっ! 俊! 俊っ……」
「葵……キスさせてっ……」

 腰の動きを止めることのないまま、俊は私の上に覆いかぶさりキスをする。
 唇を啄むようなキスが何とも心地よく、緊張していた体の力が抜けていくような感覚に陥る。

「あっ……俺いきそ……葵、好きだ!」
「俊っ……」

 奥深くに腰を打ちつけたまま、俊はビクンビクンと痙攣するかのように震えた。
 息を荒げながら汗に濡れた前髪をかき上げる俊の姿は何とも色気に溢れていて、胸がぎゅっと苦しくなる。


「葵、体辛くない?」

 行為を終えたあと、俊は私を腕枕しながら頬を撫でてそう尋ねた。

「俊が優しくしてくれたから、大丈夫」
「そっか。それなら良かった」
「俊……」
「ん?」
「俊はずるい。そんなに格好良くって……」
「またそういうこと……俺からしたら、お前の方がよっぽど心配だよ」
「私?」
「そうだよ。最初に別れようって言われた日、家を出る葵の姿にドキッとした。無性に色っぽくて、掴んでもすり抜けそうな感じがして、どうしようもなく焦った」

 あの日、確かに俊はいつもと違った。

「高校の時から可愛かったけどな。俺の中ではずっと葵だけが一番だよ」

 そう言いながら俊は私の唇を指でなぞる。

「たくさん傷付けて、散々遠回りしたけど……これからまたよろしくな」
「うん。でももう傷つくのは嫌だよ」
「わかってる。本当に反省したんだ。これからは死ぬまで大切にするから」
「またそういう大袈裟なこと言う」
「俺は本気だし」

 それから恥ずかしさを隠すように俊に頭をぐしゃぐしゃっと撫でられた後、私たちは再びキスを交わした。




「お母さーん! お父さんも待ってるから早くしてよ」
「ごめんごめん、支度が終わらなくて」

 とある日曜日の午後、一向に二階から降りてこない私に痺れを切らして娘の澪が迎えに来た。

「あれ、その指輪初めて見た。お母さんの趣味とは少し違くない?」

 澪は鏡の前に座って身支度を整えていた私の右手の薬指に視線を落とし、少し目を見開いてそう尋ねる。
 私は澪に続いて指輪に視線を向けると、そっと微笑みながら指輪を撫でた。

「お父さんが、昔くれたの」
「お父さんが?」
「そう、まだお母さんたちが結婚する前にね」
「へえ。お父さんもなかなかやるね」

 あの日開けることはなかったブランドの紙袋の中に入っていた指輪は、今私の手元で輝いている。


「何か俺の話したか?」
「あ、お父さん。お母さんの支度まだかかりそう」
「じゃあ澪は先下降りてろ。お父さんたちもすぐ行くから」

 澪は言われた通りに部屋を出て階段を降りて行った。
 代わりに私の部屋へと入ってきたのは背の高い男性だ。


「俊……」
「俺の話、してたの?」
「聞こえてたの?」
「ところどころだけ」
「あなたが昔くれた指輪の話をしていたの」

 私の目の前には、あの時から少し年齢を重ねた愛しい人の姿が。
 俊は私の手元を見ると、ニッコリと笑って私を後ろから抱きしめた。

「最近やっと着けてくれるようになったな」
「だって、なくしたりしたら嫌だから」
「そうしたらまた新しいのを買ってやるって言ってるのに」
「だめ、これがいいの」

 俊はその言葉に嬉しそうな表情を浮かべた後、私の耳元に唇を近づけてこう囁いた。

「葵、愛してる」
「私も愛してる。俊」

 そんな私たちの後ろでは、十八歳の二人が今も変わらず写真立ての中で笑い合っている。


 あのとき苦しんでいた二十代の私にこう伝えてあげたい。


 あなたが初めて愛した人は、今もあなたの隣にいますと。




—————————————————————

次回から俊サイドになります。
恐らく6話程度で完結です。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。 一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。

処理中です...