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私と彼の八年間 19 ※

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「あっ……」

 全身に力が入らない。
 顔がどうしようもなく火照って熱い。
 自分がどうしようもなくだらしのない顔をしていることが恥ずかしくて、枕に顔を埋めようとしたが俊に阻止された。

「なぁ葵……俺もう我慢できない。いい?」

 既に俊はズボンと下着を脱ぎ捨てており、いつのまにかゴムまで装着している。
 はぁっと息を荒げながら、その先端を私のそこに擦り付けた。

「私、久しぶりだから……」
「わかってる。優しくするよ」

 そして彼は狙いを定めると、そのままゆっくりと体重をかけるようにして男性器を押し込んだ。
 久しぶりに男性を受け入れたそこはまだまだ狭く、俊のものをキツく締め上げてしまう。

「うっ……葵締めすぎ……やばい」
「久しぶりだから、苦しっ……」
「ゆっくり動くから、辛かったら言って」

 その言葉通り俊の動きは緩慢で優しかった。
 ゆっくりと出し入れされる俊のものが、私の形を変えていく。

 最初は約一年ぶりの圧迫感を堪えるので精一杯だったのだが、徐々に俊のもので慣らされていったようで、苦しさが和らいでいくのを感じた。

「大丈夫っ……?」
「んっ……大丈夫。さっきより慣れてきたみたい」
「もう少し動いてもいい?」

 見れば俊はかなり苦しそうで。
 本当は腰を動かしたくてたまらないところを、私のために我慢してくれていたのだろう。

「ん。もう動いていいよ」
「葵……俺すぐ出ちゃうかも。久しぶりすぎて、やばい……」
「大丈夫、俊のいいときに出して……」
「お前さ、まじで可愛すぎ……」

 俊のスイッチが入ったようで、彼は強めに腰を打ちつけ始めた。
 ものが出入りするたびに私の膣がキュッとしまる。
 指では届くことのない奥深くまで刺激され、私は息が止まりそうになった。

「あっ! 俊! 俊っ……」
「葵……キスさせてっ……」

 腰の動きを止めることのないまま、俊は私の上に覆いかぶさりキスをする。
 唇を啄むようなキスが何とも心地よく、緊張していた体の力が抜けていくような感覚に陥る。

「あっ……俺いきそ……葵、好きだ!」
「俊っ……」

 奥深くに腰を打ちつけたまま、俊はビクンビクンと痙攣するかのように震えた。
 息を荒げながら汗に濡れた前髪をかき上げる俊の姿は何とも色気に溢れていて、胸がぎゅっと苦しくなる。


「葵、体辛くない?」

 行為を終えたあと、俊は私を腕枕しながら頬を撫でてそう尋ねた。

「俊が優しくしてくれたから、大丈夫」
「そっか。それなら良かった」
「俊……」
「ん?」
「俊はずるい。そんなに格好良くって……」
「またそういうこと……俺からしたら、お前の方がよっぽど心配だよ」
「私?」
「そうだよ。最初に別れようって言われた日、家を出る葵の姿にドキッとした。無性に色っぽくて、掴んでもすり抜けそうな感じがして、どうしようもなく焦った」

 あの日、確かに俊はいつもと違った。

「高校の時から可愛かったけどな。俺の中ではずっと葵だけが一番だよ」

 そう言いながら俊は私の唇を指でなぞる。

「たくさん傷付けて、散々遠回りしたけど……これからまたよろしくな」
「うん。でももう傷つくのは嫌だよ」
「わかってる。本当に反省したんだ。これからは死ぬまで大切にするから」
「またそういう大袈裟なこと言う」
「俺は本気だし」

 それから恥ずかしさを隠すように俊に頭をぐしゃぐしゃっと撫でられた後、私たちは再びキスを交わした。




「お母さーん! お父さんも待ってるから早くしてよ」
「ごめんごめん、支度が終わらなくて」

 とある日曜日の午後、一向に二階から降りてこない私に痺れを切らして娘の澪が迎えに来た。

「あれ、その指輪初めて見た。お母さんの趣味とは少し違くない?」

 澪は鏡の前に座って身支度を整えていた私の右手の薬指に視線を落とし、少し目を見開いてそう尋ねる。
 私は澪に続いて指輪に視線を向けると、そっと微笑みながら指輪を撫でた。

「お父さんが、昔くれたの」
「お父さんが?」
「そう、まだお母さんたちが結婚する前にね」
「へえ。お父さんもなかなかやるね」

 あの日開けることはなかったブランドの紙袋の中に入っていた指輪は、今私の手元で輝いている。


「何か俺の話したか?」
「あ、お父さん。お母さんの支度まだかかりそう」
「じゃあ澪は先下降りてろ。お父さんたちもすぐ行くから」

 澪は言われた通りに部屋を出て階段を降りて行った。
 代わりに私の部屋へと入ってきたのは背の高い男性だ。


「俊……」
「俺の話、してたの?」
「聞こえてたの?」
「ところどころだけ」
「あなたが昔くれた指輪の話をしていたの」

 私の目の前には、あの時から少し年齢を重ねた愛しい人の姿が。
 俊は私の手元を見ると、ニッコリと笑って私を後ろから抱きしめた。

「最近やっと着けてくれるようになったな」
「だって、なくしたりしたら嫌だから」
「そうしたらまた新しいのを買ってやるって言ってるのに」
「だめ、これがいいの」

 俊はその言葉に嬉しそうな表情を浮かべた後、私の耳元に唇を近づけてこう囁いた。

「葵、愛してる」
「私も愛してる。俊」

 そんな私たちの後ろでは、十八歳の二人が今も変わらず写真立ての中で笑い合っている。


 あのとき苦しんでいた二十代の私にこう伝えてあげたい。


 あなたが初めて愛した人は、今もあなたの隣にいますと。




—————————————————————

次回から俊サイドになります。
恐らく6話程度で完結です。
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