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私と彼の八年間 16
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「俊の気持ちはわかった……でも同棲は一旦終わりにしたい。俊も私のことに囚われすぎないで生活してほしいの」
「……また勝手に俺の前からいなくならないよな?」
「うん……」
「俺会いに行ってもいい?」
「いいけど……」
俊との同棲を解消してから私は再び一人暮らしを始めたのだが、彼は懲りずに毎日のように私の元を訪れた。
「……さすがに来すぎじゃない?」
「でもちゃんと夜には帰ってる」
「なにそれ意味わかんない」
「意味わかんなくても、これからも来るから!」
二人並んでテレビを見てご飯を食べて、たわいもない会話をして笑って過ごす。
まるで付き合いたての頃に戻ったようだ。
剥がれかけていた心が、穏やかな膜で包まれるように癒されていく。
俊は、あれ以来決して二人の関係について進展を求めることはしなかった。
私の気持ちを尊重して、私の傷が癒えるのを待っている様子に胸が苦しくなった。
いつ頃からだろうか。
二人で過ごすその時間が当たり前になり、私の中でなくてはならないものへと変わっていったのは。
二度目の同棲の時のように俊が私の顔色を窺いすぎることは無くなり、私も彼に対して引け目を感じることが無くなった。
その結果、以前よりも彼に自分の気持ちを素直に伝えられるようになった気がしている。
彼と付き合っていた八年間の間に溜め込んだ気持ちたちが、少しずつ解放されていく。
別れる前からしばらく作っていなかった手料理も、久しぶりに彼に振る舞いたいと思えるようになった。
「葵が一生懸命作ってくれてたのに、俺はそれを何度も無駄にして……」
俊は泣きながら美味しい美味しいと何度も繰り返して料理を口にしていた。
そしてそんな彼の姿を見て思わず微笑んでしまっている自分がいたのだ。
私の中で俊への思いが再び大きくなり始めていることに気づいた瞬間であった。
営業の仕事をやめたことで時間にも気持ちにも余裕が出た俊は私の大好きだったあの頃の彼に戻り、昔と変わらぬひたむきな思いをぶつけてくれている。
それどころか素っ気ない態度を取り続けた私のことを、ずっと包み込むように支え続けてくれた。
元はと言えば彼が蒔いた種なのだからと言ってしまえばそれまでなのだが、彼は確かに変わったのだ。
未だに彼に対して昔感じていた燃えるような恋心は戻っていない。
だが俊は私の人生の中に当たり前のように存在していて、彼のいない人生を一人で歩んでいく自信も無かったし、彼の隣に別の女性が並ぶ姿を見るのも嫌なのだ。
——本当に馬鹿だ。自分からまた同じ道を歩こうとするなんて。
でも、それでもいいと思える自分がどこかにいるのだ。
この気持ちに正解はあるのだろうか。
「……また勝手に俺の前からいなくならないよな?」
「うん……」
「俺会いに行ってもいい?」
「いいけど……」
俊との同棲を解消してから私は再び一人暮らしを始めたのだが、彼は懲りずに毎日のように私の元を訪れた。
「……さすがに来すぎじゃない?」
「でもちゃんと夜には帰ってる」
「なにそれ意味わかんない」
「意味わかんなくても、これからも来るから!」
二人並んでテレビを見てご飯を食べて、たわいもない会話をして笑って過ごす。
まるで付き合いたての頃に戻ったようだ。
剥がれかけていた心が、穏やかな膜で包まれるように癒されていく。
俊は、あれ以来決して二人の関係について進展を求めることはしなかった。
私の気持ちを尊重して、私の傷が癒えるのを待っている様子に胸が苦しくなった。
いつ頃からだろうか。
二人で過ごすその時間が当たり前になり、私の中でなくてはならないものへと変わっていったのは。
二度目の同棲の時のように俊が私の顔色を窺いすぎることは無くなり、私も彼に対して引け目を感じることが無くなった。
その結果、以前よりも彼に自分の気持ちを素直に伝えられるようになった気がしている。
彼と付き合っていた八年間の間に溜め込んだ気持ちたちが、少しずつ解放されていく。
別れる前からしばらく作っていなかった手料理も、久しぶりに彼に振る舞いたいと思えるようになった。
「葵が一生懸命作ってくれてたのに、俺はそれを何度も無駄にして……」
俊は泣きながら美味しい美味しいと何度も繰り返して料理を口にしていた。
そしてそんな彼の姿を見て思わず微笑んでしまっている自分がいたのだ。
私の中で俊への思いが再び大きくなり始めていることに気づいた瞬間であった。
営業の仕事をやめたことで時間にも気持ちにも余裕が出た俊は私の大好きだったあの頃の彼に戻り、昔と変わらぬひたむきな思いをぶつけてくれている。
それどころか素っ気ない態度を取り続けた私のことを、ずっと包み込むように支え続けてくれた。
元はと言えば彼が蒔いた種なのだからと言ってしまえばそれまでなのだが、彼は確かに変わったのだ。
未だに彼に対して昔感じていた燃えるような恋心は戻っていない。
だが俊は私の人生の中に当たり前のように存在していて、彼のいない人生を一人で歩んでいく自信も無かったし、彼の隣に別の女性が並ぶ姿を見るのも嫌なのだ。
——本当に馬鹿だ。自分からまた同じ道を歩こうとするなんて。
でも、それでもいいと思える自分がどこかにいるのだ。
この気持ちに正解はあるのだろうか。
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