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私と彼の八年間 7

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「ん……」

 気付けばリビングの電気は落とされ、いつのまにか窓の外が明らんでいる。
 時計を見ると七時を過ぎたところで、私はかなりの時間を眠ってしまったのだとわかった。

「あ、起きた? だいぶ飲んでたもんね。はいお水」

 いつのまに来たのか美花がコップに入れた水を差し出してくれる。

「ありがとう。ごめんね、こんなところで寝ちゃって」
「ううん。逆に風邪引かないか心配だったよ」

 見ればブランケットがかけられており、恐らく美花がかけてくれたのだろう。

「それよりさ、葵……これ」

 そう言って美花が差し出したのは昨日私が預けておいたスマホ。

「ああ、ありがとう。助かったよ昨夜は。お陰で流されずに別れられた」

 そうだ。私は俊と別れたんだ。
 昨日の出来事なのに、まるで遠い昔のような不思議な感覚に陥りそうになる。
 やがては俊と付き合っていた事実さえ、無かったことになるのかもしれない。

「……いや、そのことなんだけどさ」
「何?」
「自分で見た方が早いと思うから、スマホ開いてみて」

 私は美花に言われた通りにスマホの画面をつける。

「……っ」

 そこには上から下まで通知で埋め尽くされたディスプレイがあった。
 差出人は全て俊からで、ひっきりなしに連絡が来ているらしい。

『今、どこ? 迎えに行くから教えて』
『いつも勝手に決めんなよ』
『俺は別れたくない』
『ごめん。話がしたい』

 大体内容は全てこんな感じで、唐突の別れ話に戸惑っている様子が伝わってくる。

「ねえ、本当にこれでいいわけ? 絶対向こうは納得してないよね。葵だって見るからに辛そうな顔して……話し合った方がいいと思う」
「話し合ったら、ダメなの」
「なんでっ……」
「結局私は俊には敵わないから」

 付き合っていたとき、喧嘩のような言い合いになったことが数回あった。
 その全てにおいて私が折れるような形で解決したことを覚えている。
 私は振られたくないあまりに、俊に対して引け目のようなものを感じていたのかもしれない。

「元はと言えば私たち釣り合ってなかったんだよね。俊みたいな人気者と、私みたいな地味女」
「今の葵は全然地味女なんかじゃない。それに、その葵を好きって言ってくれたのは彼なんでしょ?」
「あの時は、まだ世界が狭かったから。大人になって色々と変わることもあるんだよ」
「どうすんの? それ……」

 美花は私のスマホの画面に視線を落とす。
 こうしている間にも、止むことなく新しい通知が画面を埋め尽くしていくのがわかった。

「どうもしない。このままブロックするよ。ごめん、美花に渡す前にしておけばよかったね」

 私はそう言って画面を指でスライドさせて、俊からの連絡をブロックした後に連絡先も削除した。
 本当は目を閉じていても口に出して言えるほど、彼の連絡先は頭に入っている。
 その記憶を塗り替えることができるようになるのは果たしていつになるだろうか。
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