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私と彼の八年間 4※

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「俊……」
「ただいま……って葵……? 何してんだよこんな時間に。しかもなんかいつもと雰囲気違くねーか?」

 ドアの向こうにいたのは怪訝な顔を浮かべた俊だった。
 思ったより帰宅が早かったのか。

「帰ってきたんだ」
「は? 当たり前だろ。客先との飲みがいつもより早く終わったんだよ」
「そう……」
「で、お前はなんなんだよ。そんな格好して……」
「私、ちょっと出てくるから」
「この時間から? どこ行くんだよ」
「別に、どこだっていいじゃない。俊だっていつも私に行き先なんて言わないくせに」

 私の反応が予想外だったのか、俊は一瞬目を見開いたあと真顔になった。
 だがここで別れ話を切り出すつもりはない。
 思い出の詰まったこの家では、俊に絆されて流されてしまうかもしれないから。

「言えよ。どこ行くんだよ」
「……会社の同期と飲んでくるから。これでいいでしょ? そこどいて。遅刻しちゃう」
「無理」
「……はあ?」
「葵、久しぶりにやりたい」
「何言ってんの……」

 俊はそう言うと私の手首をグイッと掴んで、半ば無理矢理玄関からリビングの方へと連れて行った。

「ちょ、やめてよ! 今はそういう気分じゃない」
「うるせーよ」

 リビングの隣に位置する二人の寝室へと到達すると、そのまま私の体をベッドへ押し倒し、自らはその上に覆いかぶさるようにして私を見つめる。

 ——このベッドに二人で横になったのは、いつぶりだろう。

 この後に及んでそんなことを考えてしまう私は、いつしか今の状況に諦めを感じ始めたようだ。
 仕事が忙しいという理由で朝帰りをしない日もリビングでそのまま寝てしまうことが増えていた彼は、今どんな気持ちでここにいるのだろうか。

「やってもいいけど、すぐ終わりにして。ほんとに間に合わなくなっちゃうから」

 もはや断るのも面倒になった私は、はぁ……とため息をつくと投げやりのように俊に告げた。

 ——どうでもいい。

 それが今の私の正直な気持ちだった。
 元々生理不順でピルを服用している私は、たとえ俊が避妊してくれなかったとしても予期せぬ妊娠の恐れもないだろう。

 行為を終えて俊が落ち着いたら、そのまま家を出よう。
 あとは俊が仕事でいない時間に荷物を運び出せば全てが終わる。

「お前、どうしたんだよ……」

 私らしからぬ発言に、俊は戸惑いの色を隠せない。
 だがその目の奥には欲望がドロリと顔を覗かせているのがわかった。

「別に。いいから、早くしてよ」

 そう言いながら私は俊の足の間に膝を擦り付けた。

「っ……葵っ……」

 その瞬間、俊から食らいつくようなキスが襲い掛かる。
 いつもなら私も自分から舌を絡ませにいくのだが、もはや俊の欲望に応えるほどの気持ちを持ち合わせていなかった私はされるがままだ。
 体は自分なのに、感覚は別人のような不思議な錯覚に陥りそうになる。

 そんな私の変化に気づいているのか、俊は以前よりもかなり執拗に私を攻めてくる。
 これでもかというほどに乳首を可愛がり、腫れてしまうほどに指で摘んでは離してを繰り返した。

 そしてそのままするりと手が私の下着の中に入ると、ずぷっと指が突き立てられる。
 大して濡れていなかったそこは、ヒリリと鈍い痛みを私に感じさせた。

 俊はその事実に気付いたらしく、いつになく慎重に指を動かし始めた。
 中の壁を擦り付けるようにやわやわと動かされる彼の指のおかげで、私の膣は少し湿り気を帯び始めたようだ。

「んっ……もうそういうのいいからさ、早く挿れてよ……」

 だが俊への気持ちが冷めた私にとって、もはや前戯などどうでもいい。
 そんなものに喘ぐ気分でもないし、執拗に愛撫されたところで感じもしない。
 どうせ処女ではないのだし、さっさと挿れて出して終わりにしてほしいのだ。

「葵っ……お前どうしたんだよ……」
「別にどうもしない。待ち合わせまで時間がないから焦っているだけ。元はと言えば俊が無理矢理してくるからいけないんでしょ?」
「……っ」

 俊は戸惑いの表情を浮かべたが、すぐにガチャガチャとスーツのズボンのベルトを外す。
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