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⑦
しおりを挟む「なぁ、今彼氏いるのか?」
「……それ聞いてどうするつもり」
「いなかったら立候補する。いや、いても立候補するけど……」
言ってることがめちゃくちゃだ。
まるで高校生の時と変わっていない。
「それで、どうなんだよ。彼氏、いるのか?」
「いないよ」
「まじで……やった……」
「やったって、私拓真と付き合うなんて言ってない」
「いやもう決まりだから。今度こそ絶対絶対大事にするし、お前が逃げようとしても逃してやらないから。これ命令な」
「……またそれ言うの?」
拓真は何年経っても拓真のままだった。
その事実に少し安心したような、呆れたようなよくわからない気持ちに包まれた。
「凛、俺の家この近くだからこのまま来て」
「え!? いやいや流石に急すぎない? まだ会って数時間だよ……」
「これまで一緒にいた時間合わせれば十年以上の付き合いだろ」
「それは前の話で……きゃぁっ」
拓真はベンチに腰掛けたまま隣にいる私をぎゅっと抱きしめてきた。
「凛の香りが、変わってる」
「え?」
「当たり前か。あれから三年以上経ったんだもんな」
「それを言うなら拓真だって」
「そう?」
「タバコ臭い」
「……ごめん。もうやめるから。とりあえずうち来て?」
私がこうやって拓真に流されるのは何度目だろうか。
でも結局私も拓真のことを嫌いにはなっていなかったのだと思う。
◇
「部屋ではそんなタバコ吸ってないつもりだけど……匂ってたらごめん」
「うん、大丈夫」
「男の一人暮らしだからソファとかなくてさ。ベッドにでも座っていいから」
拓真の部屋は綺麗なワンルームマンションで、狭いながらも室内は比較的整理整頓されていた。
ベッドに座ると言うのはなんとも微妙な雰囲気を醸し出しそうだったので、私はさりげなく床に座る。
拓真は冷蔵庫からお茶を取り出して持ってくると、そんな私の姿を見て困ったように眉を下げた。
「俺別にお前のこと無理やり襲ったりしないよ」
「う、うん……まあなんとなくだから」
自分から変な空気を生み出してしまったような気がして、気まずさから視線を落とす。
「でも凛がいいって言うなら、やりたい」
「うんそうだよね……って、はあ!? 何言ってんの拓真……」
「俺凛としたのが最後だから。マジでそれから勃たなくてさ。もう四年近く誰ともやってない」
「そういう報告別にいらないから……」
「でもさっきから俺の部屋に凛がいて、いい匂いがして、それだけでなんか勃ちそうなんだよ。やっぱ凛は俺にとって特別なんだわ」
「なんか褒め言葉なのかよくわからないんだけど……」
お前じゃないと勃たないと言われて、普通はありがたい言葉なのかもしれないが素直に喜べない自分がいる。
実際拓真の表情に嘘はなかったし、そんなしょうもない嘘をつく男でないことくらいわかっている。
恐らく事実なのだろう。
「なぁ凛。ちゃんと返事もらってない。また俺の彼女になって。てか社会人なったら結婚して」
「色々と要求が多くてどれに返事すればいいのか謎なんだけど……」
「……俺とまた付き合って」
拓真はそう言うと真っ直ぐに私の目を見つめた。
彼の澄んだ瞳には私の姿が映し出されている。
「……もう変なことで見栄張ったりしない?」
「しない。本当に高校生の馬鹿な意地のせいでお前に誤解させて、別れることになって後悔してる。さすがにあれから三年経って俺も学んだ」
「今、その……女友達とか、多い?」
「いない。変に誤解されたくないから男としかつるんでない」
「……もう別れない?」
「絶対別れない! ……というか、前回振ったのはお前なんだけど」
「ああ、そうだった」
痺れを切らしたのか、拓真は私の頬を両手で包み込む。
「ああ、もう! 返事は!?」
少し赤くなった顔。
唇を噛んで切なげな表情を浮かべる拓真が可愛い。
「いいよ」
「……え」
「また、拓真の彼女になりたい」
「え、まじ……まじか……やばいどうしよう」
「自分からあんなに告白してきて何言ってんの」
「OKされた後まで考えてなかった……また振られるかもって」
こんな状態で来年から社会人になれるのだろうか。
つくづく心配だ。
「しっかりしてよ」
「わかってるよ! ……な、なぁ……」
「ん?」
「キスしていい?」
「いちいち聞かないで、恥ずかしいから」
私の返事を聞くや否や噛み付くような恐ろしいほど激しいキスが降ってきた。
後頭部を強く押さえつけられているせいで、苦しいのに唇を離すことができない。
何度も何度も強く噛みつかれ吸われた唇はヒリつくほどだ。
そして、タバコの苦い味が口に広がる。
……正直あまり好きな味ではない。
これは絶対に禁煙してもらおうと私は心に誓った。
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