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あの発言を耳にしてからどうやって家に帰ったのかわからない。
拓真が口にした言葉たちが何度も頭の中で繰り返される。
『俺別に相川にぞっこんじゃねーし』
『むしろ相川の方が俺にぞっこんなんだよ』
確かに私も恋心を抱いてはいたものの、拓真の方から是非にと請われて半ば強引に始まった関係ではなかっただろうか。
いつのまにか彼の中で認識が変わってしまったのか。
——私がいなくなってもすぐに新しい彼女ができるって言葉に、拓真は言い返してなかったな……。
何よりその言葉が一番辛かった。
せめて、否定だけでもしてほしかったのだ。
ふらふらと家に帰ると、そのままベッドに突っ伏して泣いた。
どれだけ泣いても涙は枯れることを知らないらしい。
いつのまにか私はすっかり拓真にのめり込んでしまったのだ。
やがて互いの立場が逆転してしまっていたということなのか。
そんな自分が惨めで仕方ない。
『別れよう』
気付けばそう連絡していた自分がいた。
もっと本人に直接問い詰めてから別れ話をすればいいはずなのに、高校生の私にそんな器用な真似はできなかったのだ。
すぐに既読がつき、鬼のような着信と連絡がスマホの画面を埋め尽くす。
だが私はそのまま拓真の連絡先をブロックした。
案の定その日の夜に拓真はうちにやってきたが、事前に母親に根回ししておいたので彼が部屋へと通されることはなかった。
それから一ヶ月ほどはそんなことが続いたが、やがてそれもなくなり。
いつしか拓真が別の彼女を作ったという噂が流れ始めた。
そしてそのあと少ししてから再び新庄に告白された私は、彼と付き合い始める。
——ほらね、やっぱり私がいなくなってもすぐに他の彼女ができたじゃん。
拓真に対する失望と、やっぱりかという納得した気持ちが入り乱れた。
もう拓真のことは忘れよう。
私はそう決めて高校を卒業したのだ。
◇
高校を卒業した私は都内にある大学へと進学した。
最初の数年間は貯金を増やしたいという理由もあって、実家から通うことを選択した私。
母親同士が知り合いの拓真の近況は嫌でも耳に入ってくる。
彼も同じく都内の大学に進学を決めたようで、この春から一人暮らしを始めたようだ。
「あんたたちせっかく仲良くなったんだし、このまま結婚してくれたら最高だったのに」
私と拓真の関係が断絶されてから、母親にこんなことを言われたことがある。
だが私たちの間に何かが起きたことは一目瞭然であったので、それ以上深く詮索されることもなかった。
住む場所が変わった拓真と顔を合わせる機会は全くなくなり。
時折母親から耳にする話から、彼が元気に大学生活を送っているということだけはわかっている。
新庄とは大学に入学してからもしばらく付き合いを続けてはいたものの、やがて自然とその関係は終わりを迎えた。
そして大学三年生となった私は、拓真と同じく都内で一人暮らしを始めた。
だがもちろんお互いがどこに住んでいるのかもわからず、連絡手段も自らの手で閉ざしたっきり。
私たちが再会することはないまま一年の月日が流れた頃、私の元へ懐かしい誘いが舞い込んできたのだ。
それは高校の同窓会の開催の知らせであった。
拓真のことが一瞬頭によぎったものの、すぐにその雑念を追い出す。
彼のことを気にしてせっかくの誘いを断るような真似はしたくない。
そう思った私は出席の返事を幹事に送り、同窓会に参加することを決めたのである。
拓真が口にした言葉たちが何度も頭の中で繰り返される。
『俺別に相川にぞっこんじゃねーし』
『むしろ相川の方が俺にぞっこんなんだよ』
確かに私も恋心を抱いてはいたものの、拓真の方から是非にと請われて半ば強引に始まった関係ではなかっただろうか。
いつのまにか彼の中で認識が変わってしまったのか。
——私がいなくなってもすぐに新しい彼女ができるって言葉に、拓真は言い返してなかったな……。
何よりその言葉が一番辛かった。
せめて、否定だけでもしてほしかったのだ。
ふらふらと家に帰ると、そのままベッドに突っ伏して泣いた。
どれだけ泣いても涙は枯れることを知らないらしい。
いつのまにか私はすっかり拓真にのめり込んでしまったのだ。
やがて互いの立場が逆転してしまっていたということなのか。
そんな自分が惨めで仕方ない。
『別れよう』
気付けばそう連絡していた自分がいた。
もっと本人に直接問い詰めてから別れ話をすればいいはずなのに、高校生の私にそんな器用な真似はできなかったのだ。
すぐに既読がつき、鬼のような着信と連絡がスマホの画面を埋め尽くす。
だが私はそのまま拓真の連絡先をブロックした。
案の定その日の夜に拓真はうちにやってきたが、事前に母親に根回ししておいたので彼が部屋へと通されることはなかった。
それから一ヶ月ほどはそんなことが続いたが、やがてそれもなくなり。
いつしか拓真が別の彼女を作ったという噂が流れ始めた。
そしてそのあと少ししてから再び新庄に告白された私は、彼と付き合い始める。
——ほらね、やっぱり私がいなくなってもすぐに他の彼女ができたじゃん。
拓真に対する失望と、やっぱりかという納得した気持ちが入り乱れた。
もう拓真のことは忘れよう。
私はそう決めて高校を卒業したのだ。
◇
高校を卒業した私は都内にある大学へと進学した。
最初の数年間は貯金を増やしたいという理由もあって、実家から通うことを選択した私。
母親同士が知り合いの拓真の近況は嫌でも耳に入ってくる。
彼も同じく都内の大学に進学を決めたようで、この春から一人暮らしを始めたようだ。
「あんたたちせっかく仲良くなったんだし、このまま結婚してくれたら最高だったのに」
私と拓真の関係が断絶されてから、母親にこんなことを言われたことがある。
だが私たちの間に何かが起きたことは一目瞭然であったので、それ以上深く詮索されることもなかった。
住む場所が変わった拓真と顔を合わせる機会は全くなくなり。
時折母親から耳にする話から、彼が元気に大学生活を送っているということだけはわかっている。
新庄とは大学に入学してからもしばらく付き合いを続けてはいたものの、やがて自然とその関係は終わりを迎えた。
そして大学三年生となった私は、拓真と同じく都内で一人暮らしを始めた。
だがもちろんお互いがどこに住んでいるのかもわからず、連絡手段も自らの手で閉ざしたっきり。
私たちが再会することはないまま一年の月日が流れた頃、私の元へ懐かしい誘いが舞い込んできたのだ。
それは高校の同窓会の開催の知らせであった。
拓真のことが一瞬頭によぎったものの、すぐにその雑念を追い出す。
彼のことを気にしてせっかくの誘いを断るような真似はしたくない。
そう思った私は出席の返事を幹事に送り、同窓会に参加することを決めたのである。
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