上 下
1 / 8

しおりを挟む
「俺別に相川にぞっこんなわけじゃねーし」

 静まり返った放課後の教室に響く男子たちの声。
 その中でも私が一番大好きな声は、一番残酷な事実を紡ぎ出した。

「は? 嘘つけ。お前たち幼馴染だろ? 相川にベタ惚れなのはバレバレだっつの」
「そんなことねーよ。むしろ相川の方が俺にぞっこんなんだよ」
「モテる男は辛いな。羨ましー」
「まあお前なら別れてもすぐ新しい彼女できそうだしな。そこまで相川にこだわる必要ねーか」
「まあな」

 残酷な事実はどんどんと広がっていき、私の足元からは黒いモヤが広がっていく。

 声の主は原田拓真。
 私の幼稚園の頃からの幼馴染で、彼氏だ。

 家が近所で母が知り合いだったことから家族ぐるみの付き合いになり、自然と幼い頃から一緒に遊ぶことが多かった。
 中学校は別々の学校だったものの、偶然高校で再び一緒になったのだ。

 拓真はどんどん身長も大きくなり、声も低くなって、私が知っている拓真ではなくなりつつある。
 彼の見た目は女子生徒たちの憧れの的。
 そんな拓真が女子たちから告白される様子を何度も目にしてきたのだ。

 だが拓真が特定の誰かと付き合っているという話を聞くことはなく。
 どうやら全ての告白を断っていたらしい。



「なあ、お前今好きなやついんの?」
「何いきなり」

 高校三年生になり、互いに十八歳を迎えてしばらく経ったある日のこと。
 突然私の家を訪れた拓真は、いつものように母に案内されて私の部屋を訪れると開口一番にそう尋ねた。

「拓真さ、いい加減勝手に私の部屋入ってくるのやめてよ」
「勝手じゃねーし。おばさんにちゃんと許可取ってる」
「それもどうかと思うんだけど」

 私の母親は幼馴染の拓真に絶大な信頼を寄せているようだ。

「で、何の用?」
「浅野が、お前が告られてんの見たって」

 その数日前、私は同じクラスの新庄直哉に付き合ってほしいと告白されていた。
 委員会の仕事を一緒にしたことがきっかけで仲良くなったのだけれど、私は新庄に対してそういった感情は持っていなかったので断ったのだが。

「お試しでいいから、ちょっとだけでも付き合ってくれない?」

 とまあこんな具合に粘られた挙句、返事は保留にさせてもらったのだ。

「ウケる。見られてたんだ」
「おい、流すなよ。お前なんて返事したわけ?」
「何でそんな怒った顔してんの。拓真には関係ないし」
「いいから、なんて答えたんだよ!」

 なぜかいつもより低く怒鳴るような声でそう尋ねる拓真の姿に、私は戸惑った。

「……断ったけど、しつこく粘られて」
「で?」
「とりあえず保留にした」
「はあ!? 保留ってなんだよ。好きだったら保留なんてないだろ!」
「うるさいんだけど。拓真なんてただの幼馴染のくせに、私の恋愛までいちいち口出さないでよ。自分は女の子のこと振りまくってるくせに」

 実は少なからず拓真に惹かれていた私。
 だが高校に入り眩しいほどに成長してしまった拓真と私の間には隔たりを感じるようになった。

 女子に告白されているその姿も、最初は心苦しかったがいつしか見慣れたものになり。
 拓真と自分が付き合うことはないと心のどこかで諦めに似たような踏ん切りをつけていたのかもしれない。

「ふざけんな」

 ボソっとそう呟くと、拓真は突然私の腕を掴み自らの胸の中に引き寄せた。
 顔が拓真の胸元に押しつけられ、濃いほどに鼻をつく彼の香りも合わさって息が苦しくなる。

「ん、ちょっ拓真……くるし……」

 必死にその苦しさから逃れようともがくが、拓真の腕の力は強くなるばかり。

「俺お前が好きだから」
「は?」
「新庄とは付き合うなよ。これ命令な」
「はぁ!?」

 突然の告白に、私の頭の中は真っ白になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

凄腕ドクターは私との子供をご所望です

鳴宮鶉子
恋愛
凄腕ドクターは私との子供をご所望です

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています

Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。 意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。 戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく―― イラスト:らぎ様

夜這いを仕掛けてみたら

よしゆき
恋愛
付き合って二年以上経つのにキスしかしてくれない紳士な彼氏に夜這いを仕掛けてみたら物凄く性欲をぶつけられた話。

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

社長はお隣の幼馴染を溺愛している

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾

処理中です...