29 / 38
29
しおりを挟む「できたか。では今度はお前が治癒魔法をかけてくれ。長時間かけ続けるには中々に体力を要してな。その間に私がペーストを塗ろう」
「お父様、私はお父様のような高度な治癒魔法を使えるかがわかりません」
以前魔法の授業で習ったことはあるが、ほとんど実践したことはなかった。
「お前もシルク公爵の娘、充分にその素質はあるはずだ。治療する対象のことだけを意識して、何が何でも助けたいという気持ちを込めて魔法を注ぎなさい。いいね? 」
「……やってみますわ」
ルーシーはマークと立ち位置を交代して、カイルのそばへ行く。
父の描いた魔法陣の中に入り、両手を胸の前で合わせた。
「カイル様。必ず、必ず私が命をお救いいたします」
ルーシーはすうっと息を大きく吸って、治癒魔法をかけ始める。
頭の中で思い描くのはかつてのカイルの姿。
カイルを愛しく思う気持ち、何としても解術したい気持ちを強く込めて、目を閉じて祈る。
その間にマークはルーシーが作成したペーストをカイルの全身に筆で塗っていく。
緑色をしたそれが、黒い斑点の染み出すカイルの皮膚を覆い尽くしていく。
すると、ペーストが発光し始めた。
「ルーシー、そのまま魔法をかけ続けてくれ」
マークはペーストの一部を剥がしてみると、黒い斑点がわずかだが薄くなったように見える。
「魔法が効果を著しているらしい。このまま続けよう。体調は大丈夫か? ルーシー」
「少し体力を奪われてしまっていますが、大丈夫ですわ。お父様」
大人の男性でも魔法をかけ続けるには多大な体力を要する。
まだ10代のルーシーにはかなりの負担であろう。
魔法陣の中に長時間立つだけでも自分の魔力を吸い取られると言うのに、継続して治癒魔法をかけ続けていると手足に力が入らなくなってくる。
「……っ」
「ルーシー!! 一度休みなさい」
フラついたルーシーをマークは見逃さなかった。
ルーシーが倒れ込む前に支え、近くにあった椅子に腰掛けさせる。
「今お前が倒れては元も子もないだろう。今度は私が代わりにやろう。お前は休みながらカイル君の呪いの斑点を確認してくれ」
「お父様……申し訳ありません」
ルーシーはマークの言葉に甘えて、少し休ませてもらう事にした。
カイルの体に目をやると、黒いシミは薄くなりつつあるのがわかるが、まだまだ体の広範囲を占めている。
「……カイル様……ぐすっ」
(こんなに魔法をかけ続けているのに……)
もうだめかもしれない、そんな考えがよぎってしまう。
最後に会った彼の笑顔が浮かぶ。
もう一度あの逞しい腕に抱きしめられたかった。
あの時行かないでと言えばよかった。
まさかこんな事になってしまうだなんて。
「ルーシー! しっかりするんだ。それでアルマニア家の妻が務まるとでも思うか!? 」
泣き出すルーシーに、マークが珍しく喝を入れる。
カイルは、自らの母であるアルマニア公爵夫人が遭遇した幾度もの命の危機の話をしていた。
武器を取り扱い攻撃魔法を得意とするアルマニア公爵家に危険はつきものだ。
ルーシーの実家であるシルク公爵家のまとう雰囲気とはガラリと異なるだろう。
奇跡的にカイルが回復してルーシーと結婚した場合、今度はルーシーがその危険の中に身を置く事になるのだ。
そのことをルーシーは今身を持って実感した。
「お父様、私……」
「カイル君の力を信じよう。そして私たち二人の力も」
20
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説

断罪するならご一緒に
宇水涼麻
恋愛
卒業パーティーの席で、バーバラは王子から婚約破棄を言い渡された。
その理由と、それに伴う罰をじっくりと聞いてみたら、どうやらその罰に見合うものが他にいるようだ。
王家の下した罰なのだから、その方々に受けてもらわねばならない。
バーバラは、責任感を持って説明を始めた。


学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう
夏千冬
恋愛
第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。
それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!
改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる