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 「助ける方法はないの? お父様! 」

 ルーシーは縋るような目でルークに迫るが、ルークの表情は険しいままだ。

 「ある事にはあるが……なんせ呪術は厄介なんだ、一筋縄ではいかん。それに絶対に解術できるとも限らないし、下手をすればこちらが返り討ちに遭う危険性もある」

 「それでも、何もしないよりはマシだわ! このまま黙って見ているだけなんて私には耐えられない。早く教えて、どうすれば彼を救えるの!? 」

 ルーシーはさらに父に詰め寄る。
 マークはその勢いに圧倒されながら、観念したかのように後ろに控える男に合図した。

 半刻後、部屋にやってきたのは父マークの所属する治療院の治癒士だ。
 治療院にはそれぞれの分野に特化した治癒士が属しており、恐らくこの男性は呪術を専門とする治癒士なのだろう。

 白いローブを見に纏った初老の男性はゆっくりとルーシー達に近づくと、静かにお辞儀した。

 「至急の命令だ。頼む、呪いの解術の方法を教えてほしい」

 男性は小さく頷くと、話し出した。

 「解術のためには非常に強い治癒魔法を絶える事なくかけ続ける事が必要不可欠。ですが私たちのような一般の治療者ではダメなのです。ただの治療者では大勢集まったところで結果は変わりません。シルク公爵、あなた様の魔力でないと。そしてあなた様ほどの魔力があっても、残念なことに一人の力では間に合いません」

 そして男性はルーシーの方を向いて、諭すようにこう告げた。

 「シルク公爵令嬢ルーシー様。あなたの力が必要だ。御父上である公爵と力を合わせて、彼に治癒魔法をかけ続けるのです」

 「それでカイル様が助かるのかもしれないならば、もちろんやりますわ」

 「治癒魔法をかけ続ける事による弊害は無いのか? ルーシーの体に影響は? 」

 珍しくブライトが心配そうな面持ちでそう尋ねる。

 「このようなケースは前例がほとんどないため、やってみない事には何とも……」

 「それではダメだ、そんな危険なこと」

 それまで黙って様子を見ていたというのに、ここに来て急にブライトが焦り出す。

 「いいえ、私なら大丈夫よブライト」

 ルーシーはブライトの発言を遮り、しっかりと彼の目を見つめた。

 「命を失うかもしれないんだぞ!? カイルが助かって君が命を落としてしまったら、何の意味もないではないか! そんな結果は誰も望んでいない! あいつだって、そんなことは望まないだろう」

 「ルーシー嬢、気持ちはありがたいが確かにブライト君の言う通りだ。治癒魔法をかけ続けたとしても、息子が助かる保証はない。あなたに何かあっては、シルク公爵に申し訳が立たない」

 アルマニア公爵も心配そうな面持ちでそう訴えるが、ルーシーには響かなかったらしい。

 「いいえ、たとえ命がなくなってしまったとしても、それで彼が助かるなら本望です。それに彼のいない世界なんて死んだ方がマシだわ! カイル様がいないと、私は生きていけない……」

 「ルーシー……」

 「ルーシー嬢……」

 ルーシーのあまりの剣幕に、ブライトとアルマニア公爵は押し黙ってしまった。

 「ルーシー、お前がそこまで言うのなら、私も力の限りを尽くそう。共に力を合わせて、彼を救うのだ。アルマニア公爵、娘を信じて、私たちに任せてはもらえませんか」

 「シルク公爵……」

 振り返ると、父マークが微笑みながらそう頷いた。
 いつもはお人好しで人に流されやすい父が、今日は何と頼もしいことか。

 「かたじけない。息子を……カイルを頼みます」

 アルマニア公爵の許可を確認すると、マークはすぐに動き出した。


 「では誰か! 薬草と湯と、魔法石を頼む! 至急だ! 」

 マークの指示により、急遽カイルの解術のための準備が整えられ、屋敷の中が慌ただしくなった。

 ルーシーは溢れる涙を手で拭い、カイルの解術に取り掛かる決意を決めたのだった。
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