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「お父様! ブライト! 」
ルーシーは転移魔法によってシルク公爵家に到着した三人に駆け寄る。
三人の表情に悲壮感が漂っていることに気付くと、嫌な予感が脳裏によぎる。
そしてカイルによく似た壮年の男の手元を見て、ルーシーは悲鳴をあげた。
「そんな、カイル様!? 嫌よ、彼はどうしたの!? なぜ目を覚まさないの? 」
屈強そうな男の腕には、全身の皮膚に黒い斑点が浮き出しグッタリと意識を失ったカイルが抱き抱えられていた。
その男……カイルの父であるアルマニア公爵は、マークに案内されて客間へと向かい、寝台にゆっくりカイルを横たわらせる。
別人のように変わり果てたカイルの姿をまじまじと見つめることができず、ルーシーは寝台から顔を背けた。
「お父様、カイル様はどうしてしまったの?! お父様の力があれば、治るのよね!? 」
勢いよく尋ねるルーシーを、マークは手を挙げて制した。
「落ち着きなさい、ルーシー。アルマニア公爵の前だぞ。……申し訳ありません。娘が取り乱してしまって」
マークがさらりと放ったその言葉に、ルーシーは驚き目を見張る。
「アルマニア公爵様……ですって? 」
ルーシーは寝台の横に立ち項垂れる男性に視線を移した。
カイルと同じ漆黒の髪に切長の瞳。
年齢を感じさせないほどの若々しさ溢れる見た目をしている。
カイルが年を重ねたらきっとこうなるであろうと、すぐにわかった。
この目の前にいる男性が、カイルの父なのだ。
つまり防衛省トップで、アルマニア公爵家の主人。
さらにはアデール国随一の魔力の持ち主ときた。
だが今ではその強者もただ一人の父親の姿になっていた。
「ルーシー、カイル君の父上のアルマニア公爵だ。ご挨拶なさい」
見兼ねたマークがルーシーに声をかけた。、
「初めまして、シルク公爵の娘のルーシーと申します……」
ルーシーは頭を下げた。
だがしばらく経ってもアルマニア公爵から返事はない。
恐る恐る頭を上げて公爵の姿を見ると、公爵は涙を流していた。
「そうか、あなたが……。息子にどうやら大切な人ができたらしいというのは耳にしていましたが。許してください。私があやつに危険な仕事を任せきりにしてしまったせいでこんな事に……」
「カイルは……カイル様は一体どうなさったのですか? 」
すると後ろからブライトが近づいてきてこう言った。
「アトワールのシーラの手先の魔術師に呪術をかけられたんだ。幸い、呪術の途中で我々が突入したから最後まで術を完遂はしていないが」
だが、とブライトが続ける。
「中途半端とはいえ呪術が彼の体内に侵入してしまった。あとは時間の経過と共に徐々に呪いが広がっていくだろう」
「呪いが広がっていくと、カイル様はどうなってしまうの……? 」
「今は点状の黒いシミが、全身を覆い尽くすようになる。もちろんこのまま意識を失ったままだろうし、いずれは命を落としてしまうかもしれない」
「……そんな!? 」
カイルを失ってしまうなど、耐えられない。
たとえ自分の命を削ってでも彼を助けたい。
ルーシーは転移魔法によってシルク公爵家に到着した三人に駆け寄る。
三人の表情に悲壮感が漂っていることに気付くと、嫌な予感が脳裏によぎる。
そしてカイルによく似た壮年の男の手元を見て、ルーシーは悲鳴をあげた。
「そんな、カイル様!? 嫌よ、彼はどうしたの!? なぜ目を覚まさないの? 」
屈強そうな男の腕には、全身の皮膚に黒い斑点が浮き出しグッタリと意識を失ったカイルが抱き抱えられていた。
その男……カイルの父であるアルマニア公爵は、マークに案内されて客間へと向かい、寝台にゆっくりカイルを横たわらせる。
別人のように変わり果てたカイルの姿をまじまじと見つめることができず、ルーシーは寝台から顔を背けた。
「お父様、カイル様はどうしてしまったの?! お父様の力があれば、治るのよね!? 」
勢いよく尋ねるルーシーを、マークは手を挙げて制した。
「落ち着きなさい、ルーシー。アルマニア公爵の前だぞ。……申し訳ありません。娘が取り乱してしまって」
マークがさらりと放ったその言葉に、ルーシーは驚き目を見張る。
「アルマニア公爵様……ですって? 」
ルーシーは寝台の横に立ち項垂れる男性に視線を移した。
カイルと同じ漆黒の髪に切長の瞳。
年齢を感じさせないほどの若々しさ溢れる見た目をしている。
カイルが年を重ねたらきっとこうなるであろうと、すぐにわかった。
この目の前にいる男性が、カイルの父なのだ。
つまり防衛省トップで、アルマニア公爵家の主人。
さらにはアデール国随一の魔力の持ち主ときた。
だが今ではその強者もただ一人の父親の姿になっていた。
「ルーシー、カイル君の父上のアルマニア公爵だ。ご挨拶なさい」
見兼ねたマークがルーシーに声をかけた。、
「初めまして、シルク公爵の娘のルーシーと申します……」
ルーシーは頭を下げた。
だがしばらく経ってもアルマニア公爵から返事はない。
恐る恐る頭を上げて公爵の姿を見ると、公爵は涙を流していた。
「そうか、あなたが……。息子にどうやら大切な人ができたらしいというのは耳にしていましたが。許してください。私があやつに危険な仕事を任せきりにしてしまったせいでこんな事に……」
「カイルは……カイル様は一体どうなさったのですか? 」
すると後ろからブライトが近づいてきてこう言った。
「アトワールのシーラの手先の魔術師に呪術をかけられたんだ。幸い、呪術の途中で我々が突入したから最後まで術を完遂はしていないが」
だが、とブライトが続ける。
「中途半端とはいえ呪術が彼の体内に侵入してしまった。あとは時間の経過と共に徐々に呪いが広がっていくだろう」
「呪いが広がっていくと、カイル様はどうなってしまうの……? 」
「今は点状の黒いシミが、全身を覆い尽くすようになる。もちろんこのまま意識を失ったままだろうし、いずれは命を落としてしまうかもしれない」
「……そんな!? 」
カイルを失ってしまうなど、耐えられない。
たとえ自分の命を削ってでも彼を助けたい。
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