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公爵に睨みつけられたルシアンと呼ばれたその男。
たった今木端微塵に破壊されたドアをちら、と見て、その凄惨さに青ざめる。
次は我が身と悟ったのであろうか。
ようやく事の重大さに気付き、ヒイっと微かに声を上げて後退りするが既に遅い。
アルマニア公爵はルシアンに向かってゆっくりと歩み、近づく。
その鋭い瞳はルシアンを射抜くようにキリリと細められている。
ルシアンが必死の抵抗で呪術を唱えようとしたその時。
部屋中に雷のような光が瞬いた。
「た、たすけっ………」
ルシアンの叫びも虚しく、次の瞬間には攻撃魔法の中でも最恐最悪と呼ばれる分裂魔法により、ルシアンはその全身をバラバラに刻まれてしまった。
床にバラバラに砕けた肉体が散らばるが、公爵はさらにその肉体を炎で燃やして灰にする。
灰となったルシアンはパラパラと風に舞い、遂にその姿を無くしてしまった。
彼がこの世に存在していた痕跡は跡形も無い。
先ほどまであれほど余裕に満ちていたはずの男の、呆気ない最期であった。
果たして彼の命懸けの忠誠は、シーラに届いたのであろうか。
恐らくシーラの中に彼の存在は一握りも無かっただろう。
公爵の魔法の激しさを初めて目の当たりにした残りの男二人……ルーシーの父マークと元婚約者ブライトは、情けなくも震えが止まらない。
以前より攻撃魔法の強さと恐ろしさに関してある程度の知識はあったものの、ここまでとは思っていなかったのだ。
自分達が使いこなす魔法など、アルマニア公爵の手にかかれば虫ケラ以下だろう。
「さ、さすがはアルマニア公爵殿ですな……いや噂には聞いていましたがこれほどまでとは……。お陰で助かりましたぞ」
「本当に。見ているこちらも生きた心地がしませんでした……」
二人は、つくづくアルマニア公爵が敵でなくて良かったと痛感しながら、称賛の言葉を公爵に送る。
ちなみになぜ彼らはカイルの居場所を知り、屋敷へ辿り着くことができたのか。
それにはブライトとルークの得意とする魔法が深く関わっていた。
まずブライトの知能魔法と認識魔法を用いてカイルの居場所を特定する。
そして目的地を定めた後、マークの転移魔法で最速で屋敷へ到達したのだ。
「いや、完全に私の力不足でありました……あと一歩早ければ息子を呪術に晒すことはなかったのに……。私は父親失格です」
そう言って意識の無いカイルに目をやり、顔をしかめる。
いつの間にか、カイルの体には黒い斑点がいくつか浮かび上がっていた。
徐々に呪いが広がっているのかもしれない。
三人の間になんとも言えない嫌な空気が流れた。
「とりあえず、我が屋敷へ戻りましょう。ルーシーも心配して待っております」
アルマニア公爵がカイルを抱え上げ、マークの転移魔法によって再び三人は屋敷から姿を消したのであった。
たった今木端微塵に破壊されたドアをちら、と見て、その凄惨さに青ざめる。
次は我が身と悟ったのであろうか。
ようやく事の重大さに気付き、ヒイっと微かに声を上げて後退りするが既に遅い。
アルマニア公爵はルシアンに向かってゆっくりと歩み、近づく。
その鋭い瞳はルシアンを射抜くようにキリリと細められている。
ルシアンが必死の抵抗で呪術を唱えようとしたその時。
部屋中に雷のような光が瞬いた。
「た、たすけっ………」
ルシアンの叫びも虚しく、次の瞬間には攻撃魔法の中でも最恐最悪と呼ばれる分裂魔法により、ルシアンはその全身をバラバラに刻まれてしまった。
床にバラバラに砕けた肉体が散らばるが、公爵はさらにその肉体を炎で燃やして灰にする。
灰となったルシアンはパラパラと風に舞い、遂にその姿を無くしてしまった。
彼がこの世に存在していた痕跡は跡形も無い。
先ほどまであれほど余裕に満ちていたはずの男の、呆気ない最期であった。
果たして彼の命懸けの忠誠は、シーラに届いたのであろうか。
恐らくシーラの中に彼の存在は一握りも無かっただろう。
公爵の魔法の激しさを初めて目の当たりにした残りの男二人……ルーシーの父マークと元婚約者ブライトは、情けなくも震えが止まらない。
以前より攻撃魔法の強さと恐ろしさに関してある程度の知識はあったものの、ここまでとは思っていなかったのだ。
自分達が使いこなす魔法など、アルマニア公爵の手にかかれば虫ケラ以下だろう。
「さ、さすがはアルマニア公爵殿ですな……いや噂には聞いていましたがこれほどまでとは……。お陰で助かりましたぞ」
「本当に。見ているこちらも生きた心地がしませんでした……」
二人は、つくづくアルマニア公爵が敵でなくて良かったと痛感しながら、称賛の言葉を公爵に送る。
ちなみになぜ彼らはカイルの居場所を知り、屋敷へ辿り着くことができたのか。
それにはブライトとルークの得意とする魔法が深く関わっていた。
まずブライトの知能魔法と認識魔法を用いてカイルの居場所を特定する。
そして目的地を定めた後、マークの転移魔法で最速で屋敷へ到達したのだ。
「いや、完全に私の力不足でありました……あと一歩早ければ息子を呪術に晒すことはなかったのに……。私は父親失格です」
そう言って意識の無いカイルに目をやり、顔をしかめる。
いつの間にか、カイルの体には黒い斑点がいくつか浮かび上がっていた。
徐々に呪いが広がっているのかもしれない。
三人の間になんとも言えない嫌な空気が流れた。
「とりあえず、我が屋敷へ戻りましょう。ルーシーも心配して待っております」
アルマニア公爵がカイルを抱え上げ、マークの転移魔法によって再び三人は屋敷から姿を消したのであった。
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