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 「……な、お前まさか! やめろ! 」

 「お前ほどの魔力を持つ男にただ死んでもらうのは惜しいとシーラ様が仰るのでな。お前如きをそこまでシーラ様が買い被るのに納得が行かないが、仕方あるまい。ゆっくり苦しんでもらおう」

 男はニヤリと笑いながらそう言うと、かざした手のひらを広げて何やら呪文を唱え始める。

 「⭐︎※△⭐︎※△⭐︎※△……」

 「や、やめろっ!! 」

 呪術だ。
 呪文と共に手のひらから黒い靄が広がり、カイルを包み込もうとする。
 どことなく甘い香りのするその靄は、なんとも不気味だ。
 
 「くっ……クソ! 」

 持てる限りの攻撃魔法をぶつけるが、黒い靄は消失する事なく、むしろ魔力を吸収してカイルを取り込もうと、より一層の広がりを見せる。

 これがアトワールの伝統的な呪術だ。
 呪術には魔法と違って強い呪怨が込められるため、ちょっとやそっとの魔法では解術することができない。

 徐々に靄はカイルの攻撃魔法を圧倒し、その体を包み込み始めた。
 自分の意思に反して体中の力が抜けていくと共に、思考回路が低下していく。

 「っそんな……こんなところでやられるわけには……」

 頭に浮かぶのは愛する人の姿。

 「ルー……シー……」

 争いを終えたら必ず迎えにいくと約束した。
 ここでやられるわけにはいかないのだ。
 だが身体が思うように動かない。

 こんな事なら、もっと早く自分の思いを伝えて無理矢理駆け落ちでもすればよかった。
 自分もずっと彼女を愛していたのに。
 出会った時から惹かれていたというのに。
 想いが通じ合ってから別れまで、あまりに短すぎた。
 結局また彼女を傷つけてしまったのだ。

 そんなことをぼんやりと考えていたが、カイルは徐々に目を開けているのも辛くなり、遂にその意識を手放そうとした。

 ……と、その時だった。

 「そこまでだ、ルシアン! 」

 固く施錠されていたドアが一気に吹っ飛び、三人の男達が駆け寄ってきた。
 ドアは木っ端微塵に破壊されて残骸が部屋中に散らばる。
 突然の乱入により男の気が逸れ、呪術が中断されたことでカイルを取り巻く黒い靄は消失したが、そのままカイルは気を失ってしまう。

 「カイル! しっかりしろ! ああなんて事だ。貴様……私の息子をよくも」

 カイルに駆け寄り嘆き悲しむ男は、カイルの父であるアルマニア公爵その人だった。
 カイルの漆黒の髪と鋭い目つきは公爵譲りなのだろう。
 彼はアデール国一の魔力の持ち主だと噂されている。
 恐らくアルマニア公爵の攻撃魔法でドアを吹き飛ばしたらしい。
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