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 「ビスク公爵令息、ルーシー嬢、この度は婚約おめでとう」

 「ありがとうございます。エリック様」

 城に到着したブライトとルーシーは、参加している貴族達の注目を一身に集めた。
 アデール国を代表する公爵家同士の婚約は、国を挙げての慶事である。
 またルーシーの輝かしいばかりの美貌と、ブライトの見目麗しさも注目を集める一因となっていた。

 貴族達が群がる様子を見て、すぐに王太子エリックが婚約者である王女を引き連れて挨拶に来る。
 その面持ちは国王アンドリューに良く似ているが、国王のように陰を感じることはなく朗らかで明るい青年である。

 「こちらが婚約者でアトワール国王女のシーラだ」

 エリックの隣に佇む銀髪の女性は、少し気が強そうだがとても美しい。

 「お初にお目にかかります。シーラと申します。以後お見知り置きを」

 きっと微笑んだのであろうが、あまり表情の動きが読めない女性だと言う事がわかった。

 「シーラ様、ご挨拶ありがとうございます。私はブライト・ビスク、こちらは婚約者のルーシー・シルクです」

 ブライトとルーシーも倣って挨拶をする。

 「父上より昨今のアルマニア公爵家の公私混同ぶりは、目に余るものがあると聞いている。君たち両家が結びつく事で生まれる利益は大きいはずだ。アデール国のためにも、よろしく頼むよ」

 「は。仰せの通りに」

 ブライトが深々とお辞儀をしたので、ルーシーもならって頭を下げる。

 またアルマニア公爵家の話かとルーシーはうんざりした。
 自分達の婚約を祝うよりも、アルマニア公爵家の力が弱まる事に対しての賛辞ばかりだ。
 果たして両家の結び付きにそこまでの意味があるのだろうか。

 その後もひっきりなしに続く貴族達の挨拶に対応を続けた結果、ルーシーはすっかり疲れ果ててしまった。
 久しぶりに履いたヒールで足も痛むし、何だか頭痛も出てきたような気がする。
 舞踏会とはこんなにストレスの溜まる場所であっただろうか。

 「疲れた? 」

 段々とルーシーの声に覇気が無くなってきた事に気付いたのか、ブライトが小声で尋ねる。

 「ええ、少し……。 何だか頭も痛いような気がして……」

 「輪から外れて、隅の方で飲み物でも飲んで休んできなよ。後は適当に僕が相手しとくから」

 「お言葉に甘えさせてもらおうかしら。ありがとうブライト」

 さすがは幼馴染と言うべきであろうか。
 婚約者としては完璧な対応である。

 ルーシーは、自分がブライトに高望みしすぎなのかもしれないと思い始めていた。
 貴族同士の結婚の事を誰よりも理解しているはずなのに。
 それでも両親のような夫婦になりたいという希望は捨てきれずにいた。



 舞踏会の中心から離れて大広間の隅の方で冷たいレモン水を口に含むと、頭痛が和らいでいくのを感じる。
 ブライトは相変わらず大勢の貴族に囲まれているが、上手く対応できているようだ。

 ようやくルーシーに周りを見渡す余裕が生まれた。
 さすが王家主催の舞踏会なだけあって、着飾った国中の貴族達がお喋りやダンスに花を咲かせている。

 そこでふとルーシーは気付いた。
 アルマニア公爵家の関係者が見当たらない。

 アデール国一番の公爵家が今夜の舞踏会に招待されていないことなど有り得るのだろうか?

 アルマニア公爵の顔は以前に一度だけ見かけた事があるため覚えているが、見渡す限り見当たらない。
 もちろんカイルの姿もない。

 やはりそこまでアルマニア公爵家と王家の間には確執が生まれてしまっているのか、とルーシーは少なからずショックを受けた。
 もしかしたらこの舞踏会でカイルと再会できるかもしれない、と言う微かな望みが絶たれてしまったのだ。

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