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「では私がブライト様の元へ嫁げば、全てが丸く収まるということですよね? 」
「……ああ、お前を王家と公爵家のいざこざに巻き込みたくはなかったのだが……それが我が公爵家とこのアデール国のためだ」
アデール国の中でも一際目を引く立派な屋敷の一室は緊迫した空気に包まれていた。
眉間に皺を寄せながら机に向かって座っているのはシルク公爵。
そしてその正面に凛と立つのはシルク公爵の愛娘であるルーシーだ。
シルク公爵家はアデール国の中で三大公爵家と呼ばれる名門貴族の一つである。
ちなみに残り二つの公爵家はビスク公爵家とアルマニア公爵家で、冒頭に出てきたブライトはビスク公爵家の嫡男である。
「お前も知っている通り、昨今のアルマニア公爵家の発展は凄まじいものだ。国王陛下はアルマニア公爵家がこれ以上の権力を持つことを恐れている」
「そのため残りの二つの公爵家の結び付きを強めようということですか」
「その通りだ。王家には年頃の王子王女が少ない。王太子殿下には既に隣国の王女が嫁ぐ事が決まっているし、残りの王女も他国へ嫁ぐことが前々から取り決められていた。となると、王家と公爵家が結びつくことは難しい。だから公爵家同士を結び付けようと考えたんだろう」
三大公爵家の一つアルマニア公爵家は、武器の輸出入で巨大な富を手に入れている一族だ。
代々武力と魔力に優れた者が生まれる一族で、その力は王家をも凌ぐと言われている。
(アルマニア公爵家がその気になれば、王家など一握りだとか……)
「もちろん我が公爵家も魔力を持つが、アルマニア公爵家のそれとは比にならない」
シルク公爵家が得意とする魔法は治癒魔法と転移魔法だ。
治癒魔法、転移魔法共にその名の通り傷を癒やし、姿を移動させることが出来る魔法だ。
そしてビスク公爵家の得意とする魔法は身近にいる人の心を読む認識魔法と、公爵家の血筋を引く者の知能を未来永劫高めてくれる知能魔法である。
対するアルマニア公爵家の得意とする魔法は攻撃魔法と忍術魔法。
攻撃魔法は数多くの魔法の中でも最も最強(最恐)と言われており、武器の威力を高め国一つ吹っ飛ばすほどの攻撃を行うことが出来る。
忍術魔法はその場に留まったまま姿を消して見えなくしたり、エスケープしたりすることが出来る。
ちなみにシルク公爵家の使う転移魔法とエスケープはほとんど同じ意味を持つ。
つまり、総じてアルマニア公爵家は最強なのだ。
その力は年々増しており、政治を執り行う面々の中にもアルマニアの流れを引くものが増えた。
増えすぎた権力は国王にとっての脅威となり得る。
しかもアルマニア公爵家はアデール国の武器の管理を任されているため、難癖をつけて爵位を奪いなどしたら、王家が潰されかねない。
そのため、アルマニア公爵家以外の二つの公爵家の力を強めようというのが今回の婚姻の狙いなのだ。
「幸いお前とブライト君は幼馴染で見知った仲であろう。何処の馬の骨かわからない男なら断固拒否するところであるが、ブライト君ならと受け入れた次第だ」
「まあ……確かにそうですね。ブライト様の事は幼い頃から知っておりますが」
母同士が知り合いであったため、幼い頃からブライトと顔を合わせる機会が多くあったが、二人の間に恋愛感情は一切存在していない。
「すぐにでも婚約を済ませ、半年後には結婚発表となる予定だ。急ですまないが、許しておくれ」
「お父様のせいではありませんもの」
申し訳なさそうに頭を下げた公爵は、ルーシーの言葉を聞くとホッとしたように顔を上げ、微笑んだ。
「……ああ、お前を王家と公爵家のいざこざに巻き込みたくはなかったのだが……それが我が公爵家とこのアデール国のためだ」
アデール国の中でも一際目を引く立派な屋敷の一室は緊迫した空気に包まれていた。
眉間に皺を寄せながら机に向かって座っているのはシルク公爵。
そしてその正面に凛と立つのはシルク公爵の愛娘であるルーシーだ。
シルク公爵家はアデール国の中で三大公爵家と呼ばれる名門貴族の一つである。
ちなみに残り二つの公爵家はビスク公爵家とアルマニア公爵家で、冒頭に出てきたブライトはビスク公爵家の嫡男である。
「お前も知っている通り、昨今のアルマニア公爵家の発展は凄まじいものだ。国王陛下はアルマニア公爵家がこれ以上の権力を持つことを恐れている」
「そのため残りの二つの公爵家の結び付きを強めようということですか」
「その通りだ。王家には年頃の王子王女が少ない。王太子殿下には既に隣国の王女が嫁ぐ事が決まっているし、残りの王女も他国へ嫁ぐことが前々から取り決められていた。となると、王家と公爵家が結びつくことは難しい。だから公爵家同士を結び付けようと考えたんだろう」
三大公爵家の一つアルマニア公爵家は、武器の輸出入で巨大な富を手に入れている一族だ。
代々武力と魔力に優れた者が生まれる一族で、その力は王家をも凌ぐと言われている。
(アルマニア公爵家がその気になれば、王家など一握りだとか……)
「もちろん我が公爵家も魔力を持つが、アルマニア公爵家のそれとは比にならない」
シルク公爵家が得意とする魔法は治癒魔法と転移魔法だ。
治癒魔法、転移魔法共にその名の通り傷を癒やし、姿を移動させることが出来る魔法だ。
そしてビスク公爵家の得意とする魔法は身近にいる人の心を読む認識魔法と、公爵家の血筋を引く者の知能を未来永劫高めてくれる知能魔法である。
対するアルマニア公爵家の得意とする魔法は攻撃魔法と忍術魔法。
攻撃魔法は数多くの魔法の中でも最も最強(最恐)と言われており、武器の威力を高め国一つ吹っ飛ばすほどの攻撃を行うことが出来る。
忍術魔法はその場に留まったまま姿を消して見えなくしたり、エスケープしたりすることが出来る。
ちなみにシルク公爵家の使う転移魔法とエスケープはほとんど同じ意味を持つ。
つまり、総じてアルマニア公爵家は最強なのだ。
その力は年々増しており、政治を執り行う面々の中にもアルマニアの流れを引くものが増えた。
増えすぎた権力は国王にとっての脅威となり得る。
しかもアルマニア公爵家はアデール国の武器の管理を任されているため、難癖をつけて爵位を奪いなどしたら、王家が潰されかねない。
そのため、アルマニア公爵家以外の二つの公爵家の力を強めようというのが今回の婚姻の狙いなのだ。
「幸いお前とブライト君は幼馴染で見知った仲であろう。何処の馬の骨かわからない男なら断固拒否するところであるが、ブライト君ならと受け入れた次第だ」
「まあ……確かにそうですね。ブライト様の事は幼い頃から知っておりますが」
母同士が知り合いであったため、幼い頃からブライトと顔を合わせる機会が多くあったが、二人の間に恋愛感情は一切存在していない。
「すぐにでも婚約を済ませ、半年後には結婚発表となる予定だ。急ですまないが、許しておくれ」
「お父様のせいではありませんもの」
申し訳なさそうに頭を下げた公爵は、ルーシーの言葉を聞くとホッとしたように顔を上げ、微笑んだ。
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