上 下
1 / 38

1

しおりを挟む
 「では私がブライト様の元へ嫁げば、全てが丸く収まるということですよね? 」

 「……ああ、お前を王家と公爵家のいざこざに巻き込みたくはなかったのだが……それが我が公爵家とこのアデール国のためだ」

 アデール国の中でも一際目を引く立派な屋敷の一室は緊迫した空気に包まれていた。

 眉間に皺を寄せながら机に向かって座っているのはシルク公爵。
 そしてその正面に凛と立つのはシルク公爵の愛娘であるルーシーだ。

 シルク公爵家はアデール国の中で三大公爵家と呼ばれる名門貴族の一つである。
 ちなみに残り二つの公爵家はビスク公爵家とアルマニア公爵家で、冒頭に出てきたブライトはビスク公爵家の嫡男である。

 「お前も知っている通り、昨今のアルマニア公爵家の発展は凄まじいものだ。国王陛下はアルマニア公爵家がこれ以上の権力を持つことを恐れている」

 「そのため残りの二つの公爵家の結び付きを強めようということですか」

 「その通りだ。王家には年頃の王子王女が少ない。王太子殿下には既に隣国の王女が嫁ぐ事が決まっているし、残りの王女も他国へ嫁ぐことが前々から取り決められていた。となると、王家と公爵家が結びつくことは難しい。だから公爵家同士を結び付けようと考えたんだろう」

 三大公爵家の一つアルマニア公爵家は、武器の輸出入で巨大な富を手に入れている一族だ。
 代々武力と魔力に優れた者が生まれる一族で、その力は王家をも凌ぐと言われている。

 (アルマニア公爵家がその気になれば、王家など一握りだとか……)

 「もちろん我が公爵家も魔力を持つが、アルマニア公爵家のそれとは比にならない」

 シルク公爵家が得意とする魔法は治癒魔法と転移魔法だ。
 治癒魔法、転移魔法共にその名の通り傷を癒やし、姿を移動させることが出来る魔法だ。

 そしてビスク公爵家の得意とする魔法は身近にいる人の心を読む認識魔法と、公爵家の血筋を引く者の知能を未来永劫高めてくれる知能魔法である。

 対するアルマニア公爵家の得意とする魔法は攻撃魔法と忍術魔法。
 攻撃魔法は数多くの魔法の中でも最も最強(最恐)と言われており、武器の威力を高め国一つ吹っ飛ばすほどの攻撃を行うことが出来る。
 忍術魔法はその場に留まったまま姿を消して見えなくしたり、エスケープしたりすることが出来る。

 ちなみにシルク公爵家の使う転移魔法とエスケープはほとんど同じ意味を持つ。

 つまり、総じてアルマニア公爵家は最強なのだ。
 
 その力は年々増しており、政治を執り行う面々の中にもアルマニアの流れを引くものが増えた。

 増えすぎた権力は国王にとっての脅威となり得る。
 しかもアルマニア公爵家はアデール国の武器の管理を任されているため、難癖をつけて爵位を奪いなどしたら、王家が潰されかねない。

 そのため、アルマニア公爵家以外の二つの公爵家の力を強めようというのが今回の婚姻の狙いなのだ。

 
 「幸いお前とブライト君は幼馴染で見知った仲であろう。何処の馬の骨かわからない男なら断固拒否するところであるが、ブライト君ならと受け入れた次第だ」

 「まあ……確かにそうですね。ブライト様の事は幼い頃から知っておりますが」

 母同士が知り合いであったため、幼い頃からブライトと顔を合わせる機会が多くあったが、二人の間に恋愛感情は一切存在していない。

 「すぐにでも婚約を済ませ、半年後には結婚発表となる予定だ。急ですまないが、許しておくれ」

 「お父様のせいではありませんもの」

 申し訳なさそうに頭を下げた公爵は、ルーシーの言葉を聞くとホッとしたように顔を上げ、微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

離れた途端に「戻ってこい」と言われても困ります

ネコ
恋愛
田舎貴族の令嬢エミリーは名門伯爵家に嫁ぎ、必死に家を切り盛りしてきた。だが夫は領外の華やかな令嬢に夢中で「お前は暗くて重荷だ」と追い出し同然に離縁。辛さに耐えかね故郷へ帰ると、なぜかしばらくしてから「助けてくれ」「戻ってくれ」と必死の嘆願が届く。すみませんが、そちらの都合に付き合うつもりはもうありません。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【10話・完結】王に婚約を勝手に決めらそうだったので、勝手にやり返してやりました。〜愛され姫の私に強要できることがあるとお思いですか?〜

BBやっこ
恋愛
王家の2番目の娘として育った。アイリーン・ライラック。姉兄から可愛がられ我が道を行っていた。年頃ということで、婚約話とそこから貴族が甘い蜜を吸おうとワラワラ擦り寄ってくる。 「うっとおしい」 その全てを却下したい。お姫様と周りの惨劇は始まらなかった。 一度も父と呼ばない、王。面会に行くは研究の事で頭がいっぱいのお母様。 そんな環境でも、王妃様や兄の王子、隣国に嫁に行き王妃になる姉と仲良く。 我が道を行く妹姫の話、10話。【完結】

処理中です...