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第2章
リンドとアレックス
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カリーナが王城へと移ってからも、リンドは城には執務のために通っていた。
だがもちろんカリーナと会うことはおろか、姿すらも見ていない。
その方がリンドにとっても都合が良かった。
カリーナがシークベルト公爵家を旅立ったあの日、最後まで直接顔を合わせる勇気が無かった。
馬車で去っていくカリーナの姿を見ているうちに、自らの不甲斐無さが悔しくなり、二度と戻らないカリーナへの愛を痛感した。
そして無意識に、涙が頬を伝っていたのだ。
「旦那様、今なら間に合いますぞ。馬車を引き止めさせましょうか?」
執事のトーマスがリンドの様子に気づき、困惑の表情を浮かべて尋ねる。
恐らくトーマスは、リンドの気持ちに気付いていたのだろう。
気づいた上で、敢えてこれまで何も言わずに、執事としての役割を淡々とこなしてきたのだ。
「いや、良いのだ。これが皆にとって最善の道であった」
今更引き返すことなどできない。
「本当に、よろしいのですか?」
この執事がここまで自分の意見を外に出すのは、非常に珍しい。
「どうした、トーマス。いつものお前らしくないではないか」
「……申し訳ありません。ですが、カリーナ様の事をお話しする旦那様の表情は、これまでに見たことのないお顔でしたので……その様なお方を、手放して良いのかと思いました次第でございます」
手放したくはなかった。
だが手放すしかなかったのだ。
「お前にはなんでもお見通しだな、トーマス。だが私は大丈夫だ。これからもシークベルト公爵家の事を第一に考えて動いていくつもりだ」
ある日の昼下がり、リンドがいつもの様に執務を行っていたところ、目の前に男が立ち塞がった。
「何の用だ……アレックス」
そう、その男とは国王アレックスだった。
「久しぶりだな、リンド」
カリーナが城へ入ることが決まってからというもの、アレックスはその環境を整えることに忙しくしており、執務室へ足を運ぶのは数週間ぶりのことであった。
正直言って、今1番顔を見たくない相手でもある。
「何用だ。今忙しい、端的に話してくれ」
もはやどちらが主君なのかわからないが、リンドとアレックスの間にはそれが許される関係性があった。
「カリーナが体調を崩して寝込んでしまっていてな」
ペンを走らせていたリンドの手が止まる。
「疲れが溜まっただけではないのか。ここしばらく忙しくしていただろう」
気にも留めぬような態度で答える。
「数日休めば治ると思っていたのだが、一度回復の兆しを見せたものの、数日後には再び寝込んでしまった。あまり食が進まず、塞ぎ込んでいると聞く」
思ったよりも事態は重いらしい。
「医者にはみせたのか」
「もちろんみせたさ。だが、揃いも揃ってどこも悪くないと言う。精神的なものではないかと」
城へ入り、アレックスの寵愛を一身に受けて幸せに暮らしていると思っていたと言うのに、一体カリーナは何を気に病んでいると言うのか。
「お妃教育が辛いのか?」
「いや、そうではないらしい。カリーナは元々賢い。そのくらいでへこたれるような女性ではない」
「では何だと言うのだ」
アレックスは珍しく躊躇していたが、意を決したようにこう言った。
「リンド、お前はシルビア公爵家のマリアンヌ嬢と婚約したのか?」
「……は? なぜそこで俺の話が出てくるんだ」
「いいから、答えてくれ」
「確かにシルビア公爵家から婚約の打診は来ている。両家にとって悪い話ではないからな。前向きな方向で検討すると返事をしたばかりだ」
マリアンヌに対しては特に何も思い入れはない。ただ美しい令嬢だというだけ。
だが三大公爵家の令嬢と結婚するということは、シークベルト公爵家にとっては今後の立場をより盤石なものにできると言う事だ。
結婚相手としてはこれ以上優良な相手はいない。
「やはり、か……」
アレックスは複雑な表情を浮かべる。
この国王が難しい顔をしているのは珍しい。
「だからさっきから一体何なんだ。カリーナの体調不良が俺に何の関係がある」
「マリアンヌ嬢の姉上のルアナ嬢が、カリーナにお前の婚約を話したそうだ。その場にいた侍従長に聞いた。その話をした後急に気分が悪くなった様だと」
(マリアンヌの姉のルアナ嬢……アレックスの婚約者候補だった令嬢か)
「そんな、たまたまだろう。今更俺が婚約したところで、カリーナには何も関係無い」
心がザワつくのを抑えて、努めて冷静に返答する。
「カリーナは、まだお前を忘れられていない」
アレックスは窓の外を遠い目で見つめながらそう言った。
「……お前らしく無いなアレックス。自信を無くしたか?」
いつも自信に満ち溢れていたあのアレックスが。
「最初は自信しかなかったが、今ではカリーナを失うことが怖い。本気で人を愛するというのはこういうことなんだな、リンド」
「カリーナはもう俺のことなんか気にしてない。お前のところへ行くと言うことは、カリーナ自身が決めたことだ」
リンドはまるで自分に言い聞かせる様に、アレックスにそう諭す。
「リンド、お前見舞いにいってくれないか」
一瞬、時が止まった様に感じた。
「はあっ!? 何を言ってるんだ、頭でもおかしくなったか?」
「不本意だが、お前の姿を見ればカリーナの気持ちも、少しは晴れるのでは無いかと思ってな」
カリーナに会える。
本当は最後に逢瀬を遂げた日から、会いたくてたまらなかった。
今でもカリーナの表情が鮮明に浮かぶ。
あの髪、あの唇、あの声。
全てがリンドをあの頃に呼び戻す。
だが。
「いや……俺と会ったところで婚約の話は変わらない。お互いの古傷を抉るだけだ。側にいるべきなのは俺じゃ無い。お前がそばにいてやってくれ」
リンドは断った。
これで本当にカリーナには愛想を尽かされてしまうだろう。
だがこれで良いのだ。今更何も変えられない。
会って余計に傷つけるくらいなら、会わない方がいい。
カリーナの涙は、見たく無い。
「そうか。……すまない、変な事を頼んだな」
アレックスは何かを考えるような表情を浮かべた後、自らの席に着き久しぶりの執務に取り掛かるのであった。
カリーナが床に伏せる様になってから、しばらく経ったある日のこと。
特に体調が悪いわけでも無いのにやる気が出ず、起き上がる気力も湧かない。
一日中天井を見上げて過ごしていた。
「カリーナ様、よろしいですか?」
控えめなノック音の後に続いて、メアリーがそっとドアを開ける。
「メアリー。ええ、大丈夫よ。どうかしたの?」
「実はカリーナ様宛てに、お手紙が届いております」
心なしかメアリーの表情に戸惑いが見える。
「まあ、それは珍しいわね。差出人はどなたかしら?」
カリーナに手紙など、滅多に無い事だ。
以前リンドに連れられて参加した舞踏会で出会ったローランド辺境伯が、カリーナが王妃となるにあたっての後ろ盾となることが決まった。
それ以来辺境伯とは数通手紙のやり取りをしているが、それだけである。
「それが……差出人が書いていないのです。カリーナ様にお渡しする様にと、下僕の男に庭で頼まれました」
「まあ……とりあえず封を開けて読んでみましょうか。話はそれからだわ」
カリーナは久方ぶりに起き上がり、ベッドの横のソファへと腰掛ける。
メアリーはそっと手紙を渡した。
「お気をつけください」
手紙の中に何かが仕掛けられている可能性も無くはない。
カリーナは慎重にナイフで手紙の封を切り開く。
中には1通の便箋が入っていた。
ゆっくりと折り畳まれた便箋を広げ、最初の文字が目に入った途端、カリーナの息が止まった。
「リンド……様……」
そこには、『親愛なるカリーナ嬢』という書き出しから始まる懐かしいリンドの筆跡が残されていた。
『親愛なるカリーナ嬢
アレックスから体調を崩して寝込んでいると聞いた。
見舞いに行けず、申し訳ない。
あれから元気にしているか?
こちらは変わらず、公爵家の皆も元気だ。
アレックスを信じて、残りの人生を幸せに生きてほしい。
私もシークベルトの為に身を捧げる覚悟で生きて行く。
そなたの幸せを祈っている。
リンド・シークベルト』
「リンド様……一目でいいから、お会いしたかった」
手紙を読み終えたカリーナの目からは涙が溢れ、手紙が涙で濡れないように、慌てて便箋をテーブルの上に置いた。
リンドの手紙には婚約の事こそ触れていなかったものの、公爵家に身を捧げる覚悟だと書いてある。
リンドなりの決別の手紙だとわかった。
「ひどいわ、それならいっそのことお手紙などいらなかった……」
リンドからの手紙はカリーナの気持ちを天上から地獄へと突き落とす、残酷なものであった。
「カリーナ様、私のような者が差し出がましい事を申しますがお許しください。公爵様のことはもうお忘れください。
私はカリーナ様がこれ以上傷付く姿を見たくはありません。公爵様のおっしゃる通り、国王陛下をご信頼して生きてくださいませ。メアリーはいつまでもあなたをお支えします」
メアリーはそう言ってカリーナの背中をさする。
メアリーも公爵家から城へ入り、慣れない環境であるのに常にカリーナのためを思い働いてくれている。
思えば、アレックスやメアリー、前国王夫妻など、多くの人々がカリーナを支えてくれていた。
「私はこれまで、自分の事しか考えていなかったのかもしれないわね……」
何があってもそばに居てくれるアレックスを裏切るように、リンドの事を考えては落ち込んでいた自分が恥ずかしい。
「今度こそリンド様のことは忘れよう」
これからは、自分を思ってくれている人々のために生きるのだ。
カリーナはそう呟くと、リンドからの手紙を破り、暖炉へと投げ入れた。
投げ入れられた便箋は灰となり、跡形も無くなったのだった。
だがもちろんカリーナと会うことはおろか、姿すらも見ていない。
その方がリンドにとっても都合が良かった。
カリーナがシークベルト公爵家を旅立ったあの日、最後まで直接顔を合わせる勇気が無かった。
馬車で去っていくカリーナの姿を見ているうちに、自らの不甲斐無さが悔しくなり、二度と戻らないカリーナへの愛を痛感した。
そして無意識に、涙が頬を伝っていたのだ。
「旦那様、今なら間に合いますぞ。馬車を引き止めさせましょうか?」
執事のトーマスがリンドの様子に気づき、困惑の表情を浮かべて尋ねる。
恐らくトーマスは、リンドの気持ちに気付いていたのだろう。
気づいた上で、敢えてこれまで何も言わずに、執事としての役割を淡々とこなしてきたのだ。
「いや、良いのだ。これが皆にとって最善の道であった」
今更引き返すことなどできない。
「本当に、よろしいのですか?」
この執事がここまで自分の意見を外に出すのは、非常に珍しい。
「どうした、トーマス。いつものお前らしくないではないか」
「……申し訳ありません。ですが、カリーナ様の事をお話しする旦那様の表情は、これまでに見たことのないお顔でしたので……その様なお方を、手放して良いのかと思いました次第でございます」
手放したくはなかった。
だが手放すしかなかったのだ。
「お前にはなんでもお見通しだな、トーマス。だが私は大丈夫だ。これからもシークベルト公爵家の事を第一に考えて動いていくつもりだ」
ある日の昼下がり、リンドがいつもの様に執務を行っていたところ、目の前に男が立ち塞がった。
「何の用だ……アレックス」
そう、その男とは国王アレックスだった。
「久しぶりだな、リンド」
カリーナが城へ入ることが決まってからというもの、アレックスはその環境を整えることに忙しくしており、執務室へ足を運ぶのは数週間ぶりのことであった。
正直言って、今1番顔を見たくない相手でもある。
「何用だ。今忙しい、端的に話してくれ」
もはやどちらが主君なのかわからないが、リンドとアレックスの間にはそれが許される関係性があった。
「カリーナが体調を崩して寝込んでしまっていてな」
ペンを走らせていたリンドの手が止まる。
「疲れが溜まっただけではないのか。ここしばらく忙しくしていただろう」
気にも留めぬような態度で答える。
「数日休めば治ると思っていたのだが、一度回復の兆しを見せたものの、数日後には再び寝込んでしまった。あまり食が進まず、塞ぎ込んでいると聞く」
思ったよりも事態は重いらしい。
「医者にはみせたのか」
「もちろんみせたさ。だが、揃いも揃ってどこも悪くないと言う。精神的なものではないかと」
城へ入り、アレックスの寵愛を一身に受けて幸せに暮らしていると思っていたと言うのに、一体カリーナは何を気に病んでいると言うのか。
「お妃教育が辛いのか?」
「いや、そうではないらしい。カリーナは元々賢い。そのくらいでへこたれるような女性ではない」
「では何だと言うのだ」
アレックスは珍しく躊躇していたが、意を決したようにこう言った。
「リンド、お前はシルビア公爵家のマリアンヌ嬢と婚約したのか?」
「……は? なぜそこで俺の話が出てくるんだ」
「いいから、答えてくれ」
「確かにシルビア公爵家から婚約の打診は来ている。両家にとって悪い話ではないからな。前向きな方向で検討すると返事をしたばかりだ」
マリアンヌに対しては特に何も思い入れはない。ただ美しい令嬢だというだけ。
だが三大公爵家の令嬢と結婚するということは、シークベルト公爵家にとっては今後の立場をより盤石なものにできると言う事だ。
結婚相手としてはこれ以上優良な相手はいない。
「やはり、か……」
アレックスは複雑な表情を浮かべる。
この国王が難しい顔をしているのは珍しい。
「だからさっきから一体何なんだ。カリーナの体調不良が俺に何の関係がある」
「マリアンヌ嬢の姉上のルアナ嬢が、カリーナにお前の婚約を話したそうだ。その場にいた侍従長に聞いた。その話をした後急に気分が悪くなった様だと」
(マリアンヌの姉のルアナ嬢……アレックスの婚約者候補だった令嬢か)
「そんな、たまたまだろう。今更俺が婚約したところで、カリーナには何も関係無い」
心がザワつくのを抑えて、努めて冷静に返答する。
「カリーナは、まだお前を忘れられていない」
アレックスは窓の外を遠い目で見つめながらそう言った。
「……お前らしく無いなアレックス。自信を無くしたか?」
いつも自信に満ち溢れていたあのアレックスが。
「最初は自信しかなかったが、今ではカリーナを失うことが怖い。本気で人を愛するというのはこういうことなんだな、リンド」
「カリーナはもう俺のことなんか気にしてない。お前のところへ行くと言うことは、カリーナ自身が決めたことだ」
リンドはまるで自分に言い聞かせる様に、アレックスにそう諭す。
「リンド、お前見舞いにいってくれないか」
一瞬、時が止まった様に感じた。
「はあっ!? 何を言ってるんだ、頭でもおかしくなったか?」
「不本意だが、お前の姿を見ればカリーナの気持ちも、少しは晴れるのでは無いかと思ってな」
カリーナに会える。
本当は最後に逢瀬を遂げた日から、会いたくてたまらなかった。
今でもカリーナの表情が鮮明に浮かぶ。
あの髪、あの唇、あの声。
全てがリンドをあの頃に呼び戻す。
だが。
「いや……俺と会ったところで婚約の話は変わらない。お互いの古傷を抉るだけだ。側にいるべきなのは俺じゃ無い。お前がそばにいてやってくれ」
リンドは断った。
これで本当にカリーナには愛想を尽かされてしまうだろう。
だがこれで良いのだ。今更何も変えられない。
会って余計に傷つけるくらいなら、会わない方がいい。
カリーナの涙は、見たく無い。
「そうか。……すまない、変な事を頼んだな」
アレックスは何かを考えるような表情を浮かべた後、自らの席に着き久しぶりの執務に取り掛かるのであった。
カリーナが床に伏せる様になってから、しばらく経ったある日のこと。
特に体調が悪いわけでも無いのにやる気が出ず、起き上がる気力も湧かない。
一日中天井を見上げて過ごしていた。
「カリーナ様、よろしいですか?」
控えめなノック音の後に続いて、メアリーがそっとドアを開ける。
「メアリー。ええ、大丈夫よ。どうかしたの?」
「実はカリーナ様宛てに、お手紙が届いております」
心なしかメアリーの表情に戸惑いが見える。
「まあ、それは珍しいわね。差出人はどなたかしら?」
カリーナに手紙など、滅多に無い事だ。
以前リンドに連れられて参加した舞踏会で出会ったローランド辺境伯が、カリーナが王妃となるにあたっての後ろ盾となることが決まった。
それ以来辺境伯とは数通手紙のやり取りをしているが、それだけである。
「それが……差出人が書いていないのです。カリーナ様にお渡しする様にと、下僕の男に庭で頼まれました」
「まあ……とりあえず封を開けて読んでみましょうか。話はそれからだわ」
カリーナは久方ぶりに起き上がり、ベッドの横のソファへと腰掛ける。
メアリーはそっと手紙を渡した。
「お気をつけください」
手紙の中に何かが仕掛けられている可能性も無くはない。
カリーナは慎重にナイフで手紙の封を切り開く。
中には1通の便箋が入っていた。
ゆっくりと折り畳まれた便箋を広げ、最初の文字が目に入った途端、カリーナの息が止まった。
「リンド……様……」
そこには、『親愛なるカリーナ嬢』という書き出しから始まる懐かしいリンドの筆跡が残されていた。
『親愛なるカリーナ嬢
アレックスから体調を崩して寝込んでいると聞いた。
見舞いに行けず、申し訳ない。
あれから元気にしているか?
こちらは変わらず、公爵家の皆も元気だ。
アレックスを信じて、残りの人生を幸せに生きてほしい。
私もシークベルトの為に身を捧げる覚悟で生きて行く。
そなたの幸せを祈っている。
リンド・シークベルト』
「リンド様……一目でいいから、お会いしたかった」
手紙を読み終えたカリーナの目からは涙が溢れ、手紙が涙で濡れないように、慌てて便箋をテーブルの上に置いた。
リンドの手紙には婚約の事こそ触れていなかったものの、公爵家に身を捧げる覚悟だと書いてある。
リンドなりの決別の手紙だとわかった。
「ひどいわ、それならいっそのことお手紙などいらなかった……」
リンドからの手紙はカリーナの気持ちを天上から地獄へと突き落とす、残酷なものであった。
「カリーナ様、私のような者が差し出がましい事を申しますがお許しください。公爵様のことはもうお忘れください。
私はカリーナ様がこれ以上傷付く姿を見たくはありません。公爵様のおっしゃる通り、国王陛下をご信頼して生きてくださいませ。メアリーはいつまでもあなたをお支えします」
メアリーはそう言ってカリーナの背中をさする。
メアリーも公爵家から城へ入り、慣れない環境であるのに常にカリーナのためを思い働いてくれている。
思えば、アレックスやメアリー、前国王夫妻など、多くの人々がカリーナを支えてくれていた。
「私はこれまで、自分の事しか考えていなかったのかもしれないわね……」
何があってもそばに居てくれるアレックスを裏切るように、リンドの事を考えては落ち込んでいた自分が恥ずかしい。
「今度こそリンド様のことは忘れよう」
これからは、自分を思ってくれている人々のために生きるのだ。
カリーナはそう呟くと、リンドからの手紙を破り、暖炉へと投げ入れた。
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