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第1章
国王の求婚
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「……え、あの、これはどういう……」
とある日の昼下がり。
自室でくつろいでいたカリーナは、ドアをノックする音がしたため、ガチャリと開けた。
そこにいたのは、先日の舞踏会で会った男だ。
「やぁ、初めまして……ではないか。先日は名乗ることが出来ず申し訳ない。バルサミア国王アレックス・ウィザーだ。以後、お見知り置きを」
そう言って、アレックスはカリーナの手を取り、恭しく手の甲にキスをした。
「え、ええ!?」
相手が国王であることもすっかり忘れ、淑女としてのマナーも忘れて大声を出すカリーナ。
「ふっはははは!! カリーナ嬢、君は本当に最高だ。今日は君と話がしたくて来たんだ。かけてもいいかい?」
アレックスはそんなカリーナの様子を見て吹き出しながら、楽しそうだ。
「ええ……まあ、はい……」
アレックスはカリーナの正面のソファにどしりと腰掛ける。
その風貌はいかにも国王といった堂々としたものだ。
カリーナは慌ててメアリーを呼び、お茶とお菓子を用意させた。
「この様な形で急にいらっしゃるなど、聞いておりません。リンド様はどうなされたのですか?」
あまりに突然の訪問で、カリーナは普段着のままである。
第一、この屋敷に入ってここまで来るためには、リンドの許可が必要ではないのか。
「ああ。あいつの許可を待っていたら、いつまで経っても君に会えそうにない。だからリンドがいない隙にやって来たってワケさ」
なんて自由な国王なんだ。
これでは周りの側近達は苦労するだろう。
「今、しょうもない国王だと思っただろう? 顔に出てるよ、カリーナ」
「もうっやめてくださいっ事実ですもの!」
アレックスは国王だが、リンドに対する時よりも自然体でいられる事に、カリーナは気づいた。
リンドは日によって気分の上がり下がりが目立つ。
若くして公爵家を継いだ分、抱えている悩みも多いのかもしれないが……
その点、アレックスは太陽の様に明るい人柄だ。
やはりアレックスの方がリンドより器が大きいと言うことなのであろう。
これが国王たるもの。
そして何より、リンド同様に美丈夫である。
金色の髪は輝き、凛々しい眉にエメラルドの瞳。そして鍛え上げられた胸板は洋服の上からでも見てわかる。
「と、冗談はここまでにしてと。カリーナ嬢、今日は君に大切な話があるんだ」
アレックスは組んでいた足を戻し、佇まいを正す。
「カリーナ嬢、僕と結婚してほしい。バルサミア国の王妃となってくれないだろうか?」
一瞬、カリーナを取り巻く時間が止まった。
(アレックス様は何を言っているのかしら……結婚? 王妃?)
「……おっしゃっている意味がよくわかりませんわ……」
「では何度でも言おう。カリーナ、私の妻となってほしい」
アレックスは熱を帯びた瞳でカリーナを見つめる。
熱い視線から逃れることが出来ない。
「リンド様は……リンド様にお聞きしてからでないと……」
無意識にリンドの名前が出ていた。
国王の意志にリンドが反対できるわけがないのだが。
なぜかカリーナは手放しで喜ぶことが出来なかった。
「リンドの許可は必要ない。たとえリンドが反対しても、僕は国王だ。シークベルト家への王命として君を妻にすることができる。僕が聞きたいのはカリーナ、君の意志だ」
「私の……意志……」
国王の王妃となる。
敗戦国の奴隷の身として、これほどの栄誉はないであろう。
高位貴族の後妻や愛人にならずに済むということは、アルシェ侯爵家の誇りも守ることができる。
だが国王と元侯爵令嬢では余りにも身分が違いすぎる。
国民の理解は得られるのであろうか?
それに、国王には公爵家の令嬢二人がれ婚約者候補として内定していたはず。
今自分が王妃になれば、シークベルト公爵家の立場が危うくなるのではないか?
「シークベルト家がどうなるのか、心配しているのではないかい?」
アレックスはなんでもお見通しの様だ。
「リンドにも話したが、令嬢達には然るべき嫁ぎ先を用意するし、各公爵家にも家業の融資を増やすつもりだ。君が心配する様なことは何もない」
さすが賢王と呼ばれるだけあるお方だ。
「君の意志だけ教えてほしい」
カリーナにすぐ答えは出せそうになかった。
いや、心のどこかでは決まっているのかもしれない。この話を受けようと。
リンドから離れて王妃となれば、リンドの事を忘れることができる。
リンドもようやく煩わしい悩み事から解放されて、マリアンヌ嬢と結婚できるようになる。
シークベルト公爵家は王家とより縁深くなり、立場も盤石なものになるだろう。
でもまずは。
アレックスに答えを伝える前に、リンドに自らの決心を伝えたかった。
「私の中での答えは決まりつつあります……ですが、まずはリンド様にその答えをお伝えしてからでもよろしいでしょうか? これまで大変お世話になったリンド様には、まず一番にご報告したいのです。ワガママを言って申し訳ありません」
カリーナは立ち上がり頭を下げる。
「そう言うと思ってたよ。君がリンドに惹かれていることも知っている。でも僕は気にしない。僕の元へ来てくれたなら、リンドの事を忘れさせてあげよう」
アレックスはそういうと、カリーナの元に一歩前進し、腕を引いて軽く口付けた。
「んっ……」
ちゅっと音を立てて唇が離れる。
「やはり、思った通りだカリーナ。君は僕の運命の人だ。良い返事を待っているよ」
唖然とするカリーナを残し、バルサミア国王は颯爽と去っていった。
「もう、なんなのかしら……みんな強引だわ」
そう呟きカリーナは唇にそっと手を触れる。
不思議なことに、アレックスとのキスにも嫌な感じはしなかった。
「リンド様に、話さなければ……」
カリーナはリンドの帰りを待っていたが、その日リンドは夜中まで帰ってこなかった。
とある日の昼下がり。
自室でくつろいでいたカリーナは、ドアをノックする音がしたため、ガチャリと開けた。
そこにいたのは、先日の舞踏会で会った男だ。
「やぁ、初めまして……ではないか。先日は名乗ることが出来ず申し訳ない。バルサミア国王アレックス・ウィザーだ。以後、お見知り置きを」
そう言って、アレックスはカリーナの手を取り、恭しく手の甲にキスをした。
「え、ええ!?」
相手が国王であることもすっかり忘れ、淑女としてのマナーも忘れて大声を出すカリーナ。
「ふっはははは!! カリーナ嬢、君は本当に最高だ。今日は君と話がしたくて来たんだ。かけてもいいかい?」
アレックスはそんなカリーナの様子を見て吹き出しながら、楽しそうだ。
「ええ……まあ、はい……」
アレックスはカリーナの正面のソファにどしりと腰掛ける。
その風貌はいかにも国王といった堂々としたものだ。
カリーナは慌ててメアリーを呼び、お茶とお菓子を用意させた。
「この様な形で急にいらっしゃるなど、聞いておりません。リンド様はどうなされたのですか?」
あまりに突然の訪問で、カリーナは普段着のままである。
第一、この屋敷に入ってここまで来るためには、リンドの許可が必要ではないのか。
「ああ。あいつの許可を待っていたら、いつまで経っても君に会えそうにない。だからリンドがいない隙にやって来たってワケさ」
なんて自由な国王なんだ。
これでは周りの側近達は苦労するだろう。
「今、しょうもない国王だと思っただろう? 顔に出てるよ、カリーナ」
「もうっやめてくださいっ事実ですもの!」
アレックスは国王だが、リンドに対する時よりも自然体でいられる事に、カリーナは気づいた。
リンドは日によって気分の上がり下がりが目立つ。
若くして公爵家を継いだ分、抱えている悩みも多いのかもしれないが……
その点、アレックスは太陽の様に明るい人柄だ。
やはりアレックスの方がリンドより器が大きいと言うことなのであろう。
これが国王たるもの。
そして何より、リンド同様に美丈夫である。
金色の髪は輝き、凛々しい眉にエメラルドの瞳。そして鍛え上げられた胸板は洋服の上からでも見てわかる。
「と、冗談はここまでにしてと。カリーナ嬢、今日は君に大切な話があるんだ」
アレックスは組んでいた足を戻し、佇まいを正す。
「カリーナ嬢、僕と結婚してほしい。バルサミア国の王妃となってくれないだろうか?」
一瞬、カリーナを取り巻く時間が止まった。
(アレックス様は何を言っているのかしら……結婚? 王妃?)
「……おっしゃっている意味がよくわかりませんわ……」
「では何度でも言おう。カリーナ、私の妻となってほしい」
アレックスは熱を帯びた瞳でカリーナを見つめる。
熱い視線から逃れることが出来ない。
「リンド様は……リンド様にお聞きしてからでないと……」
無意識にリンドの名前が出ていた。
国王の意志にリンドが反対できるわけがないのだが。
なぜかカリーナは手放しで喜ぶことが出来なかった。
「リンドの許可は必要ない。たとえリンドが反対しても、僕は国王だ。シークベルト家への王命として君を妻にすることができる。僕が聞きたいのはカリーナ、君の意志だ」
「私の……意志……」
国王の王妃となる。
敗戦国の奴隷の身として、これほどの栄誉はないであろう。
高位貴族の後妻や愛人にならずに済むということは、アルシェ侯爵家の誇りも守ることができる。
だが国王と元侯爵令嬢では余りにも身分が違いすぎる。
国民の理解は得られるのであろうか?
それに、国王には公爵家の令嬢二人がれ婚約者候補として内定していたはず。
今自分が王妃になれば、シークベルト公爵家の立場が危うくなるのではないか?
「シークベルト家がどうなるのか、心配しているのではないかい?」
アレックスはなんでもお見通しの様だ。
「リンドにも話したが、令嬢達には然るべき嫁ぎ先を用意するし、各公爵家にも家業の融資を増やすつもりだ。君が心配する様なことは何もない」
さすが賢王と呼ばれるだけあるお方だ。
「君の意志だけ教えてほしい」
カリーナにすぐ答えは出せそうになかった。
いや、心のどこかでは決まっているのかもしれない。この話を受けようと。
リンドから離れて王妃となれば、リンドの事を忘れることができる。
リンドもようやく煩わしい悩み事から解放されて、マリアンヌ嬢と結婚できるようになる。
シークベルト公爵家は王家とより縁深くなり、立場も盤石なものになるだろう。
でもまずは。
アレックスに答えを伝える前に、リンドに自らの決心を伝えたかった。
「私の中での答えは決まりつつあります……ですが、まずはリンド様にその答えをお伝えしてからでもよろしいでしょうか? これまで大変お世話になったリンド様には、まず一番にご報告したいのです。ワガママを言って申し訳ありません」
カリーナは立ち上がり頭を下げる。
「そう言うと思ってたよ。君がリンドに惹かれていることも知っている。でも僕は気にしない。僕の元へ来てくれたなら、リンドの事を忘れさせてあげよう」
アレックスはそういうと、カリーナの元に一歩前進し、腕を引いて軽く口付けた。
「んっ……」
ちゅっと音を立てて唇が離れる。
「やはり、思った通りだカリーナ。君は僕の運命の人だ。良い返事を待っているよ」
唖然とするカリーナを残し、バルサミア国王は颯爽と去っていった。
「もう、なんなのかしら……みんな強引だわ」
そう呟きカリーナは唇にそっと手を触れる。
不思議なことに、アレックスとのキスにも嫌な感じはしなかった。
「リンド様に、話さなければ……」
カリーナはリンドの帰りを待っていたが、その日リンドは夜中まで帰ってこなかった。
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