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第1章

近づく距離③★

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 リンドはカリーナの鎖骨にちゅっと唇をつける。

「んっ……」

 カリーナが目を閉じる。
 ツーっと唇を下に移動させ、胸元まで降りていく。
 その間にも、膨らみを揉みしだく手に休みはない。
 リンドはカリーナの膨らみをそっと口に含んだ。

「あっそのような……!」

 カリーナが身をよじる。

 ——甘い。なんて甘いんだ。

 リンドは初めての感覚に驚きを隠せない。
 舌で乳首を転がすように舐めると、カリーナの嬌声も一段と大きくなる。

「あぁ! リンド様……。何かがおかしくなってしまいそうです」

 もう片方の乳首をそっと指で摘むと、カリーナの体がビクビクっと震える。
 乳首は真っ赤に充血してはち切れそうだ。
 カリーナの真っ白な肌によく映える。

 リンドはそれでも愛撫をやめようとはしない。
 むしろより一層激しく刺激する。

「お願いします、これ以上はもう……あっダメ! あっあっ何かが来てしまいます!」

 ガクガクガクっとカリーナの体が痙攣し、カリーナは顔を蒸気させて背もたれによりかかる。
 達してしまったカリーナは、どこか惚けたような表情でとろんとリンドを見つめた。
 その表情が、リンドをさらに欲情させる。

「胸だけで達してしまったか。もっと楽にしてやろう」

 リンドはドレスに隠された秘部に手を伸ばそうとした。
 ……そのとき。

「公爵様、屋敷に到着致しますのでご準備を」

 御者から到着の合図がかかった。
 店から屋敷はそれほど近かったであろうか?
 まだまだかかるはずだろうに。

 リンドは慌てて手を引っ込め、カリーナも顔を赤らめながらはだけたドレスを急いで直す。
 馬車は屋敷の入り口で止まり、御者が扉を開ける。


「……すまなかった。今日はご苦労であったな。舞踏会は明日の晩だ。それまでゆっくり休むと良い」

「リンド様……」

 先ほどの情熱が嘘のように、公爵は元の冷徹な表情を取り戻し、早口でそう述べると先に屋敷の中へと入っていった。
 カリーナは自室に戻ると、人払いをしてそっと下着の上から秘部に触れてみた。
 下着はしっとりと湿り気を帯びている。

「嫌だわ、私ったら粗相をしてしまったのかしら」

 リンドと睦み合っている最中に、漏らしてしまったような感覚に襲われた。
 リンドの愛撫はあまりに心地よく、気がおかしくなるほどのものであった。

「誰かのものになるのならば、リンド様のものになりたい……でもそんなこと叶うわけないわね」

 舞踏会は明日の晩。
 早ければ明日にでも、カリーナの貰い手が見つかってしまうかもしれない。
 
「リンド様とキスなどしなければよかった。距離が近くなればなるほどに、胸が苦しい……」

 五年前、初めて会った時の関係のままであったならば、明日の舞踏会もそつなくこなせたであろうに。
 リンドはカリーナに特別な感情は抱いていないだろう。
 時間は止まってはくれない。

 ……同じ頃、リンドもまた自室でカリーナのことを思い、苦々しい感情を抱えていたのだった。



 翌日の夕刻。

「本日もとてもお綺麗でございますカリーナ様」

 まるで自信作だと言わんばかりの表情で、メアリーが鏡越しにこちらを見つめる。
 今日のメアリーの気合いの入り様は凄かった。

 香油を垂らした湯に浸かり、全身を磨き上げられるのはもちろんのこと、湯上がりにはジャスミンの香りの香水をまとった。
 髪にも香油を使用して、艶やかな黒髪が出来上がる。
 その髪を頭上高くまで上げてまとめ、仕上げにルビーのついた簪をさした。

 唇にはいつもよりも濃い紅が使われ、頬にも血色の良いピンク色の粉がはたかれた。
 アイラインも濃く太く、瞼の上にはカリーナによく似合う紫色のアイシャドウを。

 そして最後にリンドからの贈り物である、ルビーの首飾りと、お揃いの耳飾りをつけてもらう。
 首飾りにはルビーの周りを取り囲む様に小さなダイヤモンドが散りばめられており、非常に高価なものであることがわかる。

 今日のためにリンドに見立ててもらったドレスは、より一層カリーナの体のラインを際立たせるデザインで、瞳の色がよく映えるように、漆黒に宝石を散りばめたものである。
 いつもより大胆に開いた肩口と胸元が、なんとも艶かしい。

 そうして鏡の前に立てば、なんとも妖艶な美女の出来上がりである。

「公爵様にもご満足いただけると思います」

 メアリーは得意気にそう言うと、部屋を退出した。

 カリーナは母の形見であるエメラルドの首飾りを引き出しからそっと取り出す。
 身につける事が許されなかったエメラルド色……。
 チクリと胸に痛みが走った様な気がしたが、その感覚に蓋をする。

「お母様見ていてくださいね。アルシェ侯爵令嬢としての誇りを見せて参ります」

 首飾りにそう告げ、触れるか触れないかのキスを送り、また引き出しに戻した。



「メアリーから支度が整ったと聞いたが」

 メアリーと入れ違いになるようにして、リンドがドアを開ける。

「とても似合っている。ドレスもそなたにぴったりだ」

 少し目を細めて眩しそうな顔をしながらリンドはそう言った。
 リンドは良くも悪くも変わらない、いつも通りだ。
 あのような出来事があったにもかかわらず、なぜ平然としていられるのであろうか。

「ん? しかしいつもと何やら香りが違うのではないか?」

「今日はメアリーの勧めで、ジャスミンの香水をまとってみました」

 クンクンと香りを嗅ぐようにリンドが顔を近づけると、カリーナはピクっとつい反応してしまう。
 だがしかしリンドは冷静だ。

「私はいつもの香りの方が好きだが……まあ仕方ない。行こう、馬車が外で待っている」

 そう言ってリンドはカリーナの手を取る。
 今宵のカリーナのエスコートはリンドだ。
 昨日と同じ様にリンドと馬車に乗り込むと、恥ずかしい記憶が蘇りそうになるが、正面に座るリンドの冷酷な顔を見てすぐに我に帰る。

「シルビア家の屋敷に到着したら、参加している貴族達一人一人への挨拶回りが待っている。そこでそなたの顔を知ってもらうことが今回の目的だ」

「はい、わかっております」

「貴族達の詳しい内情は、これまでの講義であらかた話してあるとは思うが……実際に顔を目にするとまた違うだろう。心配ない。私がフォローする」

「はい。ありがとうございます。」

 カリーナは馬車の中でペコリと頭を下げ、そこから言葉少なく窓の外を見つめていた。
 リンドはそんなカリーナの様子をチラリと一瞥したが、同じくそのまま窓の外に目線を移したのだった。
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