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第1章

奪われた唇 ★

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 (何が起こっているの? )

 突然掴まれた手首、奪われた唇。
 抵抗しようにも、後頭部を強く押さえつけられて身動きができない。

 (私、口付けされてる……!? )

 カリーナがその事実を飲み込むまでに時間がかかった。

「っは……嫌ですっ……こうしゃ、く……んんっ」

 唇を離そうとするが、その隙を取られて公爵の舌がカリーナの口内に侵入する。
 ねっとりとした温かいものが、カリーナの歯列をなぞり舌を絡め取る。
 チュッチュッと舌を吸われ、2人の唾液が合わさり、カリーナの口から零れ落ちる。

 カリーナにとってはもちろん初めての口付けである。
 息を継ぐタイミングが分からない。

「んっあんっ……あっ」

 勝手に漏れ出るこんな嫌らしい声が自分の声だなんて信じられない。
 カリーナが十三歳で奴隷となってから、閨の出来事を教えてくれる人などいなかった。

 たかが口付けなのに、自分がおかしくなってしまいそうになる。
 息が苦しいのか、嫌いな公爵にキスされたことがショックなのかわからないが、涙が込み上げ頬をつたう。

「……っすまない……」

 カリーナの涙に気づいた公爵は、我に返ったように唇を離し、サッとカリーナから離れた。
 あまりの衝撃とその口付けの激しさに、カリーナは足元がふらつく。

「っと……大丈夫か? ここに座れ」

 倒れそうになるのを公爵に抱きとめられ、そばにあったソファに座るように促された。

「すまない……ただお前が私に反抗的な態度をとるからだ」 

 そう言って公爵は足早に部屋を立ち去った。
 謝罪のような、よくわからない言い訳を残して。
 部屋に一人残されたカリーナは、唖然としていた。

「何も考えられない……頭が真っ白よ。一体公爵様は何を考えて私にキスしたの?」

 何よりカリーナが一番ショックだったことは、公爵にキスされたことではない。
 あれほど嫌っていた公爵とのキスは、意外にも心地良かったのだ。
 柔らかく熱い唇が記憶に残っている。

 ——体がポカポカして、お腹の下の方がジンと熱くなるような……。

 未だに鼓動は速いままだ。
 公爵がカリーナの涙に気づいて体を離した時、ホッとすると同時に名残惜しさも感じてしまった自分が恥ずかしい。
 まだ公爵のぬくもりをしっとりと残した唇に触れる。
 ただ冷酷だとしか思っていなかった公爵に、初めて男としての一面を感じた瞬間であった。

 
「しっかりしなさいカリーナ。公爵はあなたを売り飛ばそうとしているのよ」

 慌てて自らにそう語りかける。
 少し揺らいだ先程までの決心を思い出させるように、自らを奮い立たせたカリーナであった。
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