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第1章
リンド・シークベルト①
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始まりはいつもと同じだった。
敗戦国の女子どもが奴隷となり、相手国に売られるのはよくある事。
そこに同情の余地はなく、今回もそのつもりだった。
「ほお。アルシェ侯爵令嬢か」
国王による采配の後に、我が公爵家配属となった奴隷達の一覧を確認する。
——カリーナ・アルシェ。十三歳。
アルシェ侯爵の一人娘で侯爵夫妻は戦争にて死亡……か。
奴隷の中に貴族の端くれが混ざることはたまにあるが、侯爵令嬢は極めて珍しい。
ということは、その分価値があるのだ。
貴族の中には価値ある女性を侍らせる事で、自らの権力誇示に利用する者がいる。
そうしたやつらは非常に高い値で奴隷を買い取ってくれたり、優先的に輸入物の取引を行ってくれるなど公爵家に有益な存在となる。
「まだ十三歳だ。磨きがいがある」
こうして俺はカリーナを公爵家に迎え入れた。
初めて見たカリーナは薄汚れていて、とてもじゃないが侯爵令嬢には見えない。
ただ印象的だったのはその瞳で、自分と同じく珍しいエメラルド色だった。
瞳の色で相手との相性がわかる、というほど、この国では占いのように瞳の色での相性が信じられている。
瞳の色が同じ系列の色であればあるほど、相性が良く惹かれ合うのだそうだ。
「……何を……俺としたことが。バカバカしい」
「珍しいね、リンド。独り言かい? 」
バルサミア国にそびえ立つ巨大な城の一室、ここは国王とその側近達が執務を行う部屋である。
国王である従兄弟のアレックスに話しかけられ、自分が心ここに在らずだった事に気づいた。
「いや、なんでもない」
「アルハンブラからきた侯爵令嬢上がりの奴隷のことかい? 」
俺は昔からこの従兄弟が苦手だ。
幼い頃からいつだってこの男には敵わない。
飄々としているくせに、全ての物事を見抜いているような目。
そして実際に国王として彼が即位してからは、バルサミアも成長に順調に国益を伸ばしているというのが憎たらしい。
「いや……」
「まだ十三歳なのであろう? 奴隷として適当な雑務をさせつつ、様子を見れば良いではないか。それにしても、そこまでお前の記憶に残る娘は今度一目見ておきたいものだ」
「そういうわけではない……!」
「奴隷の娘はさておき、お前の奥方探しはどうするのだ。前公爵だった義伯父上が亡くなって早七年になる。バルサミア国随一の権力を持つシーベルト公爵家に未だ後継ぎは愚か、妻すらいないとするは問題だぞ」
アレックスに痛いところを突かれる。
七年前に父が急逝し、公爵を継いでいく決心もつかぬまま勢いでここまできてしまった。
正直、やるべきことはまだまだある。
今妻を娶りその相手をしている時間などないのだ。
「以前シーベルトの家格と見合う貴族の娘のリストを送ってやっただろう。まあお前のことだ、目を通してもいないのだろうが」
これもまた図星である。
正直父が亡くなってからというもの、当時十代だった俺をうまく取り込んで公爵家を支配しようという目論見を持つ貴族が増えた。
毎日のように娘を連れて挨拶に伺う様子は非常に滑稽で反吐が出る。
隣にいる令嬢達も、皆同じような髪型服装をして、同じ受け答えをする。
自分というものがないのか。
若くして公爵を継いだ未熟者と見られないよう肩肘を張り、寝る間も惜しんで執務を行なってきた。
肩書きだけで寄ってくるような者達は信用できない。
若輩者だという理由で馬鹿にされ、騙されかけたこともある。
もっとも、必死の努力で今はそのような事は無くなったが。
「おい、リンド。聞いてるのか? 」
再びアレックスに問いかけられ、意識を戻す。
「ああ。そのうちにな。今はまだだ」
「その台詞を何度聞いたことやら」
俺は一生恋愛とは無縁だ。そう思っていた。
敗戦国の女子どもが奴隷となり、相手国に売られるのはよくある事。
そこに同情の余地はなく、今回もそのつもりだった。
「ほお。アルシェ侯爵令嬢か」
国王による采配の後に、我が公爵家配属となった奴隷達の一覧を確認する。
——カリーナ・アルシェ。十三歳。
アルシェ侯爵の一人娘で侯爵夫妻は戦争にて死亡……か。
奴隷の中に貴族の端くれが混ざることはたまにあるが、侯爵令嬢は極めて珍しい。
ということは、その分価値があるのだ。
貴族の中には価値ある女性を侍らせる事で、自らの権力誇示に利用する者がいる。
そうしたやつらは非常に高い値で奴隷を買い取ってくれたり、優先的に輸入物の取引を行ってくれるなど公爵家に有益な存在となる。
「まだ十三歳だ。磨きがいがある」
こうして俺はカリーナを公爵家に迎え入れた。
初めて見たカリーナは薄汚れていて、とてもじゃないが侯爵令嬢には見えない。
ただ印象的だったのはその瞳で、自分と同じく珍しいエメラルド色だった。
瞳の色で相手との相性がわかる、というほど、この国では占いのように瞳の色での相性が信じられている。
瞳の色が同じ系列の色であればあるほど、相性が良く惹かれ合うのだそうだ。
「……何を……俺としたことが。バカバカしい」
「珍しいね、リンド。独り言かい? 」
バルサミア国にそびえ立つ巨大な城の一室、ここは国王とその側近達が執務を行う部屋である。
国王である従兄弟のアレックスに話しかけられ、自分が心ここに在らずだった事に気づいた。
「いや、なんでもない」
「アルハンブラからきた侯爵令嬢上がりの奴隷のことかい? 」
俺は昔からこの従兄弟が苦手だ。
幼い頃からいつだってこの男には敵わない。
飄々としているくせに、全ての物事を見抜いているような目。
そして実際に国王として彼が即位してからは、バルサミアも成長に順調に国益を伸ばしているというのが憎たらしい。
「いや……」
「まだ十三歳なのであろう? 奴隷として適当な雑務をさせつつ、様子を見れば良いではないか。それにしても、そこまでお前の記憶に残る娘は今度一目見ておきたいものだ」
「そういうわけではない……!」
「奴隷の娘はさておき、お前の奥方探しはどうするのだ。前公爵だった義伯父上が亡くなって早七年になる。バルサミア国随一の権力を持つシーベルト公爵家に未だ後継ぎは愚か、妻すらいないとするは問題だぞ」
アレックスに痛いところを突かれる。
七年前に父が急逝し、公爵を継いでいく決心もつかぬまま勢いでここまできてしまった。
正直、やるべきことはまだまだある。
今妻を娶りその相手をしている時間などないのだ。
「以前シーベルトの家格と見合う貴族の娘のリストを送ってやっただろう。まあお前のことだ、目を通してもいないのだろうが」
これもまた図星である。
正直父が亡くなってからというもの、当時十代だった俺をうまく取り込んで公爵家を支配しようという目論見を持つ貴族が増えた。
毎日のように娘を連れて挨拶に伺う様子は非常に滑稽で反吐が出る。
隣にいる令嬢達も、皆同じような髪型服装をして、同じ受け答えをする。
自分というものがないのか。
若くして公爵を継いだ未熟者と見られないよう肩肘を張り、寝る間も惜しんで執務を行なってきた。
肩書きだけで寄ってくるような者達は信用できない。
若輩者だという理由で馬鹿にされ、騙されかけたこともある。
もっとも、必死の努力で今はそのような事は無くなったが。
「おい、リンド。聞いてるのか? 」
再びアレックスに問いかけられ、意識を戻す。
「ああ。そのうちにな。今はまだだ」
「その台詞を何度聞いたことやら」
俺は一生恋愛とは無縁だ。そう思っていた。
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