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第1章

サナギから蝶へ②(僅かに★)

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 五年前、最後に会った時よりも少しやつれた顔。
 だけれども相変わらず美男子だ。

「こ、こ、こ、公爵様! 申し訳ありません、今の発言は忘れてください」

「……驚いたな。まるでサナギが蝶になったようだ、カリーナ。」

 幸か不幸か公爵は先程の発言をさほど気にしていない様子である。
 彼は目を見開きカリーナを上から下まで何度も確認している。

「メアリー様が上手に仕立ててくださいました」

「今後はメアリーと呼ぶが良い。あの者は本日からお前の専属女中とする。お前は本日をもって奴隷ではなくなる」

「それは、5年前にお話しされていた目的の為でしょうか? 」

「そうだ、そのためにこの5年間お前を育ててきたと言っても過言ではない。お前は理想通り美しく育った。いやむしろ期待以上だ。ハッキリ言って驚いた。その美貌なら貴族達にも引き手数多であろう」

 やはり自分は物としてしか見られていない。
 シークベルト公爵家の物なのだ。
 カリーナの心の中にどす黒いものが広がって行く。

「そこでだ、カリーナ。これからお前には私と共に舞踏会に参加して、社交会に顔を知られるようにしてもらう」

「……それは何のためにでございますか? 」 

「せっかくの美貌もこの屋敷に隠していては見つけてもらえない。貴族達にお前の存在をアピールする良いチャンスなのだ」

 まるで見せ物である。
 奴隷になった時よりも辱めを受けているかもしれない。

「私は嫌です。そのような、見せ物になるのは」

「奴隷だったお前に拒否権などないであろう」

「これでも元は侯爵家の一員です。プライドというものがあります。それに、結局扱いは奴隷のままではありませんか」

「それが戦争で負けるということなんだ。カリーナ」

 一切表情を変えることなくそう告げるリンドの姿が、憎しみで歪む。

 (心底嫌いよ……こんな人)

 父と母はこんな奴等に殺されたのだと思うと殺意が沸く。
 生前優しかった父母の姿が目に浮かんだ。
 彼らはもう二度戻ってはこない。

 カリーナの瞳から涙がこぼれそうになるが、こんな男の前で流す涙は勿体ないと必死に堪えた。
 そしてカリーナは軽蔑の目線をレンドに送る。

「……そのような目で私を見るでない。」

 すると、途端に公爵の表情に戸惑いが生まれた。
 だがそんなことに気付かないカリーナはより一層嫌悪感を強める。

 さっと目を逸らしてしまえば良いものを、なぜかリンドもその視線から逃れることができない。

「っやめろと言っている! ……くそっ」

 公爵はズカズカとカリーナに近づき手首を掴むと、自らの方に引き寄せて唇を奪った。

「んっ……?! こうしゃくさっ……」

 一体何が起こったのかわからない。
 しばらくしてようやく口付けされたのだと言うことに気付き、必死に抵抗するが、抵抗もむなしく唇を完全に塞がれてしまうのだった。

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